関係人口ロードマップ
2020.04.25 UP

気付けばすでに、一歩を踏み出しているのかも。関係人口ロードマップ、私の場合。

SOCIAL

「関係人口」というワードが少しずつ知られてきた2020年。
観光でもなく移住でもない距離感で、地域と関わる人たちが着々と増えています。でも、実際のところどうなっているの?
関係人口実践者に話を聞いて、多様に進化する実態を紹介します。

ゆっくりと少しずつ、地域に浸透していく。

 東京一極集中の是正のため、地域での少子高齢化に歯止めをかけるため「地方創生」が国家の政策として掲げられ、地域への関心が高まり始めたのが約6年前。その後、間もなくして、「関係人口」というワードが注目されるようになった。これは、観光に来た「交流人口」でもなく、移住した「定住人口」でもない、地域や地域の人とさまざまな関係を結んでいる人たちのことである。次第に「関係人口」にまつわる話題を耳にするようになり、該当者が増えていく中で、地域との関わり方や地域への思いは、当初の想定よりもさらに多様になってきている。

 今、まさに地域とのつながりを持つ4人の女性に話を聞いたところ、地域と関わり始めたきっかけひとつをとっても、首都圏で開催された地域を知る講座や、地域イベントでの出会い、友人の紹介とさまざま。その後、何度も通うようになったり、通う回数は少ないけれど東京で地域の活性につながる企画を行っていたり、実際に移住してしまったりと、関わる方法や関わる深度も人それぞれだった。

 「関係人口」に興味があるけれど、実態がいまいち掴めず、関わる方法が分からないという人の参考となるよう、実例を元に「関係人口」とは何か明らかにしていこう。

通う

 通うほどに見えてくる地域の味わい深さ。帰り道には「次いつ行こう」と企画しているかも。

鹿児島県に友人ができ、居心地のよさに惹かれて通い続けて8年。

川股みとりさん 【関わる地域/鹿児島県】

aswith

 鹿児島県内に友人ができ、約8年前から年に数回通っています。その友人は祖父母の介護を機に鹿児島県に移住した同世代の女性で、共通の知人を介して知りました。私は編集者の岡本仁さんの鹿児島県について書かれたブログ記事を元々読んでいて、岡本さんの紹介するお店や飲み屋さんに行って追体験したい、住んでいる人を通じてどんなところか知りたい、そんな思いを抱いていました。そこで、アート好きな私にオススメの夏のイベントがあると教えてもらい、2泊3日の旅に出たのが鹿児島県を訪れる最初のきっかけでした。

『大口酒造』の酒造メーカーの焼酎・黒伊佐錦の等身大バルーンと。
『大口酒造』の酒造メーカーの焼酎・黒伊佐錦の等身大バルーンと。

 旅するなかで出合った居酒屋『居酒屋017(レイナ)よか晩』があることも通い続ける理由の一つです。女性店主・レイナちゃんの経営で、桜島の溶岩プレートで肉や野菜を焼く溶岩焼き、鳥刺し、焼酎を出してくれます。彼女の人柄が素敵でとてもパワフル。観光客も歓迎してくれて、お店にいる人同士をつなげてくれたり、生産者のストーリーを教えてくれたり。そのうち『居酒屋017よか晩』と酒造会社『小牧醸造』が毎年10月に主催する焼酎の原料になる芋を掘る「芋掘りツアー」に参加するようになりました。

芋掘りイベントの一環で焼酎蔵の見学に。
芋掘りイベントの一環で焼酎蔵の見学に。

 個人的に旅をする以外にも関わり方の幅は広がり、2015年には県で募集していた「離島プロボノ」の種子島のNPOを支援するプロジェクトに参加してみました。ウミガメの産卵のために海を守る団体の支援が目的で、協賛資金を集める際に必要な資料がなかったので、前職のウェブ制作の仕事での経験を生かして資料を作るなどして協力しました。また、18年には、伊佐市にある焼酎メーカーの消費拡大策を考えるプロジェクトにも参加。現地を訪れるタイミングで参加メンバーを『居酒屋017よか晩』に連れて行ったら、みんながお店とレイナちゃんのことを大好きに。その後もそれぞれが訪れた際に、「今『よか晩』にいるよ!」とメッセージが来たりすると、すごくうれしいですね。

