永井運輸
2020.03.30 UP

連載 | デジタル地方創生記 くじラボ! | 13 公共交通情報オープンデータ化の知られざる先駆者、永井運輸の奮闘 群馬県前橋市

LOCAL

くじらキャピタル代表の竹内が日本全国の事業者を訪ね、地方創生や企業活動の最前線で奮闘されている方々の姿、再成長に向けた勇気ある挑戦、デジタル活用の実態などに迫ります。

今回は群馬県前橋市で、トラック輸送を主体にタクシー事業、観光バス事業、乗合バス事業、不動産事業などを営む永井運輸株式会社様にお話を伺いました。

Googleマップで経路検索をすると、自動車や電車、徒歩に加え、バスを使った経路も選択肢として表示されることが増えてきたと思いませんか?実はこれ、バス事業者が「GTFS (General Transit Feed Specification)」という仕様に準拠した路線データをGoogleに提供しているからなのです。

永井運輸はこのGTFSに全国で最も早く対応したバス事業者の1社で、公共交通情報のオープンデータ化の知られざる先駆者です。なぜ群馬県の中堅バス事業者が、GTFSに率先して対応できたのか。バス事業部を管掌する小又取締役と、GTFS対応を主導した水野課長にお話を伺いました。

トラック1台から前橋有数の総合運送企業へ

竹内 まずは永井運輸様の事業内容と、会社の沿革を教えていただけますでしょうか?

小又取締役 1953年9月に先代の社長がトラック1台で運送業を立ち上げたのが最初で、法人化したのが1955年9月。当社のすぐ隣に「けやきウォーク前橋」というショッピングセンターがありますが、元々はダイハツの工場で、そこで製造された完成車をキャリアカー(車両運搬用トラック)に載せて関西方面に運ぶ仕事が事業飛躍のきっかけになったようです。

その後、1962年にタクシー事業に参入、1970年には地場のバス会社を買収して貸切バス事業(現・上州観光バス)にも参入し、ここでトラック・タクシー・バスが揃いました。1993年4月には、群馬から撤退する東武バス様の路線を引き継ぐ形で初めて乗合(路線)バス事業にも参入しました(現・永井バス)。こちらは一般乗合では採算が取れないため、行政の補助を頂きながら運行する「代替バス事業」と呼ばれるものです。
現在は、これ以外にもコミュニティバスなども運行しています。

取締役 バス事業部部長 小又万里様
取締役 バス事業部部長 小又万里様

竹内 やはり行政からの補助がないと、乗合(路線)バスの経営は成り立たないのでしょうか?

小又取締役 引き継いだ1993年当時は黒字で、補助金なしでも成立していました。その後、時代の流れで利用者が減少すると段々と赤字が増え、現在では相当額の補助金を頂いています。

というのも、路線によっては初乗り運賃が100円というケースもあるのです。今時100円では缶ジュースも買えませんよね。かと言って地元コミュニティのことを考えると値上げを認めて頂くのも難しく、収益改善に努めても赤字脱却は困難です。

一方で、運行本数を増やすことが最大のサービスであろうということで車両数も増やしたところ、その路線が徐々に伸び始めています。最近5年は微増で、客数も売上も伸びている県内でも指折りの増収路線となっています。

その原因が何なのかはよく分かりませんが、我々事業者としては収支が多少悪くても路線を維持することが使命。運行本数を減らさざるを得ない状況に追い込まれている市内・県内の事業者もいる中で、陰ながら継続する努力を続けてきたことがこの結果につながっているのかも知れません。

1993年に3両で始めた乗合バスも、地域の要望や行政の委託に応じているうちに今は26両になっています。

前橋市内を循環する永井バス
前橋市内を循環する永井バス

竹内 乗合旅客運送は今、世の中でも非常に関心が高く、特に地方における高齢化や免許返納問題、一方で病院などに行く手段はどうするのかという文脈で語られることが多いですよね。課題解決のため、国土交通省も福島県いわき市などで自動運転バスの実証実験をしていますが、そのような取り組みについてはどう思われますか?

小又取締役 自動運転の取り組み自体は悪くないと思うのですが、本当に無人で安全に運行できるのか、法的な問題はどうするのか、課題は多いと思います。将来的にはそういう時代が来るかも知れませんし、例えばバス専用レーンができれば問題なくなるのかも知れませんが、現在のようにこれだけ交通量が多く、また歩行者とも道路を共有している中で果たして安全性は確保できるのか、ちょっと難しいような気がします。

未来を語ることはもちろん大切ですが、安全を確保しながら事業継続することをまず考えるべきだと思います。

竹内 事業の継続性担保という観点で言うと、乗務員(運転手)の確保にはどの事業者様も困っていると聞きます。

小又取締役 昔は大型二種免許がない応募者は、電話が来た時点でダメだと断っていました。当たり前じゃないですか、バス会社に面接来るのに大型二種を持っていないなんて話になりませんから。

