ポジティブな未来の萌芽。ー ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ VOL.30
2019.04.20 UP

ポジティブな未来の萌芽。ー ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ VOL.30

DIVERSITY

日本最大のLGBTの祭典「東京レインボープライド」(以下TRP)が、4月末に開幕する。TRPは渋谷の街を練り歩くパレードがメインのイベントなのだが、それ以外のコンテンツも充実していて楽しい。メイン会場となる代々木公園イベント広場では飲食ブースからさまざまな体験ブースまで100以上のブースが出展され、去年は歌手の浜崎あゆみさんのステージも披露された。会場は浜崎さんのファン、そして新宿二丁目の皆さんからNPO関係者、スポンサー企業社員まで、多種多様な人がごったがえして、えらい賑わいになった。

その様子は率直に言うと結構シュールで、僕はたまらない気持ちになる。「本当、なんなのこれ(笑)」。毎年そう声に出しそうになるのを抑えながらニヤニヤとしているのだが、すぐに誰かが「久しぶり〜!」と声をかけてきてくれるから僕もぼーっとはしていられない。TRPはLGBTの当事者にとって一堂に会す同窓会みたいな側面もある。

あの「ごった煮」状態の会場から噴き出す、ただならぬ生命力はぜひ多くの方に感じてもらいたいと思う。あの熱気を体感すると、人間の持つ個性の前で、いかに常識とやらが無力かを実感する。社会が何と言おうと、この人たちは、そして僕は、生きてきたし、生きているのだ。「みんなもっと好きにいこうぜーーー!!」という気持ちになる。

そんなわけで、僕はTRPに対してすごく愛着を持っているのだが、実は元々は結構苦手だった。というか正直、めちゃめちゃ嫌いだった。TRPには毎年露出の激しい格好をした参加者や、攻撃的な主張をプラカードに掲げた人が毎年たくさんいて、僕はそれが苦手だったのだ。多くのLGBTでない方々はそれに対してネガティブな印象を持つだろうし、ネガティブなメッセージには意味がないと思っていたのだ。

僕には思春期、同級生がもつゲイ(そしてLGBT)に対する偏ったイメージによって苦しんだ経験がある。LGBTに対する心象というのは、当事者にとって十分命の危機に直結するものだ。だから僕は、「ネガティブなイメージをこれ以上生活者に植え付けないでほしい、どうかやめてくれ」。そんな気持ちで彼らを数年前まで見つめていた。

だけど、少しばかり歳をとって分かるようになったことは、ポジティブなメッセージだけに価値があるわけではないということだ。「このメッセージは、多くの人にとって不快だ」ということは、まず、発信者自身も分かっている。それでも彼らが勇気を持ってなぜ発信するかといえば、根っこに熱い想いが必ずあるからだ。つまり、ネガティブなメッセージも希望のうえにあるものなのだ。だから、受け手の多くはその想いに気づかず、ただ「ウザい」で終わるかもしれないが、その中の幾人かは必ず「想い」の一部を汲み取ってくれることになるのだ。そしてそれがいつか彼ら自身の「想い」にもなっていく。それを証明しているのが、年々増加するTRPの参加者数だと僕は思っている。

僕自身、初めてTRPを見た時に「なんでこんなことするんだろう?」という感情が生まれ、それを皮切りに「こんなに参加する人が多いってどういう意味なんだろう?」とか「TRPが社会にある意義はなんなんだろう?」という疑問が生まれた。振り返ってみて、あのストレスを感じなかったら、そういった“思考の発酵”には至らなかったと思う。人の脳みそはきっと、気持ちのいい情報を摂取しているばかりでは、バラエティ番組をずっと見ている時のように思考が停止していってしまうものなのだろう。だからポジティブなメッセージだけが正解では決してない、今ではそう言い切れるようになった。ストレスを感じることは、時にポジティブな未来の萌芽となる。そんなことを僕はTRPから学んだ。

さて、昨年は約14万人もの方が参加したらしい(すごい!)。まだまだ、もっともっと来てほしい。会場で僕に会ったら「なんだこれ、最高じゃんね(笑)」とゲラゲラ笑って一緒に乾杯しましょうね。

文・太田尚樹 イラスト・井上 涼

本記事は雑誌ソトコト2019年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

キーワード

太田尚樹

おおた・なおき
1988年大阪生まれのゲイ。バレーボールが死ぬほど好き。編集者・ライター。神戸大学を卒業後、リクルートに入社。その後退社し『やる気あり美』を発足。「世の中とLGBTのグッとくる接点」となるようなアート、エンタメコンテンツの企画、制作を行っている。