Rinne. bar
2020.05.09 UP

『Rinne.bar』で命を吹き返す、クリエイティブ・リユースというおもしろさ。

DIVERSITY

楽しんでやっていることが、実はSDGsの実現につながっている、それって最高。
東京・台東区にオープンした『Rinne.bar』は、ゴミとして捨てられてしまうはずだった素材で、ものづくりの楽しさを体験できるバーだ。
「つくる責任 つかう責任」を考えるとともに、創造的な未来をつくるための、大人のための気づきの場所でもあるのです。

人間の創造力に着火して、生活のありようをクリエイティブに考える。

 入口の扉は見るからに楽しげで、形や大きさが違う建具の組み合わせでできている。中に入ると、パッチワーク状に端材がデザインされた大テーブルがどーんと現れ、スケルトンになった上面には、金槌やペンチ、カンナなどの工具が埋まっているのが見える。

 今年2月1日、ものづくりの町として知られる東京・台東区の「カチクラエリア」(御徒町、蔵前、浅草橋)に誕生した『Rinne.bar』は、「クラフト」「ドリンク」「アップサイクル」をキーワードにした、おとなのためのエンタメワークショップができるバー。営業時間は夜10時までで、端材や、革や布の余り、レジ袋を圧着してつくった「ポリフ」などの素材を用い、オブジェやキーホルダー、蝶ネクタイ、アクセサリーなどをつくる喜びを、お酒を飲みながらワイワイと体験できるのだ。

入口のオブジェは書道や麻雀のテーブル、トレース台、20年前の誕生日プレゼントなどを活用。
入口のオブジェは書道や麻雀のテーブル、トレース台、20年前の誕生日プレゼントなどを活用。

 「ただ、お酒に興味があるでもいいんです。おとなたちにこそ創造することを楽しんでもらいたいので、言い訳を用意としてバーの形をとりました。お酒を飲んで手を動かしているうちに、『不器用だから』という思い込みを乗り越えてもらいたいと思って。もちろん子どもも体験できますよ」。『Rinne.bar』代表の小島幸代さんは朗らかに笑う。こうして創造する楽しさに目覚めると、これまでゴミだと思っていたものが素材に変わり、持続可能なものづくりであるアップサイクルが日常に組み込んでいくという目論見だ。

 とはいえ、リユースやアップサイクルをすることが、この場所をつくった第一の目的ではないと小島さんはいう。

 「『Rinne.bar』のコンセプトは『クリエイティブ・リユース』ですが、リユースはあくまでも手段であって、私たちがやりたいことは“人間の創造力に着火する”こと。地球にやさしいからというよりも、生活のありようをどうするかを創造的に考える。生活のありかたすべてを、工夫しながらやっていくことが大事だと思うんです」

「捨ててしまうには惜しいもの、でも使わないもの」として、企業や家庭から集められた廃材、端切れ、空き缶、コルク、瓶の王冠、ボタン、毛糸、端革などが楽しげに並べられる。建具などは静岡県の古民家のもの、棚や机の端材は、店舗のリノベーションやDIYなどの全面的なアドバイスを受けた、東京・台東区上野にある家具・建築集団『ゆくい堂』から提供を受けた廃材を使用。
「捨ててしまうには惜しいもの、でも使わないもの」として、企業や家庭から集められた廃材、端切れ、空き缶、コルク、瓶の王冠、ボタン、毛糸、端革などが楽しげに並べられる。建具などは静岡県の古民家のもの、棚や机の端材は、店舗のリノベーションやDIYなどの全面的なアドバイスを受けた、東京・台東区上野にある家具・建築集団『ゆくい堂』から提供を受けた廃材を使用。

ポートランドで見た理想を日本でもつくりたい。

 「誰もが自信をもってクリエイティブを行うことで、創造的な発想が生まれる環境をつくりたい」。のちに『Rinne.bar』へとつながるこの思いは、小島さんが美大を卒業して、デザイナーやクリエイターに特化した人材コンサルティング業務を行っているときから感じていたことだった。何かを考えるとき、多くの人が「こうならねばいけない」という「社会の正解」にとらわれてしまいがちになる。それを打破するには、独自の想像力で発想するクリエイティビティが必要なのではないか。想像力、個性に自信をもつことが必要なのではと、思うようになった。