それが時代が変わって、今は資格のない、まだ採用もしていない人間に50万円もかけて大型二種を取らせてあげないと人が確保できないのです。担い手不足で、そこまでしないと人が集まらない厳しい時代になっています。

都内であっても、黒字路線なのに乗務員不足で本数を削減しないといけない状況があると聞きますから、我々地方では路線の維持がやっと。新しい事業への野心がない訳ではないのですが、どうしても先に担い手のことを考えてしまいます。我々も今、目一杯でやっていますし、どんなに募集しても働き手が来ないという状況なので、新しい取り組みはなかなか難しい。

そうなると今は、継続性を最優先とする経営方針が必要だと思います。後ろ向きの話に聞こえるかも知れませんが、実はこれこそが前向きな話であるとも思っています。

地方のタクシーを巡る諸問題

竹内 少し話題を変えて、タクシーの調子はいかがですか?

小又取締役 ダメですね。

竹内 ダメですか・・・。今、台数はどのくらいでしたっけ?

水野課長 営業許可上は39台ですが、今は少し減って35台です。

バス事業部 課長 水野羊平様
バス事業部 課長 水野羊平様

小又取締役 当社では、「マイタク(でまんど相乗りタクシー)」という前橋市の制度に対応し、行政の補助を受けて移動困難者用タクシーを運行しています。そのお陰で昼間のお客様は増えたのですが、夜の街は平日も週末もガラガラです。

またタクシー乗務員も、平均年齢が62歳か63歳で、夜間の運転に自信がないので夜のシフトに入らない人もいます。

水野課長 その点で言えば、バスよりもっと酷いという感触はあります。

小又取締役 宴会が減ったこともありますが、乗務員の高齢化も進み、朝までタクシーを転がすことが体力的に厳しい面もあります。また、それだけ働いても売上にはつながらない。

前橋駅で降りたって「寂しい町だな」と思う訳じゃないですか。実際、都心部とは全然違いますよね。仕事などで東京、大阪、名古屋などに行くとタクシー需要の大きさに驚きます。

竹内 少し聞きにくい質問なのですが、タクシーに絡めて言うと例えばアメリカにはUberやLyftがあり、アジアのほとんどの国でも同種のサービスがあります。日本は法規制の問題でUberは公式には営業していませんが、有志によるカープール(乗合)の形でそれを潜脱しようとする他社の動きも見られます。

これらの動きについては、率直にどのようにお考えですか?

小又取締役 利用者がどう考えるかですよね。我々事業者からすれば、そういうシステムが入ってくることで職を失う可能性があり、困ると言えば困りますけど、世の中がそういう流れになっていくのであれば、やむを得ないのかも知れません。

一方で乗客の安全性を考えた時に本当にそれでいいのか、とも思います。旅客の安全を最優先で考えてきたのが日本の交通行政なので、それらの仕組みが果たしてお客様ファーストになっているのかな、と。

水野課長 実際選ぶかどうかはお客様次第だと思いますが、結局今のタクシーの二の舞になる気もします。カーシェアリングやカープーリングの形でやったところで結局は報酬額で揉める、というのはNPOの取り組みでも聞きます。報酬を安くすると担い手がいないでしょうし、高くして仕事になるのであれば結局タクシーと変わらないので、今のタクシーが増えるだけかな、とも思います。

後はなんといっても輸送の安全です。我々の様なクルマ(車)偏のつく商売(=輸送業・運送業)をやっている者としては「安全」が一番のキーワード。輸送の安全の確保というのはまさに道路運送法に書いている話ですが、そこがちゃんと確保できているのか。何もなければいいですが、万が一事故があった時はどうするのでしょうか。

竹内 仰ることはその通りで、安全でなくては全く意味がないですよね。反面、アジアから日本に来る観光客が一番驚くことの一つに、UberやGrab、滴滴(DiDi)などの配車サービスが日本にだけ全くないことです。

「行き先を口頭で伝えないといけないタクシーが、まだ世界にあるのか!」「事前に運賃が分からず、クレジットカード決済もできないタクシーがまだあるのか!」というレベルで世界どころかアジアとも大きな差がついていますが、事業者様側との認識ギャップはかなりありそうですね。

小又取締役 安全という観点でいうと、タクシーの乗務に必要な二種免許(第二種普通自動車運転免許)の要件を緩和すべきかどうかというアンケートを国からもらったことがありましたが、当社の意見としては、人様の命を預かっている以上、二種免許については緩和する必要がないと回答しました。

