町の日常を観光に!熊本県高森の地域住民と観光客のマッチング【TAKAraMORI・中屋祐輔対談】
2020.05.01 UP

連載 | 体験にはいったい何があるというんですか? | 5 町の日常を観光に!熊本県高森の地域住民と観光客のマッチング【TAKAraMORI・中屋祐輔対談】

PEOPLE

熊本県阿蘇山の南東部に位置する高森町は、多くの自然に恵まれており、日本酒の蔵元や醤油の醸造元をはじめ、歴史のある商店や建造物が立ち並ぶ町。一般社団法人「TAKAraMORI」は、まちづくりとして、高森町を体験できる「高森じかん」、南郷檜(なんごうひ)を使った製品づくり、生産者を紹介するショッピングサイト「FAMILY TREE TAKAMORI」の運用などを行っています。
今回は、TAKAraMORIで地域おこし協力隊として活動している松村由美さん(写真左)、吉村千夏子さん(写真左から2番目)、集落支援員として活動している大野希さん(写真右)の3人にお話を伺いました。

高森町を体験できるプログラム「高森じかん」ができるまで

高森町の日常を体験できるプログラム「高森じかん」の冊子
高森町の日常を体験できるプログラム「高森じかん」の冊子

中屋 大野さんは、高森町の日常を体験できる「高森じかん」という観光プログラムを作られているそうですが、「高森じかん」ができた経緯を教えてください。

大野 高森町の観光立町という条例が作られたんですが、その中で「高森じかん」という観光プログラムが生まれました。1年目は事業所やプロの方に制作をお願いしましたが、2年目からは私が制作を行っています。イラストタイプの方が写真より温かみもあって可愛いとういことで、高森町出身のイラストレーターさんに絵のデザインをお願いしました。

中屋 これは集めたくなるデザインですね。

大野 今までは高森町の観光地を巡って「楽しかった」と言って帰る方が多かったんですけど、それって何も残らないと気付いたんです。地域の紹介や町にいる素敵な人の紹介を兼ねてプログラムを作れば、高森町に来るリピーターが増えるのではないかと考えました。
 

対談の様子
対談の様子

中屋 「高森じかん」は制作する度にブラッシュアップしていて、コンテンツも飽きさせないように毎回工夫されていると思うんですが、どうやって新しい企画を作っているんですか?

大野 最初は地元の人と何度も打ち合わせを行っていましたが、何度か続けていくと、今度はあの人とこんな企画ができそうだなと見えてきたり、1回やってくれた方が別の人を紹介してくれたりました。最近は事前にヒアリングをして、組み立てや企画内容をある程度詰めて進めています。

中屋 プログラムに落とし込むことを大野さんがされているんですね。

大野 定番のものや人気があるものは毎年入れていますが、最近はリピーターが増えてきているので、この企画をやりたいという声も増えてきました。違う地域の人がどういう体験を望んでいるのかを考えて、それを実現してくれそうな人やプログラムとマッチングするというような感じです。
 

「高森じかん」を通して地域の可能性が広がっていった

「高森じかん」の人気プログラム「神話歴史の旅」の様子
「高森じかん」の人気プログラム「神話歴史の旅」の様子

中屋 はじめは「高森じかん」を知らない人がほとんどだったと思いますが、初期の頃は何人くらい参加者がいましたか?

大野 毎回10プログラム前後をやっているので、リピーターも含めて全部で100人前後というところです。

中屋 一番人気のあるプログラムはどういうものですか?

大野 人気ガイドさんと巡る神話歴史の旅です。毎回コースが違うんですが、その方のファンができています。あとは高尾野という地区にある樹齢約700年のイチョウを愛でる集落の小さなイベント「紅葉まつり」に、その日だけ住民として参加できるプログラムも人気です。

中屋 今まででやっていて良かったなと思う瞬間はありますか?

大野 参加者に楽しかったですと言われたり、企画している方から「来年ならこういうこともできるよ」と言ってもらえたりしたときです。元々観光客向けに作っているので、高森町の人がこれを見て楽しそうだなと思って来てくれるのが本当にありがたいなと思います。
 

「高森じかん」のプログラムでお昼ごはんに田楽を体験している様子
「高森じかん」のプログラムでお昼ごはんに田楽を体験している様子

中屋 高森町以外の方と地元の方の割合はどれくらいですか?

大野 半々ぐらいです。本当は実施者と観光客だけのはずでしたが、そこに町内の人が加わることによって、より多くの人と知り合いになれるので、年に一回「高森じかん」で会う人もいますね。「地域のことを深く知る機会が今までなかったから、高森じかんを通して地域のことを知るきっかけができてすごくありがたい」と言ってもらえるのは嬉しいです。

中屋 そういう人たちがどんどん仲間になっていくと良いですよね。今後はどういった方をターゲットにしていきたいですか?

