自分の感受性くらい。ー ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ VOL.29
2019.04.22 UP

自分の感受性くらい。ー ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ VOL.29

DIVERSITY

最近、通い始めたゲイバーがある。そこのママは僕と同い年で、人柄がとてもいい。初めてお邪魔した日に「“あり美”絶対いいやつやろ〜! 5分で分かったわ!」とのせられ、うれしくてまんまとハマッた(僕は「あり美」と呼ばれている)。

人気店のそのお店には、イケメン然とした方がたくさん来る。僕はいつもママにイジられ続け、悔しくもただのお笑い枠として過ごしてしまうのだが、ある日、隣に座ったお客さんといい感じになった。

その方は40歳くらいで、見るからにモテそうな方だった。歳の若い友達を連れてきていたが、二人の盛り上がりに欠けた様子が半端じゃなかったから、関係の長いセフレか何かなんだろうなと想像した。

なので、おそらく誰にでもホイホイいく一環として僕にも言い寄ってきてくれたわけだが、これもいい経験だし、今日はいくところまでいこうかなと思っていた。彼の友達はほかにも予定があったようで、途中で帰った。

その日は金曜日だったから店内は騒がしく、僕らは時に顔を近づけながら、湿った声でお互いの身の上話をしていた。彼が「旅行とか好き?」と聞いてきたので「好きですよ。最近どこか行かれました?」と聞き返す。すると、先週までヨーロッパ旅行に行っていたこと、どこどこのホテルが最高だったこと、大きな鞄を買ったけど使わなかったことを楽しそうに教えてくれた。

僕は合間合間に「へ〜!」とか「すごい」とか「贅沢ですね」と、彼がおそらくアピールしたいのであろう金銭的余裕を、嫌らしくない程度に褒めることに徹して、時間を過ごした。

そこからは誰かがカラオケを歌いだして、わーっと盛り上がってきたので店を替えると彼は言い出した。「このビルの隣だけど、◯◯って店だから、あとで来てよ」。僕はいよいよ時は近いなと、店内の活気には合わせず「いいですよ」とやさしく返した。その時、彼がおもむろに自分のスマホを僕に見せてきた。意味が分からず「ん? なんですか?」と聞く。それは銀行のWeb通帳のような表示画面で、大層な金額が表示されていた。「これ、先月のカード利用額」。僕は顔色を変えないことに意識を集中させながら「え〜、すごいですね」とだけ言って、2軒目には行かずに帰った。不思議なくらいに酔いが冷めた。

帰り道で、彼には自信がないのだろうなと思った。お金や権力やSNSのフォロワー数といった「力」は、それ自体が人の魅力を表しているわけではないと、本当は皆知っている。「力」なんて偶然に身に付くことだってある。大事なのはそれをどんな感受性と努力で集めてきたのかだ。人の真の魅力は「感受性」にある。というか「感受性」より「力」が魅力であってたまるかよ、と僕は思う。「力」が一番だなんて、動物と同じだ。

……タクシーの中で、そんなことをグルグルと考えていたら、『東京事変』の「透明人間」という曲を思い出して、聴きたくなった。この曲は、痛々しいほど見え透いた心を持った主人公を「透明人間」に例え、その鈍臭さと瑞々しさを讃えている。僕は聴く度に、なんだか許されたような気になって、脳みそに集中していた血液が体をパーッと巡り、心に戻ってくるような気持ちになる。とても息がしやすくなる。

僕は仕事柄、流行にお金を使うことを大事にしているし、Twitterのバズを追って、インスタ映えを狙うこともしなくてはならない。でもその時、「これ、本当に楽しいの?」と自分に問い続けなくては、感受性はきっといつかパサパサに乾いてしまう。「力」しか見えない人間には、絶対になりたくない。

卒業シーズンの3月。これから新たなコミュニティに入り、自我よりも組織に順応することを優先する必要がある方には苦しい時、ぜひ「透明人間」を聴いてみてほしい。『東京事変』が解散ライブの最後に歌ったこの人間讃歌は、きっと心の透明度を上げてくれるはずだ。

文・太田尚樹 イラスト・井上 涼

本記事は雑誌ソトコト2019年4月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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太田尚樹

おおた・なおき
1988年大阪生まれのゲイ。バレーボールが死ぬほど好き。編集者・ライター。神戸大学を卒業後、リクルートに入社。その後退社し『やる気あり美』を発足。「世の中とLGBTのグッとくる接点」となるようなアート、エンタメコンテンツの企画、制作を行っている。