MEDIA GEIJUTSU 文化庁メディア芸術祭メモランダム Vol.4
2019.04.14 UP

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DIVERSITY

身体の拡張、研究の拡張。
佐々木智也、MHD Yamen SARAIJI

「新たな腕」を増やすというコンセプトの作品「MetaLimbs」が、2018年の「第21回文化庁メディア芸術祭」エンターテインメント部門新人賞を受賞している。バックパックを背負うように装着する2本のロボットアームを、足の動きと関連づけてその先にあるロボットハンドを共に自在に操るというガジェット作品だ。ロボットアームは左右の足の甲と膝に取り付けられたセンサーで膝の動作と連動させ、ロボットハンドは足の指の動作と連動させてそれぞれを動かす。またロボットハンドに取り付けられている触覚センサーが、その手のひらで触ったり掴んだりしたものの感触を足へとフィードバックしている。

「MetaLimbs」制作のスタートは、2015年、慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科修士課程在学中だった佐々木智也さんの修士論文研究テーマに遡る。「はじめに、偽物の手を自分の手のように感じるという錯覚『ラバーハンドイリュージョン』の拡張から着手して、この現象が片腕に2本の腕がある場合にも引き起こされるのか? ということをVRを使って調べるところから始めたんです」。その一方で、佐々木さんは役に立つロボットを作りたいという気持ちもあり、身体を動かすことが難しい人が手を伸ばして、ものを掴んで自分のいるところに持ってくることができるようなロボットのアイデアも考えていたという。「身体の外部にロボットの手があるイメージや、どうやったら増やした腕に身体感覚を感じられるのかということを考えていった先に、足の感覚をロボットアームに対応づけられるのではないかという『MetaLimbs』の原型ができていきました」。

「MetaLimbs」の使い方に慣れれば、ボールも紙コップも掴むことができる。アームの先にハンダゴテをつければ、人間の身体能力を超える機能を付与できるという。
「MetaLimbs」の使い方に慣れれば、ボールも紙コップも掴むことができる。アームの先にハンダゴテをつければ、人間の身体能力を超える機能を付与できるという。

「MetaLimbs」のもう一人の作者ムハマド・ヤメン・サライジさんは、大学院では佐々木さんのメンターで、バックグラウンドがコンピューターサイエンスとAIの研究という同大学院のメディアデザイン学博士だ。「相談を受けて、これはいいなと思いました。身体で体験できること、その体験が身体にフィードバックされること。このインタラクティヴなところが、私の研究と近い部分がありました。人間とロボットが組み合わさることで、どうやって自分の身体を拡張するか、に興味がありました」。佐々木さんとヤメンさんは、ここから2年かけて「MetaLimbs」を完成させていく。そして2018年、「第21回文化庁メディア芸術祭」エンターテインメント部門新人賞を受賞する。「自分の身体感覚が変わるような体験は確実におもしろいですし、研究のアウトプットとして人前で公開することは重要なので、エンターテインメント部門への応募申請はかなり戦略的でした」と、佐々木さんは学会以外での研究成果の届け方の重要性について言及する。「オープンラボを開催すると、足を運ぶ大半は研究者です。質問もコメントも技術的なものに偏りがちです。ですがメディア芸術海外展開事業の一環で、2018年9月オーストリアで開催されたアルスエレクトロニカ・フェスティバルに出展したときは、コレオグラファーがブースを訪れ、『ちょっと踊ってもいいですか』と、『MetaLimbs』を装着して立ったまま手足を動かし始めたんです」。ヤメンさんは興奮気味に回想する。「足の動きと手の動きは骨格的にも全然違うので、それをどのように表現しようとしているのか? これは研究的にもおもしろいテーマだと思います」。佐々木さんもその時のことを振り返る。研究者の発表の場が拡張することは、研究において新たな仮説展開と立証へとつながっていく例と言えるのかもしれない。

「MetaLimbs」のプロトタイプ。
右/「MetaLimbs」のプロトタイプ。片方の腕に2本の腕があるという状況。左/片腕に2本の腕がある状態を、VRを使って実験している様子。

今、二人は、「MetaLimbs」を装着した身体に何が起こっているのかの科学的解明に着手している。「足でロボットアームを動かしているとき、人は足を動かしていると感じているのか、腕だと思って動かしているのかを脳科学や心理学の側面から解析しています」。佐々木さんはここから更なるエンジニアリングが可能になるとみている。「『MetaLimbs』は一人の身体の変換です。もう一つ別の研究の方向性として、2つの身体をどう融合させるのか、複数人での身体変換は可能なのか、それによってどのような変化が社会に起きるのかといったことを考えていて、現在研究を進めています」と、ヤメンさんは示唆する。「MetaLimbs」による人間のソーシャルな変換も、そう遠くないはずだ。

アルスエレクトロニカ・フェスティバルの出展ブースで、コレオグラファーでディレクターでもあるナニーネ・リニングさんが「MetaLimbs」を動かしている様子。
アルスエレクトロニカ・フェスティバルの出展ブースで、コレオグラファーでディレクターでもあるナニーネ・リニングさんが「MetaLimbs」を動かしている様子。

*1 共同制作者:Charith Lasantha Fernando/南澤孝太/稲見昌彦(慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科/東京大学先端科学技術研究センター)
*2 自分の手(リアルハンド)と偽物の手(ラバーハンド)を机の上に並べて置き、リアルハンドが見えないように仕切りを立てる。被験者がラバーハンドを観察しているときに、リアルハンドとラバーハンドを同時に撫でたり触ったりすると、まるでラバーハンドが自分の手であると感じること。
*3 文化庁は、優れたメディア芸術作品を海外へ発信するため、世界のメディア芸術関連フェスティバル・施設において、文化庁メディア芸術祭の受賞作品ほかの展示・上映・プレゼンテーションなどを行っている。https://jmaf-promote.jp
*4 1979年よりオーストリアのリンツで開催されている、最先端のアートとテクノロジー、そして社会を切り取るフェスティバル。

ささき・ともや●1994年生まれ。2017年慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科(KMD)修士課程修了。ロボット工学、バーチャルリアリティを用いて人間の身体能力の拡張や新たな身体感の獲得について研究している。
ムハマド・ヤメン・サライジ●1988年、シリア生まれ。慶應義塾大学大学院メディアデザイン研究科特任講師。2010年シリアのダマスカス大学卒業。2015年KMD修士課程修了、2018年同博士号取得。テクノロジーやロボット工学によって人間の新たな能力をつくり出し、人が機械を自分の身体の一部のように使うことができるよう研究している。SIGGRAPH、Augmented Human、ICATなど数々の国際会議での実演・受賞経験を持つ。

文化庁メディア芸術祭について

アート、エンターテインメント、アニメーション、マンガの4部門において優れた作品を顕彰するとともに、受賞作品の鑑賞機会を提供するメディア芸術の総合フェスティバル。平成9年度(1997年)の開催以来、受賞作品の展示・上映や、シンポジウムなどの関連イベントを実施する受賞作品展を開催している。
www.j-mediaarts.jp

text by Naoko Inoue (SOTOKOTO)

本記事は雑誌ソトコト2019年1月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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