 転機は、アメリカ・ポートランドでの「クリエイティブ・リユース」との出合い。公立の学校の先生たちが教材の使い残しを集めて保管していたのが始まりの店『SCRAP PDX』は、まさに“宝の山”だった。紙、布、文具など、あらゆる使い残し、“ガラクタ”が色とりどりに集められ、ボランティアたちが仕分けをして販売している。一方、お酒を飲みながらものづくりを楽しむ店『DIY BAR』では、みんな活き活きとものづくりを楽しんでいた。小島さんは、そうした世界に大きな循環と可能性を見てとり、自分が理想とする世界がここにあると感じた。「よし、これを日本でもやろう」と決心するのに時間はかからなかった。2018年9月のことだった。

 決断のあと小島さんが行ったのは、事業計画書の作成、および仲間を集めること。「チームの大切さ、チームだからこそ乗り越えられることがあることは、人事の仕事をしていたこともあり、痛いほど知っていました。とくにクリエイティブ・リユースは、すごく手がかかることもわかっていたので」と、福祉の仕事やものづくりに携わっている人などに声をかけていった。

 プロジェクトの立ち上げメンバーであり、現在、『Rinne.bar』の企画・運営を行うのは小島さんを含む9名。経営企画、商品企画、アートディクレター、コミュニティマネージメント、店舗マネジメントなど、それぞれに違うバックグラウンドをもっている。メンバーのひとりで共同経営者である西田治子さんは、外資系大手コンサルティング会社に勤務していたが、東日本大震災を機に、東北に暮らす女性たちの手仕事をサポートする団体『Women Help Women』を立ち上げて理事を務める。

『Rinne. bar』の運営メンバー。右から代表の小島幸代さん、共同経営者の西田治子さん、ストアアシスタントの小原佑緯さん、アートディレクターの前川雄一さん、商品企画の前川亜希子さん、コミュニティマネジメントの関森加奈子さん。それぞれが専門と強い思いを持ちプロジェクトに参加。
『Rinne. bar』の運営メンバー。右から代表の小島幸代さん、共同経営者の西田治子さん、ストアアシスタントの小原佑緯さん、アートディレクターの前川雄一さん、商品企画の前川亜希子さん、コミュニティマネジメントの関森加奈子さん。それぞれが専門と強い思いを持ちプロジェクトに参加。

 「人間の本質はものづくりにあって、ものづくりをすることで人間になったと、フランスの哲学者・ベルクソンによっていわれるほど、創造的であることは大切なこと。効率重視の社会ではなく、手仕事からくる敬虔さと自信を人間は取り戻したほうがいい。創造する生活者、新しい生き方の入口を一緒につくりたいと思いました」と、参加の動機を語る。

 こうして、メンバーたちの思いと、小島さんの思いとが呼応し合い、プロジェクトの企画はどんどん熱を帯びてふくらんでいった。ところがメンバーが集まってすぐに、コトを起こさないのがおもしろいところ。小島さんたちはチームのコミュニケーションを育てるのを優先して、約1年間かけてチームビルディングを行った。ポートランドへの合宿、ポップアップストアとしてのイベントへの参加などをとおして、自分たちのプロジェクトには何が必要なのか、どうしたら喜んでもらえるのか議論を重ねた。

プロジェクトを進めるにあたって、2019年4月にメンバーとともにポートランドで合宿を実施。小島さんが感銘を受けた『SCRAP PDX』や『DIY BAR』などリユースの店を訪れ、クリエイティビティにあふれる空気感を共有して運営方法などを学んだ。
プロジェクトを進めるにあたって、2019年4月にメンバーとともにポートランドで合宿を実施。小島さんが感銘を受けた『SCRAP PDX』や『DIY BAR』などリユースの店を訪れ、クリエイティビティにあふれる空気感を共有して運営方法などを学んだ。

