鹿児島は、私にとっての“ソウルシティ”。
2020.03.12 UP

鹿児島は、私にとっての“ソウルシティ”。

LOCAL

鹿児島市がもう一つのふるさとになる、関係人口育成講座「かごコトアカデミー」。2019年9月から2020年1月にかけて全5回の講座が開催され、受講生それぞれが移住でも観光でもない形で“自分ごと”として鹿児島市との関わりを見出していきました。
修了生の一人・福島雅枝さんは東京生まれ東京育ち、外資系大企業に勤める都会のビジネスパーソンです。受講のきっかけとなった渋谷のバー『One Trick Pony』にて、かごコトアカデミー事務局がインタビューを行いました。

訪れたことのないまち。イメージしかない焦り。

事務局 かごコトアカデミーを知ったきっかけ、そして応募した理由を教えてください。

福島 仕事が落ち着いていた時期に「自分自身をバージョンアップさせたい」と考え、今まで興味や縁がなかったことを新たに始めたいと思っていました。そのタイミングで、このバーに募集チラシが置いてあって、鹿児島出身のマスターに勧められたのがきっかけです。チラシに描かれていた鹿児島市の「マグマシティ」のロゴがかわいくて気に入ったこと、また講座が土日中心で仕事に支障なく参加できそうと思い申し込みました。

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かごコトアカデミー1期修了生の福島雅枝さん。

事務局 講座初日の印象は?

福島 取り組む課題がなんだか漠然としていて、アカデミー修了時にどんなアウトプットを出せばいいのか不安でした。鹿児島に対する知識もゼロだったので、自分の考えることすべてがイメージや仮説でしかなく、「移住」という言葉も出てきたけど自分にとってハードルが高すぎて。ふわっとした課題に対して、自分は東京にいてなにを解決できるのか、どんな策を出せるのか。私はなにを求められてるんだろうと焦りを感じました。

事務局 たしかに「なにができるか分からない」と言っていたのを覚えています。そんなかごコトアカデミーの印象は途中で変わりましたか?

福島 ターニングポイントは11月初旬のフィールドワーク。鹿児島に初めて訪れてみて、「百聞は一見に如かず」を痛感しました。鹿児島というまちの未来を想像、ときに妄想する人々そのものに対して興味がわき、アウトプットどうこうより自分も関わりたくなりました。私は東京に住んでいて、まちの未来はゼネコンの再開発や海外から輸入したものをメディアがブームにすることでつくられると考えていたんです。これまで「このまちがこんなふうになったらおもしろいのに」という想像をしたことはなかった。

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フィールドワークで、現地の方がまちを案内してくれた。

けれど鹿児島でお会いした人々は「こうなったらおもしろいと思わないか?」ということを自然に話していて、日常的に街の未来を想像、妄想、そして構想していることにとても興味がわいたんです。鹿児島の人たちが小さな活動からスタートしていることも知り、漠然と自分も何かやってみたい、関わりたいという気持ちが生まれました。

そしてハードルの高かった移住に対しても、出会った方から「このくらいの期間なら住んでもいいと思えたら移住したらいい」 「(移住してみて)合わなければまた帰ればいい」と聞いて、移住も選択肢のひとつと捉えることができるようになりました。鹿児島のすべての方がこの考えではないかもしれないけれど、懐の深さがある場所なんだと感じることができました。

事務局 フィールドワーク中、福島さんが細かくメモを取っていたのも印象的でした。

福島 もともとノーアイディアだった分、あとから考えられるようにネタを一個でも多く残しておきたくて。とにかく取りこぼさないように集中した3日間でした。のんびりしていたのは移動中だけだったかもしれない(笑)。プレッシャーも感じていました。

事務局 プレッシャー。

福島 これだけ現地の方にていねいに案内いただいて、なにも価値を出さずに終わるわけにはいかない。そんな気持ちでした。

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フィールドワーク中に書いたメモ。ヒントになる言葉が詰まっている。

決めきれなかったからこそ、人とつながり続けることを。

事務局 フィールドワークを終えて、受講生それぞれが鹿児島との関わり方を見つめ、自分なりの「かごコトプロジェクト」を探り始めました。福島さんはどんな風に考えていきましたか?

福島 他の受講生が「焼酎」「音楽」「サッカー」などプランの軸を決めていく中で、私は講座の折り返しを過ぎても「これだ!」という明確なエッセンスを絞りきれなかった。とはいえなにか始めなきゃと考えたときに、とにかく人とつながり続けることをしていこう、その中で見つけていこうと考えました。エッセンスを探し続けるためにも、探せる場を持っておこうと。

事務局 そして、2つのプランを決めたんですね。

福島 はい。1つ目は、「Cago Fragment gallery」というインスタグラムのアカウント(www.instagram.com/cagofragmentgallery)を開設し、フィールドワークでみつけた鹿児島のすてきだなと感じたFragment(断片・カケラ)を並べました。すてきだと感じたことを自分のものだけにせず、とにかく発信することが目的。そして自分がキュレーターと名乗りたかったので「gallery」というネーミングにしてみました(笑)。

2つ目は、待ち合わせスナック「アストロ」。名前は鹿児島の名所である天文館(Astronomy Hall)に由来します。1つ目のインスタグラムがWeb上の一方的な発信なのに対して、こちらは対面のインタラクティブなつながりを目的としたプロジェクトです 。季節ごとにスナックイベントを開催し、鹿児島のお酒を使ったカクテルや料理を提供する予定です。開催場所はこの『One Trick Pony』。スナックイベントの収益を旅費に充てて、いつか鹿児島でも開催したいと考えています。

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待ち合わせスナック「アストロ」のポスター。
 

事務局 これは行きたくなりますね! 振り返ってみて、かごコトアカデミーで一番の収穫はなんでしたか?

