既存のコミュニティに加わる、新しい人たちの、新しいアイデアを惹きつける場所。
鎌倉駅から徒歩5分ほど、地元の人たちが行き来する通り沿いに、ガラスも真新しい3階建ての建物がある。あるときは大人が集まり勉強会をしていたかと思うと、別の日には子どもたちが集まり大人と一緒にご飯を食べていたりする。腰を掛けたくなる大きな縁台とのれんや提灯が下がる軒先に、通りがかりの人も不思議と惹き寄せられてくる。『HATSU鎌倉』は、キッチンのあるコミュニティラウンジとシェアオフィスから構成される空間で、レクチャー、フィールドワーク、ネットワーキング、メンタリングなどの実践的なプログラムを提供する起業支援の拠点である。「かながわ」発の起業家を育てようとする神奈川県の発案を、地元・鎌倉の地域活動に長く携わっている『カヤック』が具体化した。
『HATSU鎌倉』では、会員となりシェアオフィスを利用しながら自らのネットワークを広げることもできるし、起業を志すチャレンジャーとなって、メンター、専門家、投資家からの支援を受けることもできる。この日もチャレンジャーを中心に、ITビジネスに詳しい専門家によるメンタリングが行われていた。参加者の中には、起業準備中の人、子育て中の女性、会社員、すでに事業を始めている人などもいて、ファシリテーターの繰り出す質問にみんなでアイデアを出し合っている。参加者同士が惜しみなく助言し合うプログラムの様子を見ながら、居合わせた神奈川県産業部産業振興課の担当者もビジネスの種がこのように育つことをうれしく思うと話していた。
「まちを耕すような感覚です」と『カヤック』広報部の梶陽子さん。ゲームやWebサービスを制作するクリエイター集団として知られる『カヤック』は、「つくる人を増やす」という経営理念をもつ。社長が3人いること、サイコロで給料を決めることなどで注目されてきたが、近年はまちづくりのプレーヤーとしての存在感を増している。地域の課題を話し合う場である「カマコン」、鎌倉で働く人に限定した「まちの社員食堂」、「鳩サブレー」の『豊島屋』と共に設立した「まちの保育園」など、まちに関わる人を増やすための仕掛けとなる場が歩いて行ける範囲に点在している。『HATSU鎌倉』はそのような既存のコミュニティに無理なく加わるためのゲートウェイとしても機能し、新しい人たちの、新しいアイデアを惹きつける場所となっている。
HATSU鎌倉 神奈川県鎌倉市大町1-1-14
www.pref.kanagawa.jp/osirase/0604/hatsu
記事は雑誌ソトコト2020年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。
写真・文●坂口 緑