もちろん二種免許のハードル(注:満21歳以上、運転経験3年以上)が高いためになり手が少ないという問題があるので、例えば必要な運転経験を3年から1年にするなどの変更はあり得るのかも知れませんが、10代や20代の運転手には人の命の重みも分からないでしょうし、ある程度経験を積んでからの方が重みがあっていいと思います。

先行してGTFSに対応

永井バスではGTFSによるオープンデータの取り組みをいち早く始めている
永井バスではGTFSによるオープンデータの取り組みをいち早く始めている

竹内 御社では、水野さんが牽引し、地方のバス会社としてはいち早くGTFS (General Transit Feed Specification) に対応されました。

GTFSというのは、バスの路線図や時刻表、場合によってはバスの現在地などの情報をGoogleのアプリケーションにフィードするためのデータフォーマットで、これに準拠した自社のバス関連データをGoogleに提供することで、例えばGoogleマップへのバス路線図の表示や、バス路線まで含んだ経路検索オプションの表示につながります。

GTFSは17のCSVファイルとそれをまとめたzipファイルで構成されているので簡単そうな反面、命名規則やファイル構成、利用可能文字などのクセもあり、自社でデータ加工してGoogleにフィードするのはかなり難しいとも聞きます。

この取り組みが永井運輸様で始まった経緯はどのようなものなのでしょうか?

水野課長 元々、群馬県の県土整備部交通政策課さんが2017年頃、「公共交通情報のオープンデータ化をやるぞ」と言い出したんです。その流れで、県主宰で色々な勉強会を開催するようになり私も参加していたのですが、そこで出会ったヴァル研究所の諸星賢治さんや東京大学生産技術研究所の伊藤昌毅先生から、「その筋屋」というバスのダイヤ(ダイヤグラム)編成ソフトの存在を聞きます。

本来はダイヤ編成のソフトなのですが、GTFSも作成できるということだったので、実際にそれを使って当社のデータを入れてみたら本当にGTFS対応ができてしまいました。

県としては別の会社にお願いして県内事業者のGTFS対応を支援する予定で、「事業者は何もしなくていいよ、データ作成会社にお願いしますので」という触れ込みだったのですが、私の方で「その筋屋」を使うことで、県の予定よりも1年も前に対応できてしまった。どうしようかな、と思ったものの、そもそもGoogleマップにフィードできるフォーマットな訳ですから、じゃあやるかという話になって実際にアップしました。

その当時は、自社で作って自社でアップする事業者が国内でも大変少数であった時期で、それで注目されたというのがあります。

小又取締役 群馬県庁の交通政策課に行って、「悪いけど、できたので先にGoogleに載せてもらいますね」と断って。

竹内 群馬県もびっくりですよね。

水野課長 内々の話で言えば、県の担当者も勉強会に参加していたので事情は全部知っていました。

Googleへデータ提供することでGoogleMapsでのバス乗換検索も可能となる
Googleへデータ提供することでGoogleMapsでのバス乗換検索も可能となる

小又取締役 その後は国土交通省にまで呼ばれて、取り組みについて説明してきました。

喜んでいましたよ。GTFS対応が進めば国としても路線バスの管理が楽になります。各事業者が自社のデータを使って自らGTFS対応ができたらいいですけどね。

その中で県の「公共交通情報のオープンデータ化」を飛び越えて、事業者自らGoogleマップの経路検索対応に成功した訳ですから。各事業者に対して、いわば先生として「ここをこういう形でやるんだよ」と教えてくれる人が出てきたのですからね。

竹内 すごいですね!Googleマップの各機能に表示されることにより、例えば若い人や海外からの観光客からの需要が増えたのでしょうか?

水野課長 これが辛いところなのですが、効果があるかどうかは正直分からないんです。詳細に調査している訳ではないので断言はできないのですが、GTFSは新たにバスに乗ってもらうための手段ではないと思います。

もちろん、Googleで経路検索してもバスが交通手段の選択肢に入っていなければ、「あ、ここにはバスは走っていないのか」と誤解されてしまうので、そこは解消できたとは思うのですが、Googleマップで表示されるからこのバスに乗ろう、とは余りならないですよね。

竹内 確かに、元々その路線を使っている人の利便性向上にはなりますが、新規の旅客需要につながるかと言われると、事業の性質上難しいかもしれないですね・・・。

取材に先立って調べたところ、現在GTFS対応している乗合バス事業者が全国で176社(2020年1月現在)ある、という数字があります。このの中で、GTFS対応したことで業績上プラスになっているという話を聞いたことはありますか?