『居酒屋017よか晩』の前で、店主のレイナちゃん(右)と、鹿児島県に移住した友人(左)と。
『居酒屋017よか晩』の前で、店主のレイナちゃん(右)と、鹿児島県に移住した友人(左)と。

 これらのように、鹿児島県に私が通い続けるのは、出会った人々に惹かれたのが一番の理由です。一つ一つの出会いが重なり合っていく感じが、今までの旅でも体験したことがないことでした。30歳を過ぎてから本音で話せる友人ができたことに、も、自分自身が驚いています。将来的には鹿児島県への移住も考えているのですが、「今は都心部にいるほうが得られるものがある」と正直にアドバイスをしてくれます。

酒造会社『大口酒造』で行われた焼酎の消費拡大策を考えるプロジェクトに参加。
酒造会社『大口酒造』で行われた焼酎の消費拡大策を考えるプロジェクトに参加。

 他にも福井県大野市や福島県・西会津町にもつながりを持つことができたので、これからも通い関わっていきたい。それと同時に鹿児島県に関われる行動を実際に取り始めながら、鹿児島県で生活する道を緩やかに探っているところです。

二拠点

 好きな地域で自身が必要とされる。懸念事項を振り切り、飛び込んで見えることとは?

セミナー受講で出合った香川県のオリーブ農園で、定期的にカフェのお手伝い。

阪本美季さん 【関わる地域/香川県三豊市】

阪本美季さん

 兵庫県神戸市出身で、現在は東京で働いていますが、数年前より家族の都合で頻繁に地元に帰るようになりました。そこで、改めて神戸のよさを感じて、この地域と関わりを持ちたいと思うように。でも、どうしたらいいか分からず、何かヒントを得られたらと思って、昨年の春に丸の内朝大学の「ニッポン就職課 瀬戸内ワークス編」を受講しました。

 これは、地域と都市を行き来しながら働くことに興味がある人向けの講座です。香川県三豊市周辺の企業経営者らがゲストスピーカーとなって企業の課題や求めている人材などを講座でプレゼン。6月にはフィールドワークで現地を訪れました。

『荘内半島オリーブ農園』のテラス席での食事は、おいしさが一層増す。
『荘内半島オリーブ農園』のテラス席での食事は、おいしさが一層増す。

 そこで見学した『荘内半島オリーブ農園』から、月に1度開くカフェのお手伝いをしたい人の募集が後日Facebookであり、私が手を挙げたのを機に三豊通いが始まりました。私は普段東京で事務職として働いていて、地域で生かせるスキルがないことに悩んでいたのですが、カフェでのお手伝いなら自分にもできそうと思い、できることから始めてみたら何かつながりを持てるかもしれない、と思ったんです。

オリーブ農園から見える、惚れ込んでしまった風景。
オリーブ農園から見える、惚れ込んでしまった風景。

 そして、昨年8月から平均すると月に1度から2度のペースで三豊に行き、カフェでは軽食やドリンクを作ったり、また併設するゲストハウスの受付をしたりして、2日間手伝っています。新幹線代などの交通費は自己負担になりますが、現地の人や風景がいいので半分旅行の気持ちでいられることと、地方で活動する方法を実際に探る機会になっていて自分にとって得るものが多いことを理由に、この暮らし方を実践しています。さらに、三豊の人がおおらかなので、普段の仕事でつい「こうしなければならない」と価値観を狭めてしまうところを、いい意味で力が抜けて、自分の仕事やこれからのことにいい視点で向かえる。研修とまではいかないけれど、自分を見直す機会になっていますね。また、地域と関わる取り組みに参加すると、現地の方との出会いはもちろんですが、イベントの手伝いなどを通じて興味の方向性が同じ人と出会えることもありがたいです。ほかの地域の取り組みを紹介してもらったりして、地域での活動への後押しにもなっています。

