御田舞
2020.05.08 UP

山と海をつなぐ和歌山県。21世紀の「紀州惣国」に展開されるさまざまなプロジェクト。

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 和歌山県・紀美野町。高野山の麓、棚田に霞がたなびく山深い里ながらジェラートや天然酵母パンやフレンチのお店が点在する休日に大阪近郊から手軽にドライブで訪れるスポットとして人気を集めていますが、角度を変えてよく見ると、とてつもなく奥の深い地域であることが見えてきます。

 このあたりの地名「神野」「真国」は、平安時代からの「荘園」の名前です。例えば、この地域に伝わる芸能「御田舞」の歌詞には「領家」「地頭」「重之衆」といった中世の用語が登場し、なかには平安時代の歌謡集『梁塵秘抄』からの引用も見られるとか。高野山など大寺院のある土地柄、中世には海を渡って来た大陸からの高僧を迎え入れ、緑茶や金山寺味噌など日本の食文化の成立にも大きな役割を果たした留学僧らを多数輩出している国際的な面も。

平安時代からの荘園。  「神野荘」の面影を残す和歌山県・紀美野町。 室町時代から現役の棚田も。
平安時代からの荘園。 「神野荘」の面影を残す和歌山県・紀美野町。室町時代から現役の棚田も。

 そして京都にも残っていないような古い時代の痕跡が、何げない顔をしてあちこちにお洒落スポットと同様に点在しているのです。

 そんな底知れぬ地域の奥深い側面を伝えるべく、いくつものプロジェクトが進行しています。この地域出身のアニメーション監督・森本晃司さんと、柿や山椒などの地域の産品からお土産と観光資源を開発し、あらたな移住者を募るまでを視野に入れた「てとてよ上神野」。地域を生きた博物館(「フィールドミュージアム」)として整備し紙芝居などにも取り組む、和歌山大学によるプロジェクト。そして「御田舞」もここ数年の少子化で次々と廃絶している中、りら創造芸術高校のプロジェクトでは、高校生たちが真国の「御田舞」を復活させています。こうした地域の集まり自体、中世からの村の儀礼や祭りを運営してきた「宮座」のかたちが、姿を変え、核となり地域の文化づくりに活かされているふしもあります。この地域の団結力には驚くべきものがあり、歴史的にもかつて紀州では武装した住人たちのヨコのつながりが、「紀州惣国」として戦国大名たちのタテの秩序と戦っていたのです。最後は豊臣秀吉に徹底的に弾圧されてしまうのですが、訪れた宣教師たちに「共和国」とまで言わしめる自治をつくり上げ、さまざまな階層の人たちが大名たちとは別の原理で、秩序と自治と自分たちの国をつくり出していたことはとても重要な意味があると思うのです。

「てとてよ上神野」の牽引役にもなっている 森本晃司監督。若い移住者も、 夢を実現できる里山を目指している。
「てとてよ上神野」の牽引役にもなっている森本晃司監督。若い移住者も、夢を実現できる里山を目指している。

 そしてそうした状況を可能にしたのもおそらく山の恵みや海の恵み、困難な状況でも食べるものはあるという豊かさだと実感させられます。外からやってくる人たちを迎えてきたこの土地でいま、近畿各地から若い移住者を受け入れているというのも、これから始まる時代の大激動に、なにかとても示唆的なものを与えてくれる気がするのです。

記事は雑誌ソトコト2020年6月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

text by Kenichiro Hoshi

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