『十秋園』の野久保太一郎さんと一緒に、田辺の市街地を一望する高尾山の展望台へ。山と海がある田辺を体感しながら、『十秋園』のみかんをいただいた。
2020.04.07 UP

首都圏から田辺市を目指す人が増えています!たなコトアカデミーでつながり、生まれる新しい可能性。

LOCAL

和歌山県田辺市と首都圏がつながり、新しい関係をつくっていく「たなコトアカデミー」。
第2期の受講生たちが自分なりのつながりを見つけるために田辺を訪れ、現地のプレイヤーたちと交流。
その後、受講生たちが考えたプロジェクトは、それぞれの視点・得意分野が活かされた個性豊かなものでした。

東京×田辺のプレイヤー、夢の共演のはじまり。

 自分たちが暮らす街の課題をビジネスで解決しようと、多くのプレイヤーとプロジェクトが誕生している和歌山県田辺市。そんな田辺市と小誌『ソトコト』がコラボする関係人口講座「たなコトアカデミー」の2019年度開講の第2期には、都会で暮らしながら地域との自分らしい「関わりしろ」を考えようと15人の受講生が集まった。

 18年度の第1期は、田辺の魅力を首都圏にどう伝えていくかを考えた。柑橘や米、梅干しなどの産品を、東京・渋谷区の「青山ファーマーズマーケット」に出店して販売。SNSを通じたPR活動、店のレイアウト決めからすべてを受講生が行った。

 第2期では、受講生それぞれがプロジェクトを考え発表することをゴールに、実際に現地へ行って、地域の「今」を肌で感じるフィールドワークを2020年1月に実施。田辺のローカルイノベーターを育てる「たなべ未来創造塾」の修了生たちを中心に、田辺を元気にする活動をしているプレイヤーたちに話を聞いた。地域の課題やプロジェクトを知ったうえで、自分には何ができるのかを考える2泊3日の行程には12人の受講生が参加した。

まずはぶらぶら街歩き、田辺の全体像を把握する。

 田辺市は、世界文化遺産の「熊野古道」や、温暖な気候で育まれる梅や柑橘などの農産物、太平洋で捕れる水産物など、地域資源に恵まれた場所だ。フィールドワーク1日目は、街も海も山もある田辺の土地柄を知るため、街歩きからスタート。

創業は江戸時代の天保年間という老舗和菓子店『辻の餅』。
竹林陽子さんの先導で路地商店街をめぐり、「軽めのディープ」な田辺を見て回る。

 案内人は「たなべ未来創造塾」1期生で、熊野の山を元気にする活動を行う『Boku Moku』のメンバーであり、街歩きを楽しむ『tiku』も主宰する竹林陽子さん。「観光ではないけれど、ありふれた日常にある田辺のよさを感じてもらいたい」とみんなを連れて行ったのは、入り組んだ路地に200店近い飲食店が立ち並ぶ『味光路』や、昭和の薫りそのままにたたずむ『岩崎商店』『辻の餅』など。細い路地や、レトロな看板などを眺め、みんなが楽しそうにしているのを見て、「シャッター通りでも、ちょっと見方をかえると、映画『三丁目の夕日』のような昭和の薫りが感じられる場所に思えてくる」と竹林さんもうれしそうだ。

竹林さんのお気に入りの衣料品店『岩崎商店』へ。みんなでレトロワンピや金田一耕助風コートを試着して盛り上がる。
竹林さんのお気に入りの衣料品店『岩崎商店』へ。みんなでレトロワンピや金田一耕助風コートを試着して盛り上がる。
創業は江戸時代の天保年間という老舗和菓子店『辻の餅』。
創業は江戸時代の天保年間という老舗和菓子店『辻の餅』。

 その後、柑橘・梅農家『十秋園』の野久保太一郎さんと行った田辺市を一望できる高尾山では、壮大な夕日を眺めながらみかんを食べた。そして『秋津野ガルテン』では、廃校を活用した地域づくりを長年行ってきた代表の玉井常貴さんの話を、受講生たちは顔を輝かせて聞いていた。

