目が見えない、耳が聞こえない人とzoomでコミュニケーションを。
2020.05.19 UP

目が見えない、耳が聞こえない人とzoomでコミュニケーションを。

SOCIAL

「パソコンの画面を見ながら飲み物を飲める人がいるのですね。びっくりしました。」

加賀明音さんの率直な印象でした。

2020年5月1日、横浜でチャレンジングな取り組みが行わました。新型コロナで取り残されそうな人~SDGsの精神「誰一人取り残さない」を目指して~というzoomを使ったオンラインセミナー。170名を超える参加者で賑わいました。

カバー

ZOOM

登壇者の一人は福田暁子さん、盲ろうの女性です。盲ろうとは「目(視覚)と耳(聴覚)の両方に障害をもつ人」のことです。福田さんは、東京女子大学を卒後、アメリカの大学院で学びました。福田さんは先天性の弱視でしたが、17歳の時に多発性硬化症を発症、その後だんだん目がみえなくなり、だんだん耳が聞こえなくなり現在は全盲、全ろうです。また、自分で呼吸ができないため人工呼吸器も必要ですし、移動は電動車椅子です。

福田さん

そう聞くと、「全く何もできない寝たきりの人」を想像する人もいるかと思いますが、彼女は、一人暮らしをしながら、国際協力活動、地域の自立支援協議会委員、大学講師などとして活躍中です。パソコンを駆使してメールやチャットで多くの人と連絡をとりあい、また講習会にでかけては、触手話(手のひらの上で触りながら行う手話)でコミュニケーションをとりながら講義を行っています。パソコンのメールやチャットは、指先で文字が確認できる点字ディスプレイという機械を使って読むことができるのです。

福田さん

ところが、新型コロナウィルス感染症が蔓延するこの時代、福田さんの生活にも影響がでてきました。

三密(密集、密閉、密接)を避けなければならない「withコロナ」時代ですが、触手話は触ることによるコミュニケーション方法、接触しない触手話はありえない。たまに電動車椅子で買い物に行くのが楽しみだった福田さんですが、電動車椅子で外に出ると、ウィルスなどが車椅子に付着して、そのまま自宅にもどると家の中がウィルスで汚染されてします。上履き、下履き履き替えるのが健常者ですが、上車椅子、下車椅子と使い分けることはできません。

福田さん

zoomでのオンライン会議、オンライン飲み会などが急に普及しましたが、彼女は参加することに大きな障壁があります。今までメールやチャットで友達と話をしたり、SNSで会話したりするのを楽しみにしていたのですが。

今回のセミナーは、横浜コミュニティデザイン・ラボ、ことぶき協働スペースそして野毛坂グローカルの横浜でそれぞれの立場で地域共生社会の実現を目指す3団体が共催し、SDGsの基本精神「誰一人取り残さない」を新型コロナ時代に、あらためて考え、気づくことを目指したセミナーです。

今は、もちろん誰もが大変な時をすごしているのですが、その中でも、特に大きな影響を被っている人たちがいます。たとえば地域の高齢者、たとえば若者、たとえば外国人、そしてたとえば障害者など。
誰もが困難な時だからこそ、最も脆弱な立場の人のことを誰もが思い起こそうとの思いで企画されました。

特にテレビ会議。移動の困難な障害者や高齢者が同じ土俵で会議に参加できるという意味では、取り残さない人を減らすツールといえますが、一方で、福田さんのようにテレビ会議を使うことで、さらに「取り残される」人がいます。そこを実施に参加者が体験的に感じることにより、より大きな気づきがあることを目指しました。

ZOOM

参加者は盲ろう者の他に、視覚障害者、日本語を話せない外国人もいました。

セミナーの話題提供者だけで7名、それに司会者、タイ語日本語通訳、要約筆記の7名、事務局の2名の計17名が、オンラインだけで、「全員ボランティア」でこのセミナーの運営にあたりました。予算はゼロで実現したセミナーでした。

アンケートの結果を紹介します

ボランティアで要約筆記した女性
最初は盲ろう者を助けるボランティアをしようと思っていたけど、 だんだん盲ろう者に助けられている気になりました。

参加者(学生)
「盲ろうの方は常に三密」、という言葉にはっと思いました。

参加者(大学教員)
障外者が健常者に合わせざるを得ないという、現実に起こっている状況を疑似体験させて頂いたと感じています。また、いかに健常者が奢りを持っているか、痛感した場でもあります。  

海外からの参加者
現在海外に住んでおり、障壁なく参加できる日本のオンラインセミナーが増え有難く感じておりましたが、盲ろう者の方等、一部の方にとってはオンラインが障壁になりうることを認識できた、貴重な経験でした。

参加者(NPO職員)
インクルーシブが大事と頭で分かっていても、実際には、自分の気持ちの切り替えや理解の深化ができていなかったと痛感。大事な経験でした。

参加者(海外援助コンサルタント)
”「誰一人取り残さない」を目指して”という趣旨なので、双方向でかつ盲ろう者などの取り残されている方々に配慮した運営をこれからもすべきと思いました。今回、要約筆記のために聴者にとっては聞きずらい講演になりましたが、この経験こそが盲ろう者が置かれた(取り残された)状況だと思いました。 

参加者(学生)
不便な中で、参加者全員が折り合いをつけていくことへの「慣れ」のようなものが、がオンラインの場で徐々に醸成されていったように思いました。


このように、多くの参加者にとって刺さったセミナーだったようです。

発話者が話したことを7名の要約筆記ボランティアが交代でタイプして伝えます。耳が聞こえない人だけだとタイプするのは音声だけで良いのですが、目が見えないと、会場の雰囲気、例えば「発話者は中年のメガネ男性」、「うなずいている」、「笑い」など会場の状況もタイプを行います。
タイプが追いつかず、発話者に対して「早すぎます、もっとゆっくり」とお願いして中断することもしばしば、またコミュニケーションがうまくいかず、沈黙が流れることもありました。

