n計画
2020.04.11 UP

宮崎県延岡市にはなにもない?地域の力を集められる場所をつくり、中と外へ「のべおか」の魅力を発信。

LOCAL

宮崎県延岡市の「いいもの」をブランディングして発信するため、コワーキングスペースとスナックを合体した場所をオープン!
地域の人材を集め、関係を広げる『n計画』に迫ります。

内外に新たなイメージを発信。延岡の未来を育てる。

 「延岡にはなにもないよね」

 地元の人のそんな声を聞くたびに、建築家の山根俊輔さんとデザイナーの甲斐慶太朗さんは悲しい気持ちになった。二人ともIターンで宮崎県延岡市に暮らし、拠点を持つ。延岡市には環境省選定の「快水浴場百選」にも選ばれた美しいビーチや、ロッククライミングもできる山などの豊かな自然、高速船で10分程度で行ける離島、全国に誇れる焼酎の蔵元、「チキン南蛮」といったおいしい食文化、守られてきた伝統芸能……数えればきりがないほど、魅力的なものがたくさんあるのに、「どうしてみんな『なにもない』と思うのか」と疑問にも思った。

 二人は2019年12月、JR延岡駅から徒歩5分ほどの距離にあるビルに、コワーキングスペースとスナックを一体化させた『n計画』を、クラウドファンディングでの支援も得てオープンさせた。

『n計画』入り口。コワーキングスペースは24時間利用可。スナックは18時~24時(日曜・祝日休)。
『n計画』入り口。コワーキングスペースは24時間利用可。スナックは18時〜24時(日曜・祝日休)。

 『n計画』とは、「のべおかブランディング計画」というプロジェクトの略称だ。「『なにもない』とは、延岡の素晴らしいものを『魅力』としてとらえておらず、効果的に発信もされていないために『見えていない』だけではないか」と考えて生まれた、「中(住人)と外(関係人口)に対して延岡のイメージを変え、延岡の未来を育てる」ためのプロジェクトだ。

 山根さんは広島県出身。以前、東京の『乾久美子建築設計事務所』で勤務していた際に、延岡駅前複合施設『エンクロス』の設計に8年の年月をかけて携わったことから、延岡とのつながりができた。2019年1月に独立して『山根製作所』を設立、7月から本格的に延岡と東京での二拠点生活を始めた。月の半分は延岡で暮らす。

 延岡に拠点を置いた理由は、「『エンクロス』ができ、その続きをしたかったから」だ。「エンクロスの設計では、その場に人を集めるだけでなく、まちにも人の流れを広げていきたいと考えていました。そのためには、駅前だけでなく、まちの中にも人が集まる場所をつくる必要があると思ったのです」と語る。

山根さんが担当者として設計に携わったJR延岡駅前の複合施設『エンクロス』の前で。中のにぎわいが外に見えるようにした。
山根さんが担当者として設計に携わったJR延岡駅前の複合施設『エンクロス』の前で。中のにぎわいが外に見えるようにした。

 一方、甲斐さんは福岡県出身だが、父親の出身地が延岡市で、幼い頃から遊びに来る機会は多かった。大学で地域政策について学んだ後、東京のベンチャー企業で働き、「今は埋もれていても、本当にいいものならマーケティングやブランディング次第で売り上げが伸びる」ことを実感。その後親戚の紹介で、延岡市で100年以上続く『佐藤焼酎製造場』の社長と知り合い、2018年4月にIターンして働くことに。前職の経験を踏まえ、「地域でなにができ、なにをしたいのか」「なにが求められているのか」を念頭に、プロモーションなどに携わった。現在は独立し、古い蔵の活用方法などに取り組みつつ、個人でデザイン事務所を経営している。

『n計画』近くの商店街に経つ甲斐さん。市外から来た人に見どころ、おもしろさを伝えながら市内を案内することも増えた。
『n計画』近くの商店街に経つ甲斐さん。市外から来た人に見どころ、おもしろさを伝えながら市内を案内することも増えた。

スナック文化を活かし、つながる場所づくり。

 ブランド化といっても、二人の力だけで答えを見つけたり、行動につなげられるわけではない。まずは同じようにモヤモヤしている人たちが話し合えたり、「やりたいことはあるが、どうしたらいいかわからない」という人が相談に来て、誰かとつながれる場所をつくろうというのが、スペースとしての『n計画』が出来上がった経緯だ。利用料金はいくつかのコースがあるが、たとえば月6000円で常時コワーキング利用可、スナック飲み放題といった内容だ。

昼間はコワーキングスペースとして開かれている『n計画』。通りを見下ろせるコタツコーナー、カウンター、テーブル席などがある。
昼間はコワーキングスペースとして開かれている『n計画』。通りを見下ろせるコタツコーナー、カウンター、テーブル席などがある。

 コワーキングスペースにしたのは、延岡にはまだ1か所もなく、副業解禁になる企業が増える時代に、延岡が選ばれる地域にするため、そして「地域の人材が集まり、一緒に働くことで、アイデアが磨かれる場」にしたかったからだ。

