『シーナタウン』代表取締役 日神山晃一 | mtu
2019.05.02 UP

『シーナタウン』代表取締役 日神山晃一 | mtu

PEOPLE

西池袋×クラフトビール。
ドリンクローカルの拠点
『NishiikeMart』、オープンです。

東京都豊島区の西池袋で、4月21日にオープンした『NishiikeMart』は、クラフトビール工房を真ん中に、ラジオステーションやギャラリースペースがあるクリエイティブな場所。この場所を運営する『シーナタウン』代表の日神山晃一さんに、『NishiikeMart』をつくった思いを聞いた。

画家や漫画家が
集った町で、互いに認め合う
「コレデイイノダ」空間。

 東京都豊島区の西池袋。いくつもの商店が入り、買い物客で賑わっていた築約50年の木造建物のマーケット『西池袋マート』跡地が、交流の拠点として生まれ変わる。今年4月21日、『NishiikeMart』は昔の建物のよさを残しながらリノベーションされ、オープンした。全米一のホームブルーイング賞を受賞した藤浦一理さんによるクラフトビール醸造所&ビアパブ『SNARK LIQUIDWORKS』がメイン店舗として入り、インターネットラジオステーション「コレデイイノダラジオ」、アートギャラリー「Nishiike Gallery」が併設されている。
 全体の企画・運営をしているのは『シーナタウン』。同じく豊島区の西武池袋線・椎名町駅前の商店街では町の日常に触れられる宿&お菓子工房・ミシンコミュニティスペース『シーナと一平』を、また、同区要町では近所に住む女性たちが働き、ケータリングや食のイベント企画などを行う『アホウドリ』を運営する。
 西池袋エリアはかつて、画家や文化人が多く住んだことで「池袋モンパルナス」と呼ばれたり、若き漫画家たちがともに暮らした『トキワ荘』があった。こうした場所でビールを造り、新しい「ドリンクローカル」な文化拠点をつくるのは、どういう思いがあるのか。『シーナタウン』代表であり、店舗などの内装やデザインを手がける『日神山内装』代表でもある日神山晃一さんに聞いた。

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右/『西池袋マート』は、青果店や精肉店など複数の商店が入っていたマーケット。ここ10年ほどは空き家状態になっていた。左/日神山さんが描いた改装後の内装イメージ。天井や床など、かつての建物の面影を多く残す。

まずは西池袋について教えてください。『シーナと一平』『アホウドリ』がある場所も西池袋エリアといえますね。

 『シーナと一平』がある椎名町って、池袋に近いという立地もあり外国人旅行者が増えています。でも特別な観光地ではないので、「僕らの当たり前の日常」を楽しんでもらいたい。西池袋って、もともと「池袋モンパルナス」と呼ばれたり、『トキワ荘』があって、今でいう「オタク」のような人がいっぱいいました。絵を描くことしかできないのだけど、それを一生懸命やっていて、魅力的な人が、当たり前のようにいた。だから今も、少々変わった人がいても、気にしないんです(笑)。

許容してくれる町なのですね。

 そういう人たちをあたたかく見守り、育てる空気が、この町自体にあると思っています。『NishiikeMart』の中にラジオステーションをつくったのも、そういう人たちを、ラジオを通して“あぶり出して”いきたいという思いがあるんです。

その名称が「コレデイイノダラジオ」。いい名前です。

 聴いてもらうというよりも、出演してもらうラジオ。ビールを飲みながら、お互いがやっていることを「すごいおもしろね」「コレデイイノダ」って肯定できる場所にしたいんです。

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右・左上/ここでクラフトビール造りを行う『SNARK LIQUIDWORKS』の藤浦一理さん。5本のタンクで、オリジナルのビールを造る。左下/バーカウンターからは、ガラス越しにビール工房の中を眺められる。『NishikeMart』(東京都豊島区西池袋4-19-14)の営業日・時間の詳細はFacebookページで。www.facebook.com/nishiikemart

地域のビールが、
町を誇りに思う
きっかけのひとつに。

そもそも、どのようにこの場所と出合い、ビールを造ることになったのでしょう?

 『シーナと一平』は、町の人に親しまれてきた元・とんかつ屋さんをリノベした場所で、その面影を大切にしたのですが、町に馴染んでいった結果、「こちらにも空いている場所があって、どうしたらいい?」という相談を受けるようになりました。『アホウドリ』もその流れで受け継ぎました。『西池袋マート』は相談を受けたわけではなく、縁があって大家さんと出会ったのですが、これまで数多くの建て替えの話があったはずなんです。でも、大家さんは地域に縁があり、信用できる人にしか貸さないスタンスを取り続けてきたようです。その大家さんに「あなたたちになら貸してもいいよ」と言ってもらえた。その思いを大切に、なにができるかを考えているときに、ブリュワーの藤浦さんと出会った。2年くらい前のことです。

借りるとき、どう使うか決まってなかったのですね。

 決まっていませんでした(笑)。大家さんの要望は「ここは笑顔が集まる場所だったから、それを取り戻してほしい」ということ。そんなときに藤浦さんと出会ったのですが、「流行っているから」という理由でクラフトビールをやるつもりはありませんでした。でも、「この地域の定番ビールを造っていきたい」という思いを藤浦さんから聞き、アメリカで地域ごとに飲むビールがあるように、このあたりに暮らす人が楽しく飲めるような、日常に溶け込むビールを造って育てたいと。僕たちが大切にしていることも「日常」なので、これは僕たちのやりたいことと一緒だと思ったんです。

