大久保鍛冶屋さんの仕事場 かじやのじかん
2020.03.22 UP

連載 | リトルプレスから始まる旅 | 72 大久保鍛冶屋さんの仕事場 かじやのじかん

SUSTAINABILITY

一本の包丁ができるまで。

 今回紹介するリトルプレスは、徳島県勝浦郡勝浦町にある大久保鍛冶屋さんの仕事場を紹介する『かじやのじかん』。

 リトルプレス『かみかつ時間』や『おひさまとかまど』を発行する中野晃治さんが写真と文で綴った一冊。

 今、ほとんど残っていない鍛冶屋も、第一次産業(農業、林業、漁業)が盛んだった頃には必要とされ、どの村にも存在していた。

 明治以降、近代的な製鉄技術の導入によって廃業を余儀なくされ、現在も伝統的な技法を継承する鍛冶屋は、非常に少なくなった。

 今でも残る数少ない鍛冶屋のひとつ、大久保鍛冶屋さんが作る道具は、菜切り包丁、切り包丁、出刃包丁、刺身包丁、みかんの取り籠の枝掛け金具(勝浦はミカンの産地)、草抜き名人(道具)、、植木用のハサミ、栗むきなど。

 『かじやのじかん』では、大久保鍛冶屋さんが作る「包丁」ができるまでを、写真を中心に順を追って紹介している。

ベルトハンマーや鎚で、 鋼と鉄を成形する作業風景。
ベルトハンマーや鎚で、鋼と鉄を成形する作業風景。

 を切る⇒鍛接⇒火造り成形⇒焼きなまし⇒刻印⇒面取り成形⇒焼き入れ、焼き戻し⇒歪みなおし⇒ぎと柄付け。

 作業場の暗がりの中、火窪と呼ばれるかまどの横で作業は進む。鉄の塊は赤くなるまで熱し、で叩き、冷えると、また熱し、繰り返す。4時間から5時間かけて、ひとつの道具として生み出される。

 火窪の熱の横、暗がりの中で、全工程で数千回叩き、何十年もかかって磨いてきた技術で完成させる。

 ベルトハンマーで包丁を成形する場面からも、確かな職人としての所作を感じる。

『大久保鍛冶屋さんの仕事場 かじやのじかん』

 何げなく置いてある道具、使い続けている金床、デスクライトや鉄の柱にある鈍い光沢や、歪み、表面を覆う微妙な凹凸から、人の手による作業と、それを生み出した時間を感じる。

 出来上がった包丁は、独特の質感を持つ。機能と伝統から生まれた形の表面に現れる微妙な揺れが、職人の確かな技と自信を示す。

『大久保鍛冶屋さんの仕事場 かじやのじかん』

 家電やパソコン、スマートフォンに囲まれて暮らす僕たちに「道具」「物」に何が必要なのかを、大久保鍛冶屋さんは、改めて教えてくれるのだと思う。

 誌面では、包丁を入れる巧みな紙箱や、鍬のメンテナンスの様子、切れ味の違いの秘密や、包丁の砥ぎ方など、鋼や鉄で作られた道具と長くつき合う方法も紹介されている。

『かじやのじかん』著者より一言

『かじやのじかん』著者より一言

 鉄の塊から包丁、鉈、鍬……と、さまざまな道具を作る鍛冶屋さんが隣町にあることに興奮し、始めた取材でした。ある道具を専門に作るのではなく、注文に応じて何でも作る鍛冶屋さんは、全国的にも少なくなっているようです。使い捨てでない、大切に使い続けたい「道具の時間」に触れる毎日でした。

今月のおすすめリトルプレス

『大久保鍛冶屋さんの仕事場 かじやのじかん』

『大久保鍛冶屋さんの仕事場かじやのじかん』

 大久保鍛冶屋さんの仕事場を紹介するリトルプレス。

著者:中野晃治 編集:中野智子
発行:かみかつ時間編集室
2017年12月発行、148×210ミリ(60ページ)、1200円

記事は雑誌ソトコト2018年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

文●根木慶太郎

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根木慶太郎

ねき・けいたろう
岡山県玉野市で新刊や古書、洋書、リトルプレスを扱う書店『451ブックス』を経営。地元では「絵本を読む」教室なども開催。全国から取り揃えたリトルプレスはネットショップでも購入可。www.451books.com