周囲の店が閉まってしまう夜でも点るスナックの明かり。思わぬ人との出会い、アイデアが夜ごと生まれている。
周囲の店が閉まってしまう夜でも点るスナックの明かり。思わぬ人との出会い、アイデアが夜ごと生まれている。

 スナックと一体化させたのは、気負わず相談に来てほしい、夜はお酒を片手にパソコンを開いて打ち合わせができる場所にしたいなどの理由があるが、その背景には、延岡にもともとスナック文化が根づいていたことがある。大企業の工場があり、焼酎文化圏でもある延岡は繁華街が大きく、人口10万人あたりにおけるスナック軒数が全国屈指。女性が飲みに行くことも多く、「まちの人には馴染みがあり、外の人には延岡文化が感じられる」環境なのだ。

夜はスナックに。イベントがある時はもちろん、ない時もまちの人がふらりと訪れることができる。
夜はスナックに。イベントがある時はもちろん、ない時もまちの人がふらりと訪れることができる。

 スナックには、「ママやその日のお客さん次第で雰囲気が変わり、多様なコミュニケーションの場になって、思いも寄らないつながりが出来上がっていく」という利点がある。その長所を活かすのが、『n計画』の「一日ママ・パパ」システムだ。延岡を楽しくしたい人や、その人と延岡を組み合わせたらおもしろい場が出来上がりそうなフックのある人に、スナックの「ママ」や「パパ」として日替わりでカウンターに立ってもらう。

この階段の上に『n計画』が。
この階段の上に『n計画』が。

 まちの中心部でハンドメイド・アクセサリーショップ『チャワ。』を経営する河野あいさんも、「一日ママ」を体験したことのある一人だ。「スナックは好きですね。お酒の力もあってみんなフラットな立場で話せて、仕事につながること『も』ある。そんな自由な雰囲気がいいんです」と語る。

『チャワ。』経営の河野あいさん。店のロゴも甲斐さんにお願いした。
『チャワ。』経営の河野あいさん。店のロゴも甲斐さんにお願いした。

延岡⇔東京。「逆・関係人口」も誕生。

 2020年に入り、新しい挑戦もしている。初めて宮崎県外から「ママ」と「パパ」を招いたのだ。やって来たのは東京・港区麻布十番で昼営業をする「昼スナック」のママをしている佐々木恵さんと、同じく東京で放送作家などとして活躍する木村公洋さんだ。

 この二人と知り合った経緯がまたユニークだ。クラウドファンディングページに使うため、スナックのフリー写真素材を探していた山根さんが、誤って佐々木さんのスナック写真を使ってしまったところ、佐々木さんの周囲でそのことが「プチ炎上」。慌てて東京まで謝罪に行った山根さんだったが、佐々木さん自身はまったく気にしておらず、写真の再撮影にも協力してくれた。さらにこのときたまたま店にいた木村さんとも話が盛り上がり、二人が延岡で「ママ」「パパ」をすることになった。

左から「一日パパ」を体験した木村公洋さん、山根さん、『n計画』ヘビーユーザーでウェブデザイナーの内倉大知さん、甲斐さん。
左から「一日パパ」を体験した木村公洋さん、山根さん、『n計画』ヘビーユーザーでウェブデザイナーの内倉大知さん、甲斐さん。

 二人とも延岡に来たのは初めて。木村さんは「放送作家」と出会う機会がほとんどないという延岡の人たちに、「パパ」としてふるまい、喜んでもらった。木村さんの感想は、「あたたかくて、おもしろい人たちばかりでした。延岡サイコーです。また来ます!」。

 さらにこのときに出会った延岡の人が東京へ行く際、木村さんや佐々木さんに会いに行くことも生まれ始め、「逆・関係人口」ともいえる相互の交流が育まれている。『n計画』のキャッチフレーズは、「昼は仕事場、夜は語り場」。山根さんは、「生活の場所や交流の場がしっかりとあって、人が楽しそうにしていることが、まちのブランディングの基礎になる」と話す。まさにそんな場所から関わる人が増え、まちの新しいイメージが生まれようとしている。

『n計画』オーナー・甲斐慶太朗さんに聞きました。

Q:関係人口が増えると、地域はどう変わる?

A:ラベリングが変わる。

 視点の異なる人が増えることで、まちの見え方やそれによるラベリングが変わります。外の人も、まちの人と接し、より深くまちを知ることができます。

『n計画』オーナー・山根俊輔さんに聞きました。

Q:関係人口を増やすコツは?

A:輝ける人を増やす。

 いろんな人が来るだけではつながりが広がっていきません。フックになれる人にスポットライトを当て、魅力ある人が輝ける場所をつくることです。

記者の目

関係人口の現場を取材して。

 「人がいないわけではなく、いるけれど見えない場所にいる」と山根さんは語った。知り合う機会がなかった人たちが顔を合わせ、気楽に話ができる場づくりに「スナック」を活用するのは、まさに「地域から学んだ知恵」だと感じました。

記事は雑誌ソトコト2020年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

photographs by Akihito Yoshida
text by Sumika Hayakawa

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