発酵デパートメント
2020.05.23 UP

種と土のリデザイン

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 東京・世田谷区下北沢にお店をオープンすることになった。2019年に「渋谷ヒカリエ」で開催した発酵ツーリズム展が発展したミュージアムショップだ。日本はもちろん世界各地のユニークな発酵にまつわる商品を展示・販売、発酵食材を使った飲食体験もできる。味噌や麹などメジャーな食材はもちろん、カテゴライズ不能のローカリティあふれる発酵ブツも多く取り扱う。もっと端的に言うと、「ななな、なんだこれは?」というモノがあふれる摩訶不思議なお店だ。なぜこのようなプロジェクトをやるに至ったか、書き記しておく。

種=アーカイブ

 発酵デザイナーとしての大事な仕事は「発酵文化の継承」だ。文化を受け継ぐために、2つのキーワードを軸に据えた。1つは種を残す=アーカイブすること。この連載でも紹介してきたように、僕はローカルに人知れず根づいている発酵文化を訪ねて回っている。小さなコミュニティで何代にもわたって造り続けられてきたレシピを、なるべくオリジナルに近い形で記録し、自分の手で再現する。継承するための基本は、過去の記憶をアーカイブすることだ。

土=デザイン

 2つ目は土を耕す=デザイン。ずっと活動を続けてきて実感するのが、アーカイブだけでは文化は残らないということ。今の時代を生きる人たちがそのアーカイブを「未来に役立つ」と思わなければ、記憶は思い出されることはない。種は眠ったままだ。そこで、種を蒔いて芽が出るための土を耕す必要がある。この耕す作業が「デザイン」であると、僕は考える。集めた種=アーカイブが現代の生活に合うような文脈やシチュエーションをつくる。例えば超ローカルな漬物を、昔ながらの食べ方ではなくワインとペアリングしてみる。または、忘れ去られたレシピのなかに現代性を見出す(青森県十和田市の「ごど」という麹納豆がその好例だ)。そうやって見出した食べ方やレシピを発酵好きコミュニティ向けのワークショップで手を動かして学んでいく。
 あるいは、これまでとは違う方法論で、発酵を実践する新世代の醸造家や料理家に伝統技術をアレンジしてもらう。超古いレシピを、最先端の醸造技術を使って再現することで、見たこともないような刺激的な発酵ブツが生まれる。
 そうやって現代という土に種を蒔いていくことで、文化が芽吹いていく。種を残すだけでは忘れられるが、未来につながる挑戦をするためには、インスピレーションとなる種が必要だ。

発酵的温故知新

 僕の仕事を手伝ってくれる若者たちが好きなものを見ていると、カセットテープや古道具などレトロなものがカッコいいと感じるそうな。その一方、新しいテクノロジーも好き。彼・彼女たちにとって「古い」と「新しい」は対立しない。自分の生活に意味や喜びをもたらせてくれるものはフラットに受け入れるのが、今の時代の価値観だ。豊かな文化をつくるためには、過去と未来の両方の時間軸が、DNAのように二重螺旋を描いて流れていく必要がある。僕が下北沢のお店で目指すのは、過去に向けたアーカイブと未来に向けたデザインの両翼で発酵文化の多様性や社会的価値を可視化すること。そこまでやってようやく「文化の継承」にたどり着くことができるのだ。
 

小倉ヒラク

おぐら・ひらく
発酵デザイナー。「見えない発酵菌たちのはたらきを、デザインを通して見えるようにする」ことを目指し、全国の醸造家と商品開発や絵本・アニメの制作、ワークショップを開催。著書に『発酵文化人類学』(木楽舎)、最新刊は『日本発酵紀行』(D&DEPARTMENT PROJECT)。