水野課長 外国人観光客相手だったり有名な観光路線だと、Googleマップでの認知を通じた利用者数のアップ事例は聞きます。有名なのは岐阜県の中津川から中山道・馬籠(まごめ)宿に行くバス路線で、ここもGTFS対応したところ、外国人の方が「Googleで調べたところ、路線バスがあることがわかった」と言って乗ってくるケースも出てきているようです。

一方で、観光要素もなく、単なる通勤通学用バス路線だと、わざわざ調べなくても毎日利用しているので時刻表まで知っています、となってしまいます。

青森市営バスの三浦公貴さんという方がいて、この方は僕らより1ヶ月前にGoogleに路線情報をアップした方なのですが、この方の言葉で「ネットで検索できなければ、走っていないも同然」というのがありました。

実際そうだよなと思いますし、認知もされないんじゃ上手くいくはずないよね、とも思いますが、じゃあそれで利用者が増えるのかとなると「うーん」と考えてしまい、結局は事業者の効率化を目指すみたいな話になります。

より現実的なデータの使い方

竹内 効率化というと、例えばバス運行の正確性調査などですか?

水野課長 そうですね。例えばその正確性調査でいうと、「バスロケーションシステム」が一つの手段になるかと思われます。

「この停留所、本当は12時5分にバスが来るダイヤなんだけど、バスは12時8分現在、1つ前の停留所を3分遅れで出ました」、というものです。この遅延情報がGoogleマップ上でも分かるようになります。

群馬県のバスロケーション事業でも昨年末からこの実証実験を行なっており、現在検証中です。

この取り組みによって生まれるデータは、例えばこの停留所のバス到着時刻は12時5分だけど、昨日の到着は12時18分、一昨日は12時15分(少々オーバーに)、平均しても常に遅れているね、というもので、これが分かればダイヤ改定につなげることができる。

バスの現在位置と出発予定時刻が確認できるデジタルサイネージが駅に設置されている
バスの現在位置と出発予定時刻が確認できるデジタルサイネージが駅に設置されている

竹内 常に遅れがちな停留所があれば、「その路線の道路の混雑状況に照らすとこのダイヤは無理があるんじゃないか、改定した方がいいのでは」という対応をする訳ですね。

水野課長 その数値が可視化されれば、乗務員に安心感を与えられます。「この路線は絶対に遅れると数値で分かったので、急ぐことのないダイヤを目指す」。これを実行することで、運転士も安定した運転ができるようになる。

竹内 それは乗務員にとっても乗客にとっても、素晴らしい取り組みだと思います。

私は東京在住で都バスの愛用者なのですが、最近の都内の停留所には電子化されたバスサインがあり、バスの位置情報が出ています。このバスは2つ前の停留所を出ました、という風に。あれもGTFSリアルタイムを使っているんですかね?

水野課長 GTFSではないフォーマットもあるので、違うかも知れません。

竹内 なるほど。調べると、確かにGTFS準拠ではなく、JSON(JavaScript Object Notation)ベースで作成されているようですね。

守りながら、攻める

竹内 最後に永井運輸様、あるいはお二人のこれからの展望や夢をお聞かせ下さい。

小又取締役 まずは現状の確保と維持だと思います。プラス部分については、しっこく(上州弁で「抜かりなく」の意とのこと)考えたい。

経営的に成り立つのであれば、もちろん挑戦はしていきたいのですが、地域に密着した事業者である以上、まずは今の路線を守らないといけない。仮に今、よその会社の路線を引き継いでくれと言われても、収益や人の確保といった観点から、どの事業者も後ずさりするような状況ですから。

竹内 水野さんはいかがですか?

水野課長 小又と同じような話になるのですが、やはり地域に密着した事業ですから路線を維持していかないといけない。

それに加えて自分はバスが好きで大型二種免許も持っているくらいですから、自ら少々勉強して新しいものを提供したい、という思いもあります。

やや後ろ向きな話になりますが、今後5年くらいで残念ながら業界での淘汰は進んでいくと思うんです。その中で淘汰される側にならないよう、今回はひょんなことからデータに関わる新しい取組をやりましたが、単に「データを取る」ことから「データを使う」という形に変わってきている中、これを使って時代を牽引できるようになれたらいいと思っています。

淘汰の圧力があるにせよ、人がいないにせよ、省力化するなり価値を高めるなりしていければ、と。

竹内 GTFS対応、例えば停留所の位置情報をどう修正するのかといった細かい実務上のノウハウは沢山ありますよね。そういう機能を他の事業者に教える、いわば「モビリティ・コンサルタント」としてのフィー獲得につなげることはできるのでは?

水野課長 その役割は必要なのかも知れません。実際にやるかどうかは別にして。

竹内 期待しています。今日はありがとうございました!

小又取締役と水野課長と竹内

 

キーワード

竹内真二

たけうち・しんじ
くじらキャピタル代表取締役社長。外資系投資銀行、複数回の起業とExit、上場企業のバイアウトなどを経て2018年に「人を幸せにする資本」くじらキャピタルを創業。デジタルx資本で中小企業を元気にすべく、日本中を飛び回っている。1976年、横浜生まれ。