MEDIA GEIJUTSU 文化庁メディア芸術祭メモランダム Vol.2
2019.04.12 UP

MEDIA GEIJUTSU 文化庁メディア芸術祭メモランダム MEDIA GEIJUTSU 文化庁メディア芸術祭メモランダム Vol.2

DIVERSITY

ジャンル未定の表現者、
久野遥子。

「肩書を尋ねられると、いつもぼんやりしてしまうんです。先日、文化庁メディア芸術祭の受賞者などが集うトークイベントに登壇させていただきましたが、みなさん、デザイナー、美術家、ミュージシャン、メディアアーティストと、冒頭で司会の方にそれぞれ紹介されていました。こういうとき、自分の肩書をどう言っていいのか分からないんです。一つパキッとした肩書があれば、ほかの人のように、やっていることをパキッと伝えられるのに……」。こう話すのは、『第21回文化庁メディア芸術祭』マンガ部門新人賞を受賞した久野遥子さんだ。彼女は今、アニメーションの制作とマンガを描く仕事をしているが、その肩書は、アニメーターとも、マンガ家とも言い切れそうにない。

なぜアニメーターと言い切れないのか尋ねてみたが、「私がアニメーターと名乗ると、商業アニメーションを生業にする方が、きっと違和感を持つと思います」と、そもそも名乗りにくそうだった。

アニメーターは、キャラクターの作画が仕事だ。脚本家のシナリオや演出家の絵コンテに従い、キャラクターや背景を一枚一枚描いていく。作画とは、動きの中でポイントになる「原画」と、その「原画」の動きを滑らかにするための「動画」。この2種類の絵を描く人はそれぞれ別々に存在していて、高い専門性が要求され、かなり分業化されている。また、一般的な商業アニメーションのプロダクションにおける制作工程は、企画からシナリオ、仕上げ、撮影など数が多く、次の担当者に渡すということがとても重要で、細かい部分にまでルールが厳しく定められている。

久野さんも、オファーや作品のあり方によっては、商業アニメ―ションの制作工程に沿って作っているが、多くの場合は久野さんの判断で制作作業の方法を決めている。だからその分、商業作品では時間を割きにくいパートに、あえて手をかけてつくることもできる。「プロダクションであればパソコンを使って色塗りするところを、手塗りで作業することもあります」という。そういう自由さがある。

短編アニメーション「Airy Me」Ⓒ2013 Kuno Yoko All Rights Reserved.
短編アニメーション「Airy Me」Ⓒ2013 Kuno Yoko All Rights Reserved.

2014年、美大の卒業制作でつくった短編アニメーション「Airy Me」で、彼女は『第17回文化庁メディア芸術祭』アニメーション部門新人賞を受賞。在学中から2年近い歳月をかけて描いたMVの短編アニメーションだ。そしてこの4年後の2018年、マンガ短編集「甘木唯子のツノと愛」で、今回はマンガ部門新人賞を受賞した。圧倒的な作画力との講評を受けているが、本人は、「アニメーションの仕事を通して、かなりの枚数の絵を描いて手慣れてきた部分もありますが、マンガを本業にできるほど、マンガ家としての力があるとは思っていない」と謙遜する。また「そもそも、マンガとしての画力というものは、アニメの画力とはまた違うものなので」と断りも入れる。

作品は、非現実の、妄想のような世界の中に、キメラ、透明人間、別の人間になる皮膚のような着ぐるみ人形、額にツノの生えた女の子など、人間じゃないものが登場している。「人間か人間でないかということよりも、見た目と中身が違うことに興味があります。見た目が人間のようなものにぶつかったとき、とっさに『あ、すみません』と言ってしまったり、スマートフォンの『スピーカー機能』をオンにして通話していると、その姿形が人に見えてきたり。人間同士の場合でも、相手が相づちを打っているからといって必ずしも理解してくれているのかは分かりません。生きている人すべてが、現実を、現実の通りに受け取られていないんじゃないかと思うときもあります。だからこそ、言葉にできない感覚や「人にわざわざ話すほどではないけれど、こういうことってあるよね」という感情を、何かしら残せていけたらと思って、日々描いています。これからも人に伝える物語をしっかりつくっていきたいし、お仕事もアニメーションからマンガ、イラストレーションからアニメーションというように垣根を越えるような、ジャンルを“飛ぶ”オファーをいただけるようになれたらうれしいですね」と、意志と展望を話す。もしかすると、彼女の肩書は定まらないのでなくて、可能性という理由による「暫定的に現在は未確定」なのかもしれない。

「甘木唯子のツノと愛」。『月刊コミックビーム』(KADOKAWA)にて、2017年5月号から同年7月号まで連載。ⒸKUNO Yoko 2017
「甘木唯子のツノと愛」。『月刊コミックビーム』(KADOKAWA)にて、2017年5月号から同年7月号まで連載。ⒸKUNO Yoko 2017

くの・ようこ●1990年生まれ。多摩美術大学グラフィックデザイン学科卒業。2010年に『月刊コミックビーム』(KADOKAWA)よりマンガ家デビュー。14年に『第17回文化庁メディア芸術祭』アニメーション部門新人賞、18年には『第21回文化庁メディア芸術祭』マンガ部門新人賞を受賞。代表作は、劇場版アニメ『花とアリス殺人事件』(監督・岩井俊二)のロトスコープアニメーションのディレクティングや、『クレヨンしんちゃん襲来!! 宇宙人シリリ』のキャラクターデザイン。またテレビでは、NHK Eテレ「おかあさんといっしょ」番組内の『人形劇ガラピコぷ〜』オープニング映像を制作。 http://kunoyoko.tumblr.com

*1 2018年6月22日にRed Bull Music Studios Hallで開催された、第21回文化庁メディア芸術祭受賞作品展関連イベント「ライブパフォーマンス/トーク:21st JMAF Night “POST COMMUNITY”」
*2 アーティスト・Cuushe(クーシェ)の楽曲「Airy Me」のMV(ミュージックビデオ)の短編アニメーション。謎の生体実験が行われる病棟で、日々看護師から投薬を受ける被験者。ある時、看護師が被験者の鼻のスイッチを押すとキメラ(複数の動物のハイブリッドからなる怪物)へと変貌する──という物語。
*3 2017年7月発行。額にツノの生えた少女と兄の物語の「甘木唯子のツノと愛」ほか、学校生活で人と意見を合わせることへの疑問を提示する「透明人間」、巨大化して怪獣と戦うアルバイトをしている女子高生が小学校男性教員に片思いする「IDOL」、着ぐるみを着ることで愛を求める「へび苺」が収録されている。

文化庁メディア芸術祭について

アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門において優れた作品を顕彰するとともに、受賞作品の鑑賞機会を提供するメディア芸術の総合フェスティバル。平成9年度(1997年)の開催以来、受賞作品の展示・上映や、シンポジウム等の関連イベントを実施する受賞作品展を開催している。現在、第22回の作品募集中。www.j-mediaarts.jp

text by Naoko Inoue (SOTOKOTO)

本記事は雑誌ソトコト2018年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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