MEDIA GEIJUTSU 文化庁メディア芸術祭メモランダム Vol.1
2019.04.13 UP

MEDIA GEIJUTSU 文化庁メディア芸術祭メモランダム MEDIA GEIJUTSU 文化庁メディア芸術祭メモランダム Vol.1

DIVERSITY

実装で生のまま見せる、メディアアート。
ライゾマティクス 真鍋大度

2018年3月、文化庁メディア芸術祭 中国・厦門展に参加した。海外展は2012年の中国・香港展以来だ。これまでの海外展は受賞作品の巡回作品展だったそうだが、今回はこれまでの受賞作品とメディアアーティストがコラボレーションして、現地で新しくオリジナル作品をつくるというトライアルの企画展なのだという。僕ら『Rhizomatiks』は2つの作品を展示した。一つは、これまで発表してきた作品や技術のアーカイブ記録展示、もう一つは第20回エンターテインメント部門優秀賞を受賞した『Pokémon Go』とのニューピースだ。日本国内での受賞作品展で演出を担当した僕らが今回も携わることになった。お客さんがどうやったら楽しめるかというエンターテインメイト性を熟慮したうえで制作したので、トライアル展に見合ったレスポンスが自分たちなりにできた気がしている。

僕らのクライアントやプロジェクトは今、中国が一番多い。北京、上海、杭州、深圳。大学で教鞭を執ることもある。クラスでは基本、レクチャーと展示、そしてパフォーマンスをセットにして、「そうじゃないものもたくさんあるんだよ」を伝えるようにしている。というのも、「メディアアート・イコール・人が動く、映像が変わる」ぐらいに認識されていて、メディアアートに関する歴史が浅いからだ。中国の大学の先生もどちらかというと現代美術で映像を扱っていたタイプの人で情報デザインツールを使っていない傾向にある。何を使ってつくるのかという開発や制作の環境は、表現にダイレクトに影響が出る。それで表現しても、一般の人は騙せるかもしれないけれど、業界の人は騙せない。

中国・厦門展でのアーカイブ展示
中国・厦門展でのアーカイブ展示。表現技術ごとにまとめてグラフィックにした壁面パネルと映像、そしてそれらの制作で実際に使われた装置も展示した。

ライゾマティクスで、僕は「Research」部門の代表で、デジタル表現を研究してエンターテインメントへの拡張に日々チャレンジしている。もちろん個人でもメディアアートの作品を発表しているが、正直エンターテインメントのほうがテクニックがたくさん必要だし、実装も難しい。その技術が社会に浸透していないと、起用することは受け入れられない。けれど個人でメディアアート作品として発表するときは、自分の考えていることや興味・関心事を生々しく作品化する。メッセージやコンセプトをテキストにはせず、実装による社会実験をしているような感覚だ。2013年に東京都現代美術館での展覧会「うさぎスマッシュ」で発表した「traders」は、東証のリアルタイムデータを音と映像に変換する作品だった。このときは自動取引のソフトウェアを書いて、自動取引のシステムをつくるために東証まで行って、1か月数百万かかる特別な回線を使わせてもらった。リアルタイムで市場のデータを可視化、可聴化させ、実際に運用した。この作品の発展型として、ドイツでの展覧会「GLOBALE:New Sensorium」で発表したのが2016年の「chains」。ビットコインの仕組みを利用したインスタレーションで、自動トレーディングシステムを使用した実験と共に、ブロックチェーンを可視化するシステムを開発した。現代の金融とトレーディングシステムに対しての問題提起だった。

ドローンやAI、ビットコインやブロックチェーンが悪用されるかもしれないなんてことは、誰もが分かっている。でも僕は、それを警告しない。「こういうことができる」を暴いて提示する。勘のいい人ならいろいろ妄想できるぐらいの余白を残して。だからメッセージは言わない。社会的警告を、思想ではなくて、実装で生のまま見せる。国語の問題にして議論を頑張ると、世界が本当に閉じていく。そういうところに風穴を開けるのがメディアアートの力だったりすると思っている。

僕らのような活動をしている先輩たちには、アーティストでコンピューター科学者のジョン・マエダがいて、それを継承したアーティストでエンジニアのゴラン・レビンがいて、その次にメディアアーティストのザッカリー・リバーマンがいて、僕らは先輩たちのDNAを引き継いで活動している感じがする。翻って、中国はまだまだ、さまざまなことに対して情報不足も感じている。僕が学生に「そうじゃないものもあるんだよ」を教えることで、数年後にはこの学生たちがアーティストやキュレーターになるかもしれない。そうすれば、少しずつ何かが変わってくるだろうから。それを願って、今は耕している。

『Pokémon Go』とコラボレーションした作品。
『Pokémon Go』とコラボレーションした作品。

まなべ・だいと●アーティスト、プログラマー、DJ。『ライゾマティクス』取締役、ライゾマティクスリサーチ代表。1976年、東京都生まれ。東京理科大学、岐阜県立国際情報科学芸術アカデミー(IAMAS)卒業。2006年にライゾマティクスを共同設立。身体やプログラミング、データが持つ魅力に着目して作品を制作し、国内外で受賞多数。

*1 2006年に齋藤精一、千葉秀憲、真鍋大度の3人が設立した会社。最新テクノロジーを使ったメディアアートやデザイン、広告など領域横断的な活動を展開。2016年からは、デジタル表現を研究してエンターテインメントに拡張する「Research」、新しい建築の概念を提示する「Architecture」、デジタル技術を駆使してソリューションを探る「Design」の3部門に分かれて新体制で活動している。

*2  「第20回文化庁メディア芸術祭」エンターテインメント部門を優秀賞を受賞した、位置情報を活用したスマートフォン向けゲーム『Pokémon Go』とコラボレーション作品は、会場でスクリーンに映し出されたポケモンに向かって、実際に『モンスター・ボール』を投げることで『Pokémon Go』の世界が体験できるというものだった。

文化庁メディア芸術祭について

アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門において高い芸術性と創造性をもつ優れた作品を顕彰するとともに、受賞作品の鑑賞機会を提供するメディア芸術の総合フェスティバル。平成9年度(1997年)の開催以来、受賞作品の展示・上映や、シンポジウム等の関連イベントを実施する受賞作品展を開催している。www.j-mediaarts.jp

text by Naoko Inoue (SOTOKOTO)

本記事は雑誌ソトコト2018年7月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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