大野 今は年配の方が多いので、もう少し年齢層を広げていきたいです。最終的にはこの企画をやってくれている方が、自分たちでお客さんを呼んでワークショップを開催してくれたら良いなという想いがあります。

松村 色々な企画をしてきた方が陶芸の教室を開く際に、「高森じかん」を企画したことがとても参考になったとおっしゃっていました。とても感謝しているという話を聞いて、「高森じかん」の可能性を感じましたね。

中屋 職業体験というか、地域の可能性を知る体験だったということですよね。

松村 大野さんがいたからこそだという風に話をしていたので、これを絶やしちゃいけないなと思っています。
 

体験があったからこそ生まれた商品

「高森じかん」のプログラム「こんにゃく作り体験」
「高森じかん」のプログラム「こんにゃく作り体験」

中屋 「高森じかん」があって、それが商品開発にも繋がっていると思ったのですが、体験から生まれた商品はありますか?

大野 こんにゃく作りの体験プログラムでは、こんにゃくを作ってから色々なところに商品として卸し始めました。「みさを大豆」という商品も、収穫後に食べてから商品化したいということで販売を開始しました。

中屋 そういう意味では体験と商品開発が密接に関わっている感じですよね。

大野 これだけが独立しても良いんですが、せっかくここでやるので、色々なものを絡めていきたいという想いはあります。

中屋 体験から商品が生まれるパターンと、体験を通してお客さんの反応を見れるというパターン。この2つのアプローチで見て行けるのはすごく良いですね。

大野 ウッドフラワーを作るプログラムは、参加してくれたお客さんの反応が良かったので、商品化にも繋がりました。

中屋 高森町というフィールドがあって実際にお客さんが来た時に、作る工程を知ったり、物として欲しいという想いが強かったりすると、それを商品や体験にしようと思うわけですよね。

大野 体験を提供する時にこの金額だったから、商品を販売するときもこの値段でいけるんじゃないかと裏付けすることができます。
 

木工作品で南郷檜の魅力を発信したい

吉村さんが木工製作をしている様子
吉村さんが木工製作をしている様子

中屋 吉村さんはTAKAraMORIで木工製作をしているそうですが、元々は林業の分野で関わりたいということで高森町に来られたんですか?

吉村 阿蘇で木工をしたいという、ざっくりとした目標がありました。高森や南阿蘇の雰囲気が気に入って、この場所に住もうと思い家を探していたんです。たまたま高森町役場のホームページを見ていたら「南郷檜の商品開発」の求人募集をしていたので、すぐに電話を掛けました。そこからトントン拍子で物事が進んでいって、高森町で木工製作をやることになりましたね。

中屋 すごい行動力ですね。南郷檜とはどういうものなんですか?

吉村 日本で唯一の、挿し木で育つ品種のヒノキです。ヒノキは通常、種から育てられるのですが、南郷檜は枝を地面に植えて育てる挿し木という方法で育てられています。南郷檜は江戸時代からずっと植え継がれてきた阿蘇の宝です。

量自体がすごく少なく、手入れも難しいので、今後も南郷檜をずっと育てていけるように商品を作っていきたいです。また、地域の子供達を中心に南郷檜を知ってもらおうという木育体験の取り組みも並行して行っています。
 

南郷檜を使って製作した商品
南郷檜を使って製作した商品

中屋 吉村さんはどうやって木工を学んでいったのですか?

吉村 初心者だったので、とりあえず阿蘇中の木工所を回って知り合いを作ったり、大野さんにいっぱいアドバイスをもらったりしました。あとは、ここから2時間くらい離れている大分の学校に毎週通ったりもしましたね。

商品開発は全て、地域の方々に助けて頂きながら南郷檜の間伐材や端材(通常は捨てられてしまう部分)を活用して作っている他、山からの材料収集や製材加工パッケージ販売に至るまでを自分たちで行っています。

中屋 木工をやりたいと思って高森に来て、南郷檜に出会ってそれを形にするために奔走してきたということですね。

吉村 木をもらってきたけどどうしたらいいんだろうとか、皮は剥いた方が良いのかとか、試行錯誤の毎日を送っていました。

中屋 いろんなことにトライしながら自分の中で経験値を溜めていったんですね。

吉村 南郷檜の精油を活用した化粧水やバスソルトなどの雑貨商品、端材を活用した木工小物の商品開発などをしています。最近は南郷檜を使ってテーブルを作るという大掛かりな挑戦をしました。試行錯誤を繰り返しながら日々新しいことに取り組んでいます。
 

試行錯誤を重ねながら製作したテーブル「木雲」
試行錯誤を重ねながら製作したテーブル「木雲」

中屋 失敗を恐れないのがすごいですね。

吉村 というか失敗が分からない(笑)。今3年目になってようやくいろんなことができるようになってきました。最近になってやっとものづくりの立ち位置に立てたという感じがしています。

中屋 この話面白いですね。そういうストーリーで商品を紹介できたら良いですよね。南郷檜という素材はあったけど、吉村さんが入ってきたことによって新しいアイテムづくりを始めることができたということですよね。

松村 吉村さんが来てくれたおかげで一気に製作が進みました。南郷檜があるからTAKAraMORIとコラボしたいと言ってくれるので、地道に一個ずつ商品が増えていったのだと思います。

中屋 色々なプロダクトもそういうきっかけがあって作られているということですよね。

吉村 すごい回り道したと思います。もうすぐ地域おこし協力隊の任務が終わるんですけど、原点はここなのでこれからも高森町に関わり続けたいと思っています。皆さんとの出会いは宝物です。
 

「FAMILY TREE TAKAMORI」という言葉に秘められた想い

高森駅前にあるTAKAraMORIの事務所
高森駅前にあるTAKAraMORIの事務所

中屋 dot button companyも、高森町の生産者を紹介するショッピングサイト「FAMILY TREE TAKAMORI」の立ち上げ時から一緒にプロジェクトとして取り組んできましたが、この町と関われる事がすごく楽しみで仕方なかったし、ここが原点でもあります。

松村さんは「FAMILY TREE TAKAMORI」の立ち上げから関わってくれていましたが、当時はどういう想いがありましたか?

