MEDIA GEIJUTSU 文化庁メディア芸術祭メモランダム Vol.3
2019.04.15 UP

MEDIA GEIJUTSU 文化庁メディア芸術祭メモランダム Vol.3

DIVERSITY

アニメーション作家が、表現を更新していく。
和田 淳

アニメーション作家が、ゲームをつくる──。2017年、和田淳さんは、この壮大なチャレンジに挑んだ。アニメーション作品を制作し、同時にゲーム開発環境「Unity」を使った方法でその作品をゲームアプリへと展開。そしてアニメーションとゲームの2つの形態で作品を発表するという試みで、メディア芸術クリエイター育成支援事業に応募した。世界観やキャラクター設定、絵コンテ、原画は和田さん自身が担当するが、アニメーション研究者をプロデューサーに、映像作家をプログラマーに、海外アニメーション作家をアドバイザーに迎えるなど、応募の際の企画書にはチームで取り組むことも盛り込んだ。同年企画は採択され、制作が始まった。

第8回(2004年)文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品「蠕虫舞手(アンネリダ・タンツェーリン)」。
第8回(2004年)文化庁メディア芸術祭アート部門審査委員会推薦作品「蠕虫舞手(アンネリダ・タンツェーリン)」。

この支援事業は、文化庁が、文化庁メディア芸術祭において受賞作品あるいは審査委員会推薦作品に選ばれた若手クリエイターを対象に、新作の企画を募り、制作費の支援や専門家のアドバイスほか、さまざまなあり方でもって企画実現を支援するというもの。和田さんは2004年、10年、12年、13年の文化庁メディア芸術祭で受賞・選出歴があり、応募資格は十分満たしていた。「普段短編アニメーションをつくっている作家が、作品を見てもらえるタイミングはフェスティバルや上映会になります。だから作品をつくっては応募をしていましたが、なにかもう少し、自分のなかで次の展開みたいなものを考えないといけないというのがずっとありました。ただ単純にアニメーションをつくり続けていることから、広がりを出せるのではないかと思って」。自身のキャリア形成と表現の展開、そしてアニメーション作家界全体を考えての応募だったのかもしれない。

第14回(2010年)文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞受賞作品「わからないブタ」。更半紙に0.3ミリ芯のシャープペンシルで作画。
第14回(2010年)文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞受賞作品「わからないブタ」。更半紙に0.3ミリ芯のシャープペンシルで作画。

その和田さんの考えた“次の展開”は、ゲームだった。「プロジェクトのメンバーで、アニメーションの研究と評論をしている土居伸彰くんのアドバイスが純粋におもしろいなと思ったからです。僕自身今までゲームなんて一度もつくったことがなかったので、企画が採択された段階では、どんなゲームにするのかすら見えていませんでした」と振り返る。ちょうどその時期は、スイスのアニメーション作家ミヒャエル・フライや、アイスランドの3DCGアニメーション作家デヴィッド・オライリーが、巨大なゲーム会社ではなく個人や少人数のチームで「インディゲーム」をつくり、その評価が高まっていた。アニメーション作家はゲームをつくり、そのゲームというメディアを通して芸術表現の更新を始めていたのだ。

応募時は「ゲームも展開したい」ぐらいの気持ちだったという和田さん。ゲーム開発のノウハウは皆無。「今回の企画『いきものさん』は、子ども向けのアニメーションシリーズです。イヌ、カタツムリ、カメ、ナメクジ、ハリネズミなどの生き物たちを主人公に、彼らのささやかだけれど、ちょっと不思議で変な日常を描くという内容です。重視するのはストーリー性ではなく、仕草や動き、音に敏感な子どもの感覚を刺激する数十秒から2、3分程度の映像をシリーズ化する予定でした。ただ……どうしてもこのままをゲームにしても成り立たないなって」。

第16回(2012年)文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞受賞作品「グレートラビット」。「不服従」をテーマに、フランスのプロダクションと共同で制作された作品。0.3ミリの細い線と淡く抑えた色味でこれらの登場人物や背景を描く。
第16回(2012年)文化庁メディア芸術祭アニメーション部門優秀賞受賞作品「グレートラビット」。「不服従」をテーマに、フランスのプロダクションと共同で制作された作品。0.3ミリの細い線と淡く抑えた色味でこれらの登場人物や背景を描く。

和田さんにはいつも大切にしていることがある。それは、気持ちいい感覚を届けられているかどうか。それは、なにかの仕草や動き、音でもって、感覚的に「気持ちいい」と感じてもらうことだという。「なにかとなにかが接触するとか、擦れ合うとか、その動きやシチュエーションから考えるのが、僕の“気持ちいい感覚”です。ゲーム化を考える際に初めて気づいたのは、観賞者は、僕のアニメーション作品から、それを“観て”感じ取ってもらっているということでした。今回の企画を進めていく中で、実際に身体に気持ちよさを与える体験型も考えたのですが、僕にとって“観る”だけで相手の知覚に触覚的に届けることが大事なんだと気づき、それを実現できる企画に絞っていきました」。

どんなゲームなのか、詳細はまだここには記せないが、現在、2018年末のローンチを目指して、最終段階に入っている。

平成29年度メディア芸術クリエイター育成支援事業に応募した企画「いきものさん」のイメージ画より。
平成29年度メディア芸術クリエイター育成支援事業に応募した企画「いきものさん」のイメージ画より。

* ユニティ・テクノロジーズ社が提供する、ゲーム開発プラットフォーム。高度な映像描写や物理演算を必要とするゲームの開発に必要な機能を内包するゲームエンジンで、さまざまな端末やOSなどのプラットフォームに対応しているため、ゲーム開発環境として使われている。

わだ・あつし●1980年、兵庫県生まれ。大阪教育大学、イメージフォーラム付属映像研究所、東京藝術大学大学院で映像を学ぶ。2002年頃からアニメーションを制作しはじめ、「間」と「気持ちいい動き」を大きなテーマに制作を続けている。「グレートラビット」(2012年)がベルリン国際映画祭短編部門で銀熊賞など国内外で受賞。現在、大手前大学准教授。大阪教育大学、京都精華大学非常勤講師。 http://kankaku.jp


文化庁メディア芸術祭について

アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門において優れた作品を顕彰するとともに、受賞作品の鑑賞機会を提供するメディア芸術の総合フェスティバル。平成9年度(1997年)の開催以来、受賞作品の展示・上映や、シンポジウム等の関連イベントを実施する受賞作品展を開催している。
www.j-mediaarts.jp

text by Naoko Inoue (SOTOKOTO)

本記事は雑誌ソトコト2018年11月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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