田辺市役所前の海で気持ちいい風と夕日を感じながら。
田辺市役所前の海で気持ちいい風と夕日を感じながら。

「弟子入りワーク」で、プレイヤーの仕事を体験。

 2日目は、『十秋園』内のビニールハウスで、田辺のうまいものづくしの朝食を摂ったあと、お楽しみの弟子入りワークへ。「食班」「場づくり班」「森林デザイン班」と3つのグループに分かれ、田辺のプレイヤーたちの仕事を体験した。

野久保さんのビニールハウスに机を並べ、みかん収穫箱に座りながらの楽しい朝食。
野久保さんのビニールハウスに机を並べ、みかん収穫箱に座りながらの楽しい朝食。

 食班は、場づくり班と合同で、野久保さんと梅の選果を体験したのち、「たなべ未来創造塾」4期生の更井亮介さんが、2月にオープンさせる予定のレストランへ。地域で駆除したイノシシの肉、使えないと思われている雑草などを使った更井さんのお手製ランチを食べながら、地域に人をどう呼ぶかという更井さんの話に耳を傾けた。

ジビエ料理を得意とするシェフ・更井亮介さんの開店間近のレストラン『Restaurant Cara vansarai』で昼食。雑草カレーと猪汁、ブロッコリーの葉のサラダ。
ジビエ料理を得意とするシェフ・更井亮介さんの開店間近のレストラン『Restaurant Caravansarai』で昼食。雑草カレーと猪汁、ブロッコリーの葉のサラダ。

 場づくり班は、田辺のブランド米をつくった米穀店の田上雅人さんが、休耕田を利用した畑で育てるブロッコリーなどの収穫を体験したのちに、田辺市を拠点とするまちづくり会社『南紀みらい』の和田真奈美さんと合流。今年8月、JR紀井田辺駅前にできる「tanabe en+」のコンセプトを聞き、どうしたら田辺がよりおもしろくなるか、アイデアを出し合った。

「tanabe en+」のコンセプトを説明する『南紀みらい』の和田真奈美さん。
「tanabe en+」のコンセプトを説明する『南紀みらい』の和田真奈美さん。

 森林デザイン班は、虫食いの「あかね材」の使い方を考える『Boku Moku』メンバーで育林・森林コンサルタント・中川雅也さんの会社『中川』の大谷栄徳さんと山で植林を行ったのち、プロダクト製作を体験。最後に『Boku Moku』リーダーで家具販売業を営む榎本将明さんと合流して、どうしたらあかね材を都会の人に知ってもらえるかの話に熱が入った。

『中川』社員の大谷栄徳さんの話に耳を傾け、山の50年後に思いをめぐらせる。
『中川』社員の大谷栄徳さんの話に耳を傾け、山の50年後に思いをめぐらせる。

 森林デザイン班の受講生・松田ちかこさんは「田辺には農業だけでなく、森という資源があることに気づきました。そのうえで、プレイヤーの話を直接聞くと、どのようなサポートができるかを考えるきっかけになる。『Boku Moku』の取り組みを東京で知ってもらうにはどうすればいいか、考えたいです」と、2日目を振り返った。

家具店『リバラック』で榎本将明さんとともに、あかね材の未来について考える。
家具店『リバラック』で榎本将明さんとともに、あかね材の未来について考える。

 夜は2日間とも懇親会が行われ、田辺のプレイヤーと「たなコトアカデミー」受講生が ざっくばらんに話し、大いに盛り上がった。

 最終日となる3日目は、それぞれのプロジェクトについて考えを深めるための自由行動。かつて公家たちが思考をクリアにするために歩いたという熊野古道に興味を持って歩きに行く人、レトロな喫茶店でモーニングを食べる人、気になるプレイヤーに再び会いに行き、対話をするなどして、3週間後に発表するそれぞれのプロジェクトのプランを考えた。

