スマイル アフリカ プロジェクト
2020.02.27 UP

連載 | スマイル アフリカ プロジェクト | 115 「ソトコト10キロ&5キロラン 2018」を、ケニアのナイロビ郊外で開催しました。

LOCAL

2009年から続く、「スマイル アフリカ プロジェクト」のランニング・イベント。
今年も7月1日に、ケニア・ナイロビ郊外の標高約2000メートルの地で開催しました。
トウモロコシ畑の中に設けられた、アフリカならではの自然を満喫できるコースでした。
そのイベント・レポートを特別編としてお届けします。

ランニング・イベントレポート特別編。

 7月1日。日本では早々に酷暑が始まっていた頃、この日のケニアの朝は雲の隙間に太陽が覗いても肌寒く、長袖を離すことができなかった。しかし、「スマイル アフリカ プロジェクト」のフロントランナー・高橋尚子は違った。

 「本当に絶好のマラソン日和!現役の時だったらガッツポーズしていますよ」と、すぐにでも走り出しそうな勢いで、「ソトコト 10キロ&5キロラン 2018」の始まりを歓迎した。

2年ぶりにケニアでのランニング・イベントに参加した高橋尚子さん(中央)。「今年もいっしょに走ろう!」と子どもたちに話しかける。
2年ぶりにケニアでのランニング・イベントに参加した高橋尚子さん(中央)。「今年もいっしょに走ろう!」と子どもたちに話しかける。

トウモロコシの回廊が、“道先案内人”。

 そもそも2009年から続いている、ケニアでのランニング・イベントだが、今回はいつもと様変わりした。その一つはコースだが、ナイロビ郊外の標高約2000メートルのキアンブ地区で、見渡すかぎりトウモロコシ畑が広がる緑の中が舞台だ。今年2月にもイベントを開催したこのコース。街中で交通を遮断し、排気ガスや埃が舞うようななかでランニング・イベントを開催したこともあったが、今回は身の丈ほどもあるトウモロコシの回廊が“道先案内人”なのだ。アフリカならではの、自然に抱かれた居心地のよさが、高橋が大喜びする理由であった。

5キロランは、シューズ寄贈を受けた子どもたち、一般参加者の子どもたち、そして大人はファンランを楽しんだ。
5キロランは、シューズ寄贈を受けた子どもたち、一般参加者の子どもたち。

 競技は10キロと5キロのコースに分かれ、10キロ男子に76人、女子23人、そしてキッズ主体の5キロ男子には152人、女子145人のランナーが集った。この前日にプロジェクトスタッフが訪ね、シューズ寄贈を行ったシャウリヤコ村からもさっそく、そのシューズに履き替えた138人が参加。日本人も『ナイロビ日本人学校』の子どもを含む62人がこの日を待ちわびた。その中の一人、在ケニア日本大使館の田代征児さんはこの日のために1か月間、走り込んできたという。

 「運動といえば、せいぜいゴルフだけでしたが、今回のために週末は3〜5キロ走りましたよ」

 ケニア人の中には国際大会に出場するほどの有力ランナーもスタートラインにつき、それぞれが熱い思いを持ったレースが期待された。

今年も実行委員長を務めたダグラス・ワキウリさん(右)。子どもも大人も楽しく安全にランニング・イベントに参加できるよう、コースを何度も自走して確かめた。
今年も実行委員長を務めたダグラス・ワキウリさん(右)。子どもも大人も楽しく安全にランニング・イベントに参加できるよう、コースを何度も自走して確かめた。

日本から贈られたシューズで力走。

 スタート地点では、ほとんどマラソンを走ったことのない子どもたちが緊張の面持ちで号砲を待っていた。そもそもシューズを履いて走ること自体が初めての子もいる。高橋の指導による準備体操でリラックスし、笑顏もこぼれ始めたが、スタートの合図と同時に、土埃が上がるほどの猛ダッシュで駆け出していった。その中には、赤ちゃんを抱っこした母子ランナーの微笑ましい姿もあった。

10キロランも一斉にスタート。有名な選手も参加。
10キロランも一斉にスタート。有名な選手も参加。

 このランニング・イベントは、シューズを履いて走る喜びを知る子どもや、その喜びをさらにオリンピック出場への夢にまで広げる子どもも生まれた大会であり、もともと、勝負に拘泥せず、誰もが走ることをとおして笑顏になることを目指している。

