ひらひら平谷
2020.03.06 UP

遊びだって、全力だ。放課後よく来ます、『ひらひら平谷』に。

LOCAL

長野県下伊那郡平谷村。人口減少が進む村にできた施設に子どもたちが集まる。
元気な子、絵の上手な子、悩みを持った子、いろいろだ。
いろいろだから、みんなの心が豊かになる。さあ、今日は何をして遊ぼうか!

自由に遊び、学べる、子どもたちの居場所を!

 とある冬の月曜日、15時過ぎ。学校を終えた子どもたちが1人、2人と集まってくるここは、子どもたちの居場所、『ひらひら平谷』。引き戸を開けて、「こんにちは!」と元気よく挨拶する子もいれば、大人しい様子で入ってくる子も。一番乗りの川上愛莉ちゃんは、段ボールに猫の絵を描き始め、お兄ちゃんの月獅くんはを揚げようと裸足のまま庭を駆け回る。来るやいなや「したいこと」に夢中になり、『ひらひら平谷』のテンションはいきなりマックスだ。

クリスマスツリーの鉢カバーに絵を描く愛莉ちゃん。
クリスマスツリーの鉢カバーに絵を描く愛莉ちゃん。

 子どもたちが通う平谷小学校の児童数は23名だが、6年後には7名に減る推計も。閉校さえ見えてきた今、平谷村で子育てをしたいと思える魅力ある教育環境を整えて移住者を増やそうと、教育委員会は地域おこし協力隊とともに、「Hiraya Kids Village Project」を立ち上げた。ただ、プロジェクトを進めるなかで、遊び場や遊び相手を探している子や、ときどき学校に行けない子がいることもわかってきた。「子どもが自由に来て、したいことができる場、話し相手がいて安心できる場、多様な人と関われる場が必要ではないか」との声が上がり、みんなの居場所となる『ひらひら平谷』を2019年7月にオープン。地域おこし協力隊が運営している。

『ひらひら平谷』のスケジュール。
『ひらひら平谷』のスケジュール。

「何かをやろう」という、意識が芽生えた子どもたち。

 平谷村の人口は414人。離島を除けば日本で3番目に少ない村だ。星空が美しく、自然豊かな地域だからといって、子どもたちはいつも野山を駆け回って遊んでいるわけではない。都会と同様、家でゲームをして遊ぶ子が多い。「ゲームは子どものコミュニケーションツール。悪いとは言いませんが、ゲームばかりだと遊びを生み出す力が衰えてしまいます」と教育委員会の加藤公理さんは、『ひらひら平谷』で創造的に遊び、学ぶことで、子どもたちの生きる力を引き出そうと考えている。

県産材のかわいい木のおもちゃで遊べる。
県産材のかわいい木のおもちゃで遊べる。

 そのために、『ひらひら平谷』では多様なプログラムやイベントを用意。協力隊隊員の中尾有岐さんが企画、実施している「国際クラブ」では、海外で日本語教師をしていた中尾さんの知り合いのインドネシアの若者が村の子どもたちからの質問に答えるかたちで、異文化について学んでいる。「将来は地球一周の旅をしてみたい」「外国語が話せるようになりたい」と参加した林央将くんや米村駿一くんは海外に関心を寄せる。

「国際クラブ」、始まるよー!
「国際クラブ」、始まるよー!

 「自転車で冒険!」では、子どもたちは協力隊隊員と一緒に隣村まで自転車で訪れた。小学校には、「子どもだけで隣村に行ってはいけない」というルールがあるため村境の峠を越すことは一大イベント。終了後、「また連れて行って!」とせがむ子どもたちに加藤さんは、「次は自分たちで行っといで」。「冬は16時半に家に帰るという門限を素直に守る子どもたち。その素直さは平谷の子のいいところではありますが自分自身で判断する力を養うことも重要です」。

冬は「16時半になると帰宅」というルールが。
冬は「16時半になると帰宅」というルールが。

 そんななか、子どもたちは自発的に何かをやろうという意識が芽生えてきたのか、ある女の子は「お化け屋敷がしたい!」と提案。夜の『ひらひら平谷』で、顔にペイントを塗って脅かしたり、紙吹雪を舞い上がらせたりと、手づくりのお化け屋敷を演出した。さらに、「工作コンテスト」や「新聞紙のファッションショー」も実現させ、「遊びを通して成功体験ができる場として認識したようです。だから、『ひらひら平谷』に集まるのでしょう」と加藤さんは話す。

「工作コンテスト」の作品が置かれている。
「工作コンテスト」の作品が置かれている。

 「学童保育や児童館もない平谷村に移住してきた親としては、子どもの居場所があるのは安心です」と話すのは、協力隊隊員となって5年生の知広くんと一緒に神奈川県から移住した鬼頭さおりさん。「都会では大人も子どもも忙しい日々を過ごしていますが、平谷では村民の皆さんの気持ちにゆとりがあるからか、『できるまで待ってくれる』という雰囲気があるように感じます。子どものペースで暮らせるようになり、親子の距離が縮まりました」と、『ひらひら平谷』があることを喜ぶ。

村民から寄贈された本。これから並べる。
村民から寄贈された本。これから並べる。

『ひらひら平谷』を拠点に、関係人口も増えている。

 子どもたちの居場所としてだけではなく、村民の関わりも生まれつつある『ひらひら平谷』。年末にはお年寄りが子どもと一緒に注連縄をつくったり、保護者が苔テラリウムのワークショップを開いたり。協力隊隊員の鈴木温未さんが『ひらひら平谷』で本を読める環境をつくろうと、村民から本を募ると、たくさんの協力が届いた。「300冊ほど寄贈していただきました。子どもたちが興味を示すような感じで並べたいです」と、たくさんの協力が届いた。

暖かい日差しが差し込む内観。村が改修費540万円で実施。
暖かい日差しが差し込む内観。村が改修費540万円で実施。

 また、別荘地を訪れる村外の人たちも、イベントに参加したことがきっかけで村民や子どもたちとの交流が開始。加藤さんの母校の大阪教育大学の学生も毎夏、『ひらひら平谷』を訪れて子どもたちと遊ぶ。ともに、村の関係人口だ。

 ただ、課題もある。協力隊の任期終了後は、『ひらひら平谷』をどう持続していくのか? 「村の方々も来たいと思える場をつくり、みんなで施設の未来、村の未来を考えていければ」と隊員たちは口を揃える。そのためにも、村民や関係人口との関わりがより深まるような活動や場づくりを展開していくつもりだ。

『ひらひら平谷』の外観。放課後になると、玄関を開けて子どもたちが入ってくる。
『ひらひら平谷』の外観。放課後になると、玄関を開けて子どもたちが入ってくる。

平谷村教育委員会委員・加藤公理さんの人が集まる場づくり3つのポイント

自由な場であること。

 子どもたちが自主的に、自分の好きなことができるように、大人がああだこうだと言わない自由な場であるよう心がける。

話し相手がいること。

 子どもも大人も、出かけるときはそこに何か目的があるから。「人に会う」というのも大きな目的。気軽に会いに来てほしい。

自主性を引き出す。

 「凧をつくろう」と誘うのではなく、見えるところに材料を置き、つくりたくなるように興味を持たせ、自主性を引き出す。

人が集まって生まれたこと、変わったこと。

心にゆとりが生まれた。

 心にゆとりが生まれたからか、子どものやる気があふれ出した。

記事は雑誌ソトコト2020年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

photographs by Mao Yamamoto
text by Kentaro Matsui