熊野古道を歩くことは思考をクリアにし、物事を考えるプロセスに共通することがあるのではないか? そんな命題とともに、市役所の森口明浩さんの案内で塾生3名が熊野古道へ。
熊野古道を歩くことは思考をクリアにし、物事を考えるプロセスに共通することがあるのではないか? そんな命題とともに、市役所の森口明浩さんの案内で塾生3名が熊野古道へ。

それぞれの視点で感じた、田辺への思いを熱く語る。

 修了式を2月に東京で迎えた。真砂充敏・田辺市長や、小誌編集長・指出一正などのゲストが見守る中、12名の受講生が発表を行った。フードロスを考えるイベントの企画、YouTubeでの田辺の魅力発信、森林を楽しむ会の企画、首都圏で田辺に興味がある人をつなげる仕組みづくり、田辺の高校生のチャレンジプログラム、オリジナルジュースづくり、ファーマーズマーケット出店の収益化など、プロジェクトの数々はそれぞれの得意分野が活かされて個性豊か。指出や、「たなことアカデミー」メンターの石山登啓さんによるそれぞれのプランへの論評にも熱が入った。

3日間を振り返りつつ、メンターや市の職員らへの相談会を実施。
3日間を振り返りつつ、メンターや市の職員らへの相談会を実施。

 みんなに共通していることは、好きになった田辺市への強い思いを熱く語り、この先も長くつき合っていくためにはどうしたらいいかを考えていること。そんななか、「半年という短い期間でプロジェクトを決めてしまうのはもったいない」と発表したのは、平川暢さん。「僕は『たなコトアカデミー』のみんなでなにかを考える雰囲気が好きだったので、この先、受講生や田辺の人たちが定期的に会う機会をつくる役割を自分がする」ことを宣言。覚えやすい6月6日を提案すると、それを聞いた真砂市長は「それはおもしろい。6月6日は田辺市にとって重要な『梅の日』。その日にぜひ会いましょうか」と提案。

真砂充敏市長も修了式に参加。『Boku Moku』による木製の修了証を手渡した。
真砂充敏市長も修了式に参加。『Boku Moku』による木製の修了証を手渡した。

 時間にとらわれない働き方を目指す阪本美季さんは、「東京と田辺の人をつなげる仕組みをつくりたい」と発表。「移住はハードルが高い。でも、関係を深めていくうちに『気づいたら移住していた』くらいのスタンスでできたらいいなと思います」というと、「これは名言」とメンターの石山さんは大喜び。「関係人口は、お互いの『好き』から始まるもの。それをみんなの発表から感じとれました。今回だけで終わりたくなくて、ずっと会っていたい。そのために僕もいろいろ企画します。これからも家族ぐるみのつき合いをお願いします」と、うれしそうに締めくくった。

左から小誌編集長・指出一正、真砂市長、メンターの石山登啓さん。
左から小誌編集長・指出一正、真砂市長、メンターの石山登啓さん。

「たなべ未来創造塾」第4期生のプランを発表します!

 「たなコトアカデミー」受講生が関わりを深めた、田辺市のローカルプレイヤーのみなさん。

 彼らの多くもまた、地域を盛り上げようと「たなべ未来創造塾」をとおして自分ごとの新規事業プランを考え、実現に向けて活動しています。

坪井直子さん 『ツボ井スポーツ』

坪井直子さん

Kids Exercise ─田辺の子どもたちにスポーツの機会を!─

学校のクラブ活動の減退などでスポーツをする子どもが減っていることから、子ども体操教室を開催。スポーツ活動を活発にすることで、健康な子ども、そして田辺に住みたいと思う人を増やし、地域の活性化につなげる。

矢野玲子さん 『baroonworkshop』

矢野玲子さん

龍神村から創る、カラフルで、少しユニークなまちづくり

龍神村産の百年檜と羊毛フェルトのかんざし、龍神温泉のお湯を使ったフェルトボールづくりなど、「地域資源×羊毛フェルト」の商品開発とワークショップを開催。両者の既存のイメージをリメイクし、新しい客層を獲得。