松村 当時は別の会社で働いていたのですが、中屋さんたちと様々なワークショップを行って、「FAMILY TREE TAKAMORI」という素敵な名前を付けてもらえたのが嬉しかったです。私にも高森町にいる生産者さんの想いや商品を、ECサイトを通じてお届けすることができるかもしれないと思い、勤めていた会社の退職を機にTAKAraMORIスタッフとして関わることになりました。

中屋 地域でこうやって素敵な商品を作っている方が代々歴史を受け継いで、東京へ行ってもUターンして仕事を受け継ぐというところから、家系図という意味の「FAMILY TREE」という名前を付けました。名前にふさわしい町だなと思っています。

松村 売上が伸び悩んでいた時に「売上ではなくて残っていることが大事」という言葉を頂いたのが印象に残っています。細々でも良いから「FAMILY TREE TAKAMORI」という名前がなんとか残るようにしたいです。
 

一般社団法人TAKAraMORIのスタッフ。写真左から吉村さん・井上さん・大野さん・松村さん
一般社団法人TAKAraMORIのスタッフ。写真左から吉村さん・井上さん・大野さん・松村さん

中屋 僕らも残していくことがすごく大事だと思うし、ありがたいなという想いがあります。各々にストーリーがあって、ここにいるメンバー全員が外部の人だけど、それでも粘って続けてきたというのがすごいですよね。

松村 もう一人TAKAraMORIのスタッフで井上真希さんという女性がいるんですが、その方は昆虫や草花が大好きで、その話が聞けなくて残念です。スタッフみんなに共通していることは、高森町で自分にできることは何かを日々追い求めているということです。

中屋 3人から話を聞いていると、高森町にそれだけ良いものがあったり、やってきたことに対してすごい自信を持っていたり、もっとこうできるっていう想いがすごく伝わってきます。

地域の中の大きな課題の一つとして、ハブをどう作るかということもこれからTAKAraMORIが発展していく上では必要になってきますよね。僕らの会社は〝体験を開発する会社”と言っていますけど、TAKAraMORIの方が体験を開発しているなと思いました。
 

体験には何があった?

木育体験の様子
木育体験の様子

高森町に所縁のない4人が高森町に住んで、試行錯誤をしながらも日々奮闘していく原動力は、高森町のために自分ができることを還元していきたいという想い。高森町の日常を体験できるプログラム「高森じかん」を運用していく中で地域の可能性を広げていくことができたり、体験を通して新しい商品を開発したりすることへと繋がっていきました。

失敗を恐れずに挑戦していく姿勢、折れない心を持って行動することで、今までの積み重ねが形として残り、新しい道を切り拓いていく機会を生み出すことができたのだと思います。

一般社団法人 TAKAraMORI
FAMILY TREE TAKAMORI

文・木村紗奈江

【体験を開発する会社】dot button company株式会社

キーワード

大野 希

1977年生まれ。福岡県久留米市出身。
大学にてランドスケープを学んだ後、造園のコンサルタントに8年勤務。公園設計やまちづくり業務を行う中で「もっと人と関わる仕事がしたい」という思いが強くなり、転職。
福岡県八女市星野村にて直売所の立ち上げ・運営に関わり、縁あって高森町へ。2014年から3年間、地域おこし協力隊として地域振興に従事し、過疎化の進む山間地の住民と一緒に、町の特産物を使った商品開発や地域づくりに取り組む。
現在は集落支援員となり、2016年6月に立ち上がった、まちづくり組織「TAKAraMORI」にて、プランナーとして、体験プログラムの企画・運営を行い、高森町の魅力を外へ発信する活動を行なっている。

中屋祐輔

体験を開発する人。
シナジーマーケティング株式会社にて「復興デパートメント」リブランディング、東北の若手漁師集団「FISHERMAN JAPAN」のファンクラブ担当、熊本地震の復興クリエイティブチーム「Bridge KUMAMOTO」理事。ほっとけないどう事務局。2017年4月よりdot button company株式会社を設立。

木村 紗奈江

dot button company株式会社・エディター、ディレクター。大学を卒業後、ピースボートで初海外・世界一周の旅に出る。帰国後は日本中を約2年半旅しながら働く生活を送る。映像クリエイター、ライター、カメラマン、料理人など、多彩な顔を持つ旅を愛する自由人。
自らの体験が人生を変えたように、今度は自分がワクワクする体験を開発したいと思い日々奮闘中。