 まず、5キロランで最初にゴールへ飛び込んだのはシャウリヤコ村の子どもだった。寄贈されたシューズでの快走である。

 また、同じく上位に入ったニコラス君(14歳)は、喜びをこう話してくれた。

 「シューズに感謝です。人生で1回かもしれないランニング・イベントに参加する機会を得られて本当にうれしい。シューズを履いて走っている時はすばらしい気持ちでいっぱいでした」

5キロランは、シューズ寄贈を受けた子どもたち、一般参加者の子どもたち、そして大人はファンランを楽しんだ。
5キロランは、シューズ寄贈を受けた子どもたち。

 日本からのシューズが素敵な笑顏も運んだのである。女子2位のフィルスティさん(13歳)は、「ランニング・イベントで走れるシューズを贈ってくれた日本の方に感謝です。このシューズでさらにトレーニングを続けます」と話していた。

 ほかにも、シューズが自分自身の能力を最大限に発揮させてくれた、という声もあり、シューズの可能性の高さを教えられた。

 日本人最多4度目の参加となった佐藤凛依さん(12歳)は、「これまでは走りながら友達と話したりもして、それはそれで楽しかったのですが、今回は初めて、途中で歩かずに最後まで走れました」と、自らの成長を感じることができたようである。

5キロランは、シューズ寄贈を受けた子どもたち、一般参加者の子どもたち、そして大人はファンランを楽しんだ。
5キロランは、一般参加者の子どもたち。

オリンピック出場の夢を持ってもらいたい!

 10キロランでは、「これが平坦なコースだったら、どれほどのタイムになっていたのか」という驚愕のタイムが出た。思い起こせば、第1回では五輪の金メダリストも走り、その後の大会でも、出場をバネにケニア代表にまで上りつめた選手もいる。関係者の一人としてこの結果を喜び、同時に誇りに思う。

 日本人トップは中学2年の岡本真澄君だった。ケニアのサッカークラブに入り、イタリア遠征も経験した将来の日本代表のストライカー候補だ。楽しみである。JICAケニア事務所次長・久下勝也さんの妻・綾子さんも、心から楽しみ、無事完走したようだ。

 「ケニアの子どもたちと一緒に走りながら、『日本語では疲れたって、どう言うの?』という会話もしたりして、とてもいい時間を持てました」

 スタート前に「迷子にならないように楽しんできます」と、笑顔で駆け出した三菱商事ナイロビ事務所所長の菅根一郎さんも、額に汗を滲ませながら、「ケニアで走るなんて考えてもいませんでした。自然も楽しめ、達成感でいっぱいです」と話してくれた。

 三菱商事・所属アスリートでアテネ・パラリンピック男子マラソン金メダリストの高橋勇市さんも妻の嘉子さんと参加していた。

 「ハードでしたけどトウモロコシ畑の新鮮な酸素を吸って自然を感じ、『給水、どうですか?』って声をかけられて地元の人のやさしさも感じ、貴重な体験をさせていただきました」

日本から参加したパラリンピック金メダリストの高橋勇市さん(右から2人目)。
日本から参加したパラリンピック金メダリストの高橋勇市さん(右から2人目)。

 ゴールした誰からも「よかった」「楽しかった」という声が上がる。そんなランナーに待っていたのは銀色に輝く「メダル」の完走賞だった。メダルには、「HEART OF RUNNING」と印字されていた。大会実行委員長でソウル五輪マラソン銀メダリストのダグラス・ワキウリさんは、このメッセージに「子どもたちにオリンピック出場の夢を持ってもらいたい」という思いを込めたという。

 日本からのシューズを履いて走った子どもたちが、ゴール後もずっとメダルを首から下げたままでいた姿を忘れない。

記事は雑誌ソトコト2018年10月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

photographs by Masaru Suzuki
text by Katsuyuki Kuroi

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黒井克行

くろい・かつゆき
1958年北海道出身。早稲田大学卒業後、出版社勤務を経て、ノンフィクション作家に。主な著書に、『高橋尚子 夢はきっとかなう』(学習研究社)、『テンカウント』(幻冬舎文庫)、『男の引き際』(新潮新書)、『日野原新老人野球団』(幻冬舎)など。日本大学法学部非常勤講師も務める。