北川雄一さん

北川雄一さん

モドリゼノ宿 ─カラダのケア&コンディショニング×ゲストハウス─

熊野古道近くの本宮町・戻り瀬集落にて、健康をテーマとしたゲストハウスを運営。参拝客の身体のケア、地域住民のリハビリの受け皿となる。さらに、外国語教室や料理教室など、旅行者と地域がつながる仕掛けをつくる。

鈴木大輔さん 『南紀ガス』

鈴木大輔さん

一時預かり保育サービス「コとコ」 ─地域の子育て支援サービス─

LPガス需要の減少、オール電化の普及で他社との差別化が課題となっている中、子育て世代向けに一時預かり保育サービスを導入。顧客の暮らしの満足度向上、子育てがしやすい地域づくり、出生率の向上につなげる。

更井亮介さん 料理人

更井亮介さん

上芳養フルコースプロジェクト ─シェフが創る地域の循環─

後継者不足や、耕作放棄地・鳥獣害・空き家といった課題を、料理人ならではの切り口で解決する。自身のレストランを中心とし、ジビエや空き家の活用、マルシェ開催などで地域資源を循環させ、新しい仕事を生み出す。

岡野祐己さん 『チャイニーズ酒場福福』

岡野祐己さん

好吃! エコ弁当 ─地域のフードロスを使った「お弁当」─

自店や地域のフードロスの解決策として、農作業者やバックパッカー向けに、廃棄前の食材を使ったエコパック弁当を販売。空いた時間を利用して収益アップにもつながり、自社・旅行者・地域・環境に好循環をもたらす。

和田真奈美さん 『南紀みらい』

和田真奈美さん

「想いをカタチに、経済に」。ごちゃ混ぜの場づくり

人の縁をつなぎ、新しい価値を創造しビジネスを生み出すきっかけづくりを行う。駅前にオープン予定の地域活性化施設を利用し、アイデアを共有するワークスペース、それを形にするカフェやセレクトショップを運営する。

山㟢貴宏さん 『行政書士ABC法務研究所』

山㟢貴宏さん

町の法律窓口 法律業務ワンストップサービス

人口減少に伴い地域内の「士業」が減る一方、相続・成年後見などの分野で業務は増加。そこで、業務の効率化を図るため、複数の士業が関わる法律業務の窓口を一本化する。「とりあえず山﨑に相談してみよう」の実現へ。

三浦彰久さん 『Reborn』

三浦彰久さん

再生の地 熊野でじぶん再発見週末キャンプ

ニートや引きこもりなど、都会で生きづらさを抱えた若者が、自分と向き合う体験型のツアーを開催。彼らの社会復帰とともに、田辺への移住者の増加、地域の人材確保を実現し、若者と地域の懸け橋となることを目指す。

鈴木 格さん 『鈴木ぶどう園』

鈴木 格さん

Happy marche ─小さな拠点を目指して─

 柑橘や梅で有名な上秋津地域で空き店舗を活用し、自社のぶどう直売所をオープン。自社の販路拡大・知名度向上と同時に、地域農家の追随を促し、後継者問題の解決につなげ、地域全体を活気づける。

中田真寛さん 『中田』

中田真寛さん

生前に決めて安心「じぶんの供養」 ─田辺には眠る場所がある!─

地域の後継者が減る中、住民の死後の不安を解消するため、葬祭業の新しいサービスを提供。規模も方法も多様化した供養と後見人との契約で、将来への安心感を生み、高齢者の笑顔、よりよい生活の広がりを目指す。

山本有輝さん 『高垣工務店』

山本有輝さん

働きたい会社から働き続けたい会社へ

人材不足が心配される中、自社の強みは県外からの若手人材採用。出産・育児・介護など、働きやすい環境を整えるとともに、働きがいを感じてもらうことで、働き続けたい会社にしていく。

記事は雑誌ソトコト2020年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

photographs by Katsu Nagai
text by Kaya Okada