テクノロジーは、人間をどこへつれていくのか
2020.03.12 UP

連載 | テクノロジーは、人間をどこへつれていくのか | 25 Time is life(時は命なり)

DIVERSITY

 僕にとって、あらゆる物事の中でもとりわけ「時間」の優先度は高い。時間は寿命のカウンターであり、命に同期していると考えるからだ。ということで、「Time is money(時は金なり)」ならぬ「Time is life(時は命なり)」を独自の座右の銘にしている。前者は、時給やタイムチャージのような拘束時間に応じた金銭の授受をイメージさせるが、「時間はお金同様に貴重なものであるから無駄に費やしてはいけない」という意が本当のところ。時間の尊さを表現している点では、実は後者と相違ない。もっと直接的にその価値を心身で吸収するために、僕は時を命に重ねる。

 空気のように存在している時間の正体を追ってみると、複雑な顔の持ち主であることを知る。時の流れにおける一点としての時刻、時刻と時刻間の長さ、あらゆる出来事と変化を認識するための枠。長い歴史的経緯の中でつくり出された「年・月・週・時・分・秒」という単位も、「なぜ一年は365日なの?」「一日が24時間である必要はあるの?」と問われたとすれば、おそらく明確な解に詰まるだろう。

 自然哲学での時間は、また別の顔を見せる。「万有引力の法則」で有名なアイザック・ニュートンは、「時間は過去から未来へと全宇宙いかなる場所でも同一の早さで進み、空間と共に現象が起きる固定化された舞台」とし、絶対時間と絶対空間という概念にまとめている。

 人間には絶対時間は知覚できず、物体が動くのを見ることで相対的に時間の経過を知るのだと論じた。これだけでは説明のつかない現象を埋めようとしたのがアルベルト・アインシュタインの相対性理論だ。

 光速に近づくと時間の流れが遅くなり、空間が縮むとする特殊相対性理論。重力は時間を遅らせ、空間を曲げるとする一般相対性理論。一般相対性理論にれば、地上から離れるほど重力は弱まるため時間の流れが速くなる。地球と火星では時間の誤差があるし、全宇宙で時間の速度は違う。宇宙に打ち上げられている人工衛星は、重力の影響も小さく高速移動しているため時間の誤差は大きくなる。日頃お世話になっているGPSによるナビゲーションも、GPS衛星が相対性理論に基づいて時間補正をしていることで時間のずれを感じずに利用できている。自然科学においてはまた別の顔を見せ、「あなたはいったい何もの?」と問いかけたくもなる。

 人間が感じる時間の速さは、年齢や気分も左右すると言われる。年齢を重ねるほど時間が早く過ぎるように感じたり、楽しかったり忙しかったりするとあっという間に時間が経っている。物理的時間と心理的時間にも差異があることは、皆が自覚するところだ。

 時間をさらにとりとめもないものにするのは、超高度テクノロジーである。人工知能やロボットが生産性を著しく向上させることで、既存の仕事の多くを人間がしなくてもすむようになり、その分新しい仕事が時間を埋め尽くすようになるとは限らない。時間があり余る感覚に浸ったとしたら、時間の体感速度も変化する。

 仮想現実の中で過ごしていると仮想と現実が曖昧になり、それに伴い物理的時間と脳内時間の経過にずれが生じる。時間の経過を物理的、心理的にコントロールするテクノロジーが生まれる可能性だってある。

 テクノロジーは、人間とともに時間をどこへつれていくのか。新たな時空の概念を創出し、われわれはいまとは違う時間の中を生きることになるのかもしれない。

記事は雑誌ソトコト2018年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

文●小川和也

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小川和也

おがわ・かずや
起業家、著作家、研究者、ラジオ番組ナビゲーターとして、ばらばらの点をつなげて未来をつくる活動をしている。起業家として独創的な事業を生み出し続け、2017年、世界的に権威のあるマーケティングアワード「DMA国際エコー賞」を受賞。人間とテクノロジーの未来を説いた著書『デジタルは人間を奪うのか』(講談社現代新書)は高等学校「現代文」の教科書をはじめとした多くの教材や入試問題に採用され、テクノロジー教育を担っている。北海道大学客員教授として人工知能の研究を行いJ-WAVE『FUTURISM』で番組ナビゲーターとして未来を生きる鍵を声で伝えている。また、実業と学術を往来し多様な表現方法を駆使しながら、未来のグランドデザインを描いている。最新刊は『未来のためのあたたかい思考法』(木楽舎)