発酵文化人類学
2020.02.22 UP

連載 | 発酵文化人類学 | 28 21世紀型奇祭の奉納酒

FOOD

 2019年秋に友人のメディアアーティスト・市原えつこさんが開催した“奇祭”「仮想通貨奉納祭」に、「発酵大臣」として参加。選り抜きのアヴァンギャルドな酒を奉納する企画「奇酒奉納」を行った。21世紀の祭りにふさわしいニューウェーブな醸造とは?

常識を覆すアヴァンギャルド酒

 僕が奇祭に奉納した酒は2種。群馬県・川場村の『土田酒造』の「菩提酛×山廃酛 麹9割9分」と、東京都・三軒茶屋の『WAKAZE』の「ブルーベリーどぶろく」。どちらも既存の日本酒の範疇に収まらない意欲的すぎる酒だ。

 まず『土田酒造』。室町時代に奈良の寺院で開発された、水に浸した生米から野生の乳酸菌を呼び込む菩提酛と、繊細なテクニックが必要とされる山廃酛を組み合わせた酒母です。これだけでもかなりヤバい雰囲気だが、さらに特殊な米の扱いを組み合わせる。通常では最低3〜4割は削るはずの米を白米程度の精米とし、さらに使用する米をほぼ麹米のみ(麹99パーセント)とする異様な酒だ。日本酒に詳しくない人向けにざっくり要約すると、削らずそのままの米を余さず麹にし、中世の野生の菌を利用した醸造法でつくるという、古いんだか、最新なんだかよくわからない、刺激的な味の発酵ブツなのであるよ。

 そして『WAKAZE』。もはや日本酒でなく、どぶろく。しかもブルーベリーを添加した鮮やかなピンクの酒だ。この『WAKAZE』は一部の日本酒ファンの間で大いに話題になっている新世代の醸造メーカー。都心の一等地にビールのマイクロブルワリーのような醸造所×パブのお店を新規出店している。「えっ? 醸造免許、どうしてるの?」と日本酒マニアだったら突っ込みたくなるはずだ。現在日本酒の新規の製造免許の取得はほぼ不可能レベルで難しい。しかし!『WAKAZE』はなんと! 清酒(日本酒)ではなく「その他の醸造酒」という、第三のビールや中国の特殊な酒の免許を使って伝統的な清酒「ではない」ニューウェーブな日本酒を世に送り出している蔵なのだ。ブルーベリーどぶろくと聞くとカクテルのようなイメージがあるが、味は日本酒ファンも納得する本格派だ。『土田酒造』と『WAKAZE』のどちらも、口にした祭りの参加者からは「日本酒とは思えない斬新な味!」「うまい甘い酸っぱいが複雑に押し寄せてきてクセになりそう」と大好評だったんだよ。

枠を外す温故知新

 神輿×仮想通貨という、伝統とデジタルを掛け合わせる市原えつこさんの祭りにふさわしい奉納酒は、同じく伝統と新たな発想の掛け合わせだ。

 近年の醸造技術の進化によって、何百年も前のレシピをハイクオリティで現代に蘇らせることができるようになった。菩提酛やどぶろく酒が「原始的な酒」ではなく、21世紀の「HIPな酒」になってしまうとはいったい誰が予想しただろうか?

 新世代のクリエイターは、過去から未来への単なる一方向の直線進化ではなく、伝統と革新が輪を描きながら上昇していくスパイラルなかたちで文化をアップデートしていく。

 江戸中期に生まれ、現代まで基本のフォーマットになっている清酒づくりとは違うパラダイムの日本酒醸造が、これから『土田酒造』や『WAKAZE』のような蔵によって「超古い×超新しい」の掛け合わせで誕生してしまうのかもしれない。楽しみすぎる!

※国外輸出用途に限って新規製造免許のハードルを下げる案も検討されている。

記事は雑誌ソトコト2020年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

文・イラスト●小倉ヒラク
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小倉ヒラク

おぐら・ひらく
発酵デザイナー。「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、全国の醸造家と商品開発や絵本・アニメの制作、ワークショップを開催。著書に『発酵文化人類学』(木楽舎)、最新刊は『日本発酵紀行』(D&DEPARTMENT PROJECT)。