地域に住む人々との交流が生まれるのも魅力。
地域に住む人々との交流が生まれるのも魅力。

 地域での活動を通じて、地域の視線に合わせることを意識するようになりました。つい都会の価値観を伝えてしまいがちですが、地域がこうありたいという気持ちをまず大事に、耳を傾けるようにしています。これは、地域と長く関わっていきたい気持ちからでもあります。今後は三豊にも、縁あって関わることになった和歌山県田辺市にも通いたい。移住や転職をすぐにしなくても、地域に通うというスタイルで関わり続ける方法を模索していきたいです。

三豊市仁尾町にある父母ヶ浜での夕日に感動。
三豊市仁尾町にある父母ヶ浜での夕日に感動。

東京で

 難しく考えず、できることからやってみる。それが実は、一番喜ばれることかもしれない。

家業のせんべい店のお客様に、愛媛県のみかんを通じて地域のことを知ってもらう。

玉川真奈美さん 【関わる地域/愛媛県・忽那諸島】

玉川真奈美さん

 なんだかおもしろそう、おいしい物が食べられそう。そんな単純な理由から、2013年に開講していた丸の内朝大学の「ニッポン再発見クラス 愛媛第2弾・忽那諸島へ島留学!編」を受講したのをきっかけに、愛媛県松山市の忽那諸島との関わりが生まれました。母の実家が大洲市ということもあり愛媛県には何度も訪れていますが、このクラスを通じてたくさんの離島群があることを知って、なお興味を持ちました。

穏やかな海が広がる、忽那諸島の島々。
穏やかな海が広がる、忽那諸島の島々。

 実際に初めて訪れた忽那諸島は、都会暮らしの私には新鮮に映ることばかり。島にはコンビニもスーパーも、そして信号もない。目の前の海で獲れた魚と、畑で採れた野菜が毎日の食卓に並び、潮や月、風向きなどの自然と共存する暮らしを営んでいます。訪問する度にたくさんの気づきを与えてくれる一方で、消滅可能性都市に該当していて、この島々の暮らしを一人でも多くに知ってもらいたいという思いが募ってきました。

 時を同じくして、5年前に東京で家業の『せんべ味億本舗』を継ぐことを決意。おせんべいの試食を行う横で島のみかんを配る、「こたつでみかんとおせんべい企画」を始めてみることに。みかんは忽那諸島・中島で栽培を手がける『俊成みかん』のもので、規格外のものを安く譲り受け、店頭で無料配布。来店されたお客様は、愛情を込めて育てられたみかんのおいしさ、収穫して数日のものの新鮮さに感動されており、お取り寄せしたい方には連絡を直接取ってご購入いただいています。この仕組みで、農家さんとお客様、弊社に好循環が生まれ、地域の活性につながる。忽那諸島に関わり始めてすぐは、自分には何もできない、行動を起こしても意味がないと悩みましたが、今は地域と関わることができうれしく思っています。お客様になぜおせんべい屋でこのような取り組みをしているのかを知っていただき、地域に興味をもっと持っていただくにはどうしたら……と難しさを感じているところもありますが。

『せんべ味億本舗』のレジの上には10月ごろからみかんが並ぶ。
『せんべ味億本舗』のレジの上には10月ごろからみかんが並ぶ。

 また一昨年に発生した西日本豪雨災害時には、お店で募金を行い『俊成みかん』に寄付しました。崩落した畑の整地や壊れたハウスの改装などに使われると思っていましたが、支援の気持ちを大切にしたいと、新たに苗木60本を購入されました。数年後、収穫できた暁には弊社にそのみかんを送っていただけるそうです。こうして困ったときに助け合える関係が築けたことに感謝の気持ちが生まれています。

西日本豪雨での被災状況を知り、即座に募金箱を店頭に設置。日頃の関係性が、困った時の力になる。
西日本豪雨での被災状況を知り、即座に募金箱を店頭に設置。日頃の関係性が、困った時の力になる。

 忽那諸島とのつながりはこれからも持ち続けていきますし、引き続き家業と掛け合わせながら何ができるかも模索していく予定です。会いに行きたい人がその土地にいることは、地域と関わるうえで本当に大切なことだと思います。