福島 次に鹿児島を訪れるときに連絡したい、連絡できると思えるような鹿児島の方々に出会えたこと! そして他の受講生や関係者との、ゆるくて熱いつながりも貴重でした。

事務局 普段の生活では出会わない人たちだったのでは?

福島 なにも意識せずに暮らしていたら絶対に出会えない人たちでした。たとえなにかのイベントやバーで出会っていたとしても、その場限りだったかもしれない。「鹿児島」という軸と、鹿児島の方々の懐の広さがあってこそだと思います。趣味でも仕事でもない共通の軸を持ちながら、バックグラウンドが全く異なるひと同士のつながりができていったのが嬉しかったです。

東京出身者の切実さ。

福島 あとは、ふるさとがない私にとって、鹿児島という場所はソウルメイトならぬ“ソウルシティ”になったんです。

事務局 “ソウルシティ”、おもしろい。

福島 あくまで私の定義で、明確な目的はなくとも「満たされる」という理由で何度でも訪れたい観光地以上、ふるさと以外の場所のこと。鹿児島は私の中で、磨り減ったものを満たしてくれる、マイナスからプラスに持っていける場所。ふとした瞬間に行きたいと思える大事な場所になったんです。東京生まれ東京育ちの自分には、戻る場所は東京しかありませんでした。会社や趣味などのコミュニティはあっても、疲れたなと思ったときに“帰れる”場所を持っている人は少ない。私にとっての鹿児島のように、自分は“帰れる”場所を持っているんだと思えると、しんどいことがあっても自分で自分を懐柔できる。そういう場所は、都会の中よりもローカルの方が、完全に気持ちが切り替わるので見つけやすいと思うんです。

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東京出身でも、鹿児島という“ソウルシティ”を見つけることができた。

事務局 実は都会の人のほうがローカルを必要としているのかもしれない。

福島 もともとかごコトアカデミーを受けるとき、地方創生の文脈ではやりたくなかったんです。ローカルを選択肢の一つとして受け止めるには、地方創生という言葉では届かない。東京でも好きな場所はあるけれど、「自分のまち」という感覚は一ミリもなかった。かごコトアカデミーを通じて鹿児島に出合えたことで、人も情報もお店もイベントもあふれている東京という場所で思考停止状態だった自分に気が付けました。

事務局 まちに主体的に関わるということに気づけたんですね。これからどんな風に鹿児島に関わっていきたいですか?

福島 まずは自分で2つのプロジェクトを動かして、東京や鹿児島でいろいろな人に出会いたいです。東京から参画できるプロジェクトがあったら一緒にやってみたいし、お手伝いしたい。そしてゆくゆくは短期間でもいいので鹿児島に住みたい! あと、初回の待ち合わせスナック「アストロ」は5月16日(土)、東京・渋谷の『One Trick Pony』にて予定しています。ぜひ遊びにきて「記事見たよ!」って声かけてください!

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『One Trick Pony』のマスターと一緒に。

伴走者の視点から。

かごコトアカデミーは首都圏在住者を対象とした講座ですが、実は鹿児島市内でも同様に、市民がまちを面白がる講座「PLAY CITY! DAYS」が動いていました。130人のメンバー同士が鹿児島市で暮らす魅力を語り合いました。ワークショップや実践プログラムを通してさまざまな企画が生まれ、市内各地で実現されたそうです。かごコトアカデミーフィールドワークでは、PLAY CITY! DAYSの受講生と交流する時間があり、お互いに刺激を受けていた様子。共通していたのは「鹿児島のまちを思い、楽しむ」ことでした。

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フィールドワークにて、PLAY CITY! DAYSとかごコトアカデミーのメンバー同士が交流した。

PLAY CITY! DAYSとかごコトアカデミー双方のメンターであり、受講生に伴走し続けた『鹿児島天文館総合研究所 Ten-Lab』理事長・永山由高さんは、福島さんのプロジェクトにこんなコメントを寄せました。

永山 関係人口として関わるからこそ、名乗りたいものを名乗ることができる。キュレーターにしてもスナックのママにしても、もしかしたら自分が暮らすまちではなく、どこかほかのまちのほうが実現しやすいのかもしれない。これまで自分の中で大事にしていたけれどなかなか正面から触れていなかったことを、触り始めるきっかけになれる場所。それが“ソウルシティ”なのかもしれない。

かごコトアカデミーで講師を務めたソトコト編集長・指出は、このように考えます。

指出 外から地域に関わることを広げていくのは「関係人口」、その土地に住みながら地域のことを盛り上げていくのは「活動人口」。これらは車輪のようなもので、片方だけでなく両輪が回ることで前に進む、すなわち未来をつくることができる。この両輪を持っているまちは非常に少ないが、鹿児島市はそれを持つ稀有なまち。お互いに顔の見える関係性が紡がれていくことで、鹿児島を軸に仲間が増えていく。福島さんが鹿児島を“ソウルシティ”と感じることができたのは、鹿児島で受け入れてくれる仲間ができたからだと思う。

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左・講師の指出、右・メンターの永山さん。
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鹿児島市のロゴ「マグマシティ」。赤い糸(市民)と青い糸(市外の人々)が織り成し、新しい鹿児島市を紡いでゆく。

ふとした瞬間に頭に浮かぶ場所“ソウルシティ”。そこにはきっと、まちを楽しみながら暮らす人々の笑顔が一緒に浮かんでいるはずです。

あなたにとっての“ソウルシティ”は、どこですか?

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鹿児島のシンボル・桜島。鹿児島に帰ると、この景色が迎えてくれる。

photographs by Yuki Arai, Shinichi Takamatsu

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