 そうして決まったチームのスローガンは「Keep on Rolling」。思考停止せずに、大きな循環をつくっていく。団体名は、すぐに捨てない、日本のもったいない精神を輪廻転生ととらえ『RINNE』、ものづくりを行う店の名前を『Rinne.bar』とした。

入口すぐの壁には『Rinne.bar』の」スローガン「Ke ep on Rolling」が書かれている。
入口すぐの壁には『Rinne.bar』の」スローガン「Keep on Rolling」が書かれている。

自分たちの未来をいかに楽しく創造するか。

 『Rinne.bar』に入ったら、まずは飲み物を注文し、現在は6つ用意されているプロジェクトのなかから、何をつくるか決め、必要な材料と工具を取りに行く。さまざまな素材を前にして、どれを使おうかと悩むだけですでに楽しい。見慣れない工具やパーツを手にして、使い方がわからないながらも、考えながら手を動かす。隣の人は違うものをつくっているけれど、なぜか不思議な連帯感がある。普段とは違う感覚を使うからか、手を動かしながらにやにやしてしまう。ああ、ものをつくるのって、こんなにおもしろいんだ。

バーカウンターには、大手コーヒーチェーンで店舗マネージメントの経験を積んだ成田友彦さんが立つ。提供する飲み物は地産地消にこだわり、浅草発祥のお酒、電気ブランに浅草産のはちみつをトニックで割った「ライムサワー」、御徒町でつくられたワインなどを提供。成田さんが働く『ソーシャル・グッド・ロースターズ千代田』の豆をつかったコーヒーもある。
バーカウンターには、大手コーヒーチェーンで店舗マネージメントの経験を積んだ成田友彦さんが立つ。提供する飲み物は地産地消にこだわり、浅草発祥のお酒、電気ブランに浅草産のはちみつをトニックで割った「ライムサワー」、御徒町でつくられたワインなどを提供。成田さんが働く『ソーシャル・グッド・ロースターズ千代田』の豆をつかったコーヒーもある。

 「おとなが変わらないかぎり、次の子どもたちの世代の環境は変わらない。おとなたちが楽しんでいるところを感じてほしいと思っています。失敗したっていいんです。『ま、いいか』と失敗を許容し楽しんで、それを乗り越えていけばいいのだから」と小島さん。

奥の部屋にはリユースをしてつくられたプロダクトが展示販売されている。
奥の部屋にはリユースをしてつくられたプロダクトが展示販売されている。

 大切なのは、想像し、創造することをやめないこと。ものや思考が、ぐるぐると循環していく状態をつくること。ものづくりをおもしろいと思う先にある、自分たちの生き方そのもの。まさにKeep on Rolling。「地球にやさしくすることは、絶対に自分たちの生活に返ってくる。いかにそれを、創造的に楽しくやっていくか。考えていくだけでわくわくします」と笑う小島さんたちの瞳は未来に向かって輝いていた。

Let’s Try! 私だけの一点ができるまで。

1 端革のキーホルダーをつくってみることに。

端革のキーホルダーをつくってみることに。

2 こんな工具があるんだ、と新たな出合いがここにも。

こんな工具があるんだ、と新たな出合いがここにも。

3 出来上がりを想像しながら素材を選ぶ。

出来上がりを想像しながら素材を選ぶ。

4 テーブルに、工具、素材、お酒が揃ったら準備OK。

テーブルに、工具、素材、お酒が揃ったら準備OK。

5 革の型抜きを行い、金具をはめていく。

革の型抜きを行い、金具をはめていく。

6  30〜60分でキーホルダーが完成!

 30〜60分でキーホルダーが完成!

QUESTION このアクションを続けるために、大切にしていることは?

 常に考え続けることを止めないこと。

記事は雑誌ソトコト2020年6月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

photographs by Masaya Tanaka
text by Kaya Okada

キーワード

小島 幸代

こじま・さちよ
『Rinne.bar』代表。大学ではデザインを専攻。クリエイティブに特化した人事・採用業務を行う。2012年に独立して、クリエイティブ人材育成プログラムなどに関わる。