募金後の様子を伝える『俊成みかん』からのお礼の手紙。
募金後の様子を伝える『俊成みかん』からのお礼の手紙。

移住

 ピンときた。移住の決め手は、そんな感覚なのかも。住処を替えることで世界がグッと広がる。

地域おこし協力隊隊員として長崎県の島に移住し、カレーをツールに地域を宣伝。

溝端裕子さん 【関わる地域/長崎県・小値賀島】

溝端裕子さん

 大阪府出身で、大学を卒業して転職するまで大阪府で過ごしてきました。大学のサークルで鹿児島県志布志市を訪れてから、魅力にハマり、次第に九州に通うようになりました。大阪と違って海がきれいで、ココヤシまで生えていて……。鹿児島県内に滞在中、天気が毎日変わり、雨、雪、火山灰が降るなど大自然とともに暮らしている感覚や、鹿児島の人は桜島を「最近元気がない」なんて人のように捉えていたり、食材の背景をよく知っていることなど、これが“生きている”ということだと実感。この地域が大好きになりました。

野外でカレーを食べた、波佐見町でのイベントの様子。
野外でカレーを食べた、波佐見町でのイベントの様子。

 大阪では、食事と併せて食材のストーリーも紹介するカフェに勤めていました。もっと生産者の立場で語れるようになりたい、と鹿児島県内で食の仕事を探したけれど見つけられず……。九州全域で探したら、長崎県の小値賀島(北松浦郡小値賀町)で特産品の落花生を使った商品開発をする地域おこし協力隊隊員を役場が募集中。面接を受けて1か月後には、小値賀島に引っ越しました。

小値賀島にある宿『弥三』にて。大切な仲間のいる場所が増えていく。
小値賀島にある宿『弥三』にて。大切な仲間のいる場所が増えていく。

 島内で「愛の心で他人の子どももしかりましょう」と書かれた看板を見つけたことも、ここに惹かれた理由の一つです。人口2500人ほどの小さな島ではみんな家族のようで、25世帯ほどが暮らし、子どもが数人いる二次島は特に、みんなで子どもを育てていました。そんな環境で育った子どもたちは、とにかくあいさつが元気。その純粋さにこちらが元気をもらうほどです。また、私自身も島の人によくしてもらい、家族のように接してくれる人たちが何人もいて、夕ご飯は毎晩誰かに声をかけてもらって、食べに行っていました。食卓の場ではいろいろな話をして、時にはアドバイスをしてくれることも。私の実家も大阪の自然豊かな地域にあるのですが、地域の方々と日常的にご飯を囲む習慣はない。ここには、人のつながりがあると実感しました。

漁師さんに魚の捌き方を教えてもらうことも。
漁師さんに魚の捌き方を教えてもらうことも。

 私は子どもの頃からスパイスでカレーを作るのが好きなのですが、神奈川県鎌倉市にある憧れのスパイス会社とつながり、「小値賀のピーナッツカレー」を一緒に開発することができました。このカレーをきっかけに小値賀のことを知って足を運んでもらいたい。そう思って、小値賀と深い関わりのある長崎県・東彼杵町や波佐見町に月に1度通ってスパイスのイベントを行っています。また、鎌倉市でも期間限定のイベントに参加し、ピーナッツカレーを提供するなどと、カレーを軸につながる地域が少しずつ増えているところです。

東彼杵町で開催している月に1度のスパイスイベント。「小値賀島のピーナッツカレー」のタペストリーはイベントで好評。
東彼杵町で開催している月に1度のスパイスイベント。「小値賀島のピーナッツカレー」のタペストリーはイベントで好評。

 実は今年10月からはドイツ・ベルリンに移住してスパイスの活動をさらに深める予定です。約5年暮らした小値賀を離れることになりますが、これからも関わりを持ち続けながら国内外で小値賀島やピーナッツカレーを広めていくつもりです。

記事は雑誌ソトコト2020年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

text by Mari Kubota
illustrations by Takumi Sugiyama

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