西池袋エリアは、気取らない日常が残っている町と感じます。

 町の中に受け継がれてきたデザインや空気感って、つくろうとしてつくれるものではありません。これまでも建物のよさを活かし、町に残っている記憶に新しいものをかけ合わせてきたのは、そうすることで、その町で暮らす人にとって、「誇り」となる拠点になってほしいという思いがあるからなんです。

町の人が誇りに思える場所をつくるって、いいですね。

 そのためには「表に見えること」が大事だと思っています。『シーナと一平』のカフェには、外から見えるところにミシンが置いてあるんです。現在も僕の両親が岡山県で内装業を営んでいて、母親がミシンでカーテンを縫っている横で、僕は育ちました。僕もミシンを使えるのですが、そのミシンをカフェに置くことで、町の中にいるいろいろな人をあぶり出す装置になるんです。縫いたい人が出てきて、教えてあげる人、教えてほしい人、さらには布を持ってくる人、ボタンを持ってくる人も出てきます。

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右/「この場所でイベントをやりたい」。リノベ準備期間中に声をかけてきた地域のグループと一緒に片付けを実施。壁にスイカの絵を描き、子どもたちと「スイカ割り」をしたり、片付けをイベントにした。左/「ご近所フェス」イベントも開催。「この場所に笑顔を取り戻したい」と言っていた大家さんも喜んでいたという。

あえて「余白」を残し、
みんなが参加者となり、
可能性を形にしていく。

世代を超えた関係が生まれそうですね。

 たしかにそうです。そして、たとえば「子どもといっしょにミシンを使っているお母さんやおばあさん」の姿が、道を歩いている人から見えるようになります。たまたま通りかかった人が、「この町ってこういう場所もあるのか。こんな町に住むのも悪くないよね」と思う人も出てくると思います。さらに自分の町を誇れるようになれば、外から来た友達に案内もしたくなるし、「いいところに住んでいるね」と言ってもらえるようになる。そういう場所をつくっていきたいんです。

『NishiikeMart』の場合、ミシンや「手作り」に代わる「人をあぶり出すための装置」が、「ビール」であり「ラジオ」なのですね。

 『シーナと一平』がお母さんや子どもたちが集まる環境なのに対して、こちらはギャラリーやラジオステーションがあり、ビールを造るというクリエイティブな場。ここは学生や若い人、これから世界に打って出ようと、強い熱量を持っている人たちが集まる場所にしていきたいです。

まさに「池袋モンパルナス」であり、『トキワ荘』ですね。

 この場所が、それぞれの人にとって一歩を踏み出せる、チャレンジできる場になるといいなと思っています。『シーナと一平』では、レンタルキッチンを使って週1のカフェをやることにチャレンジした人、ミシン教室を開いた人など、いろいろな人が手を挙げてくれました。初めは自分たちでいろいろ企画しないといけないと思っていたのですが、場所があると「やりたい」という人が出てきてくれる。だから、『NishiikeMart』も完成形で提供するのではなく、あえて「余白」を残しておくといいのかなと思っています。

「お客様」ではなく、参加者になってほしいのですね。

 そうすることで、「私だったら、こういうことができるかも」というアイデアが湧くかもしれないし、誰かと誰かがつながっていくかもしれない。そういう環境で、若い人が壁に絵を描いていて、僕みたいなおじさんがそれを見て、一杯飲みながら「おまえもがんばれよ」って言えるような町だと、すごくおもしろい(笑)。そういう「可能性が見える」場所であり、「世の中に一歩踏み出していく」ための場所になればいいなと思っています。

ラジオはどんな役割ですか?

 ギャラリーがあって音声が残っていけば、このエリアにはこんなにおもしろい人がいるということがアーカイブされます。僕自身はデザイナーで裏方なのですが、なにかひとつ特技を持っていたり、表現方法を持っている人をめちゃくちゃおもしろいと思っています。そういう人たちを紹介したい「変態」なんです(笑)。

ジャンルを超えて、新しいことが始まりそうです。

 おもしろいものって、ただつなげるだけで生まれるわけではなく、つなげた後も並走していくことが大事です。一緒に走ることって、ベクトルが同じ方向に向いてないとできないんです。違うと、離れていっちゃうか、ぶつかるかしてしまう。でも、同じ方向を見ている人が集まると、全身のパワーが増していく気がするんです。でも一方で、ちょっとくらい違う方向を見ていても、それはそれでいいのかもしれません。そのほうがいいスペースもできるし、予想外のおもしろいものが生まれてきますから。

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右/多くの人の協力で、内装工事にかかれる状態に。左/「コレデイイノダラジオ」ブース。出演してもらうことを大切に、ビールを飲み、語り合う。

photographs by Hiroshi Ikeda
text by Kaya Okada

本記事は雑誌ソトコト2019年6月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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日神山晃一

ひかみやま・こういち
1976年埼玉県生まれ、岡山県育ち。筑波大学芸術専門学群建築デザイン科卒業。店舗設計会社などで勤務した後、2010年、『日神山内装 東京セクション』を立ち上げ。15年にまちづくり会社『シーナタウン』設立、代表取締役に就任。16年、『シーナと一平』開店、17年、『アホウドリ』運営開始。