「スムーズな運営がなされるセミナー」との視点であれば、失敗セミナーだったでしょう。しかし、アンケートの感想をみると、参加者一人ひとりに大きく刺さったセミナーだったと確信しました。

冒頭で紹介した「パソコンの画面を見ながら飲み物を飲める人がいるのですね。びっくりしました。」とは、盲ろうの加賀さんの感想です。
盲ろう者がパソコン画面を指先で読んでいることは頭では知っていても、飲み物を飲みながら画面を見ることが出来ないことまでは思いがいたりませんでした。でも、それよりも驚いたのは、盲ろうの加賀さんが健常者が画面を見ながら飲み物を飲むことにびっくりしたことです。お互い、同じ地球上に生きていながら、全く知らなかったことの気づきです。

このセミナーをきっかけに、「もう少しお互いを知ろうよ」との機運が盛り上がり、加賀さんや他の盲ろう者に今回要約筆記をしたボランティアたちで、盲ろう者とzoomで、ただしゃべる会を行うことになりました。どのように会話するのが良いのか、例えばzoomでつなぎはするけど、全員マイクオフでチャットで会話するなどいろいろ試しながら行う会です。ざっくばらんな会を通じて、少しでもお互いを知ることから始めようとの思いです。

イベント概要

しゃべり禁止!zoomでトーク会 ~盲ろう(見えない聞こえない)の人と一緒に話そう~
5月22日19:30-21:00
https://nogezaka-glocal.com/2020/05/05/bdtalk/

多くの学校でオンライン授業が行われようとしています。インターネット環境や機器の問題がクローズアップされていますが、たとえば、全盲の大学生がオンライン授業を受けることが困難な事例が発生しています。難聴の学生にとっても問題は同様です。指示語があれば全盲の学生は理解でないし、字幕がついている教材もほとんどありません。
オンライン会議、オンライン授業のメリットは大きいとは思いますが、一方で「そこから取り残される人がいる」を一人ひとりが気づくことが、SDGsの精神「誰一人取り残さない」を実現する、小さな、でも確かな一歩ではないでしょうか。

セミナー概要

緊急オンラインイベント
新型コロナで取り残されそうな人~SDGsの精神「誰一人取り残さない」を目指して

主催
横浜コミュニティデザイン・ラボ https://yokohamalab.jp/
ことぶき協働スペース https://kotobuki.space/
野毛坂グローカル https://nogezaka-glocal.com/

プログラム

◆ことぶき協働スペースについて
・徳永緑 ことぶき協働スペース 施設長

◆基調講演

「取り残される社会的弱者とSDGs」
・ 秋山愛子 国連アジア太平洋経済社会委員会社会問題担当官

◆話題提供1

障害者は取り残されるか?
・福田暁子  全国盲ろう者協議会評議員、
  アジア盲ろう者団体ネットワークコーディネータ、
 前 世界盲ろう者連盟事務局長

◆話題提供2

外国人は取り残されるか?
・ソンポン サラケオ タイ労働者権利推進ネットワーク 代表

◆話題提供3

高齢者は地域から取り残されるか?
・米岡美智枝 横浜市西区地区社協 会長
・小林直人  横浜市西区 地区民生委員・児童委員 協議会 会長

◆話題提供4
・若者は取り残されるか?:富樫泰良 慶応大学SFC学生

登壇者

徳永緑

ことぶき協働スペース施設長
阪神淡路大震災を契機に市民の主体的な活動の社会的役割に開眼し、中間支援NPOにて、非営利活動の基盤整備や協働の促進事業に携わる。「自治と連帯」「参加と協働」をテーマに、個人の思いが活かされる社会づくりを目指している。

秋山愛子

国連アジア太平洋経済社会委員会(UNESCAP)社会問題担当官
国際的に障害インクルージョン、障害者人権推進に関わる専門家。
最近は「誰一人取り残さない防災」に特に注力している。

福田暁子

全国盲ろう者協議会評議員、アジア盲ろう者団体ネットワークコーディネーター、前 世界盲ろう者連盟事務局長
アメリカ大学院でソーシャルワークを専攻し、その後国際機関、NGO、大学などで勤務。幼児期に視覚障害が発症し、その後難聴障害がはじまり現在は全盲ろう。人工呼吸器、電動車椅子利用。大学での講義や国連の依頼の調査など世界的に活躍中。

米岡美智枝

横浜市西区第4地区社会福祉協議会会長
自治会長、自治会連合会副会長、まちづくり協議会会長など地域コミュニティリーダを長年実践。最近は、タイ首長への地域活動講義やモザンビーク行政官への地域防災活動の講義、横浜国立大学での講義なども行う。

小林直人

横浜市西区第4地区民生委員・児童委員 協議会会長
公立中学校校長を経て、 10年前に お世話になった地域への恩返しのつもりで地区の民生委員・児童委員を拝命し、その後副会長を経て現職。 

ソンポン サラケオ(Sompong Srakaew)

タイ労働者権利推進ネットワーク 代表
タイ・タマサート大学、同大学院卒、学生時代から社会的弱者の権利擁護活動を開始、ミャンマー人など移住労働者の権利擁護と生活向上のためにニーズに則した生活者としての労働者家族全体のサポートを行う2006年LPNを創設。草の根での外国人の支援を行うと共に、政府機関、国連機関などへのアドボカシを行う。
現在は新型コロナウィルスで生活が脅かされるタイに住むミャンマー人の支援に忙しい毎日。

富樫泰良

慶応大学SFC学生、オール・ニッポン・レノベーション代表理事
初代日本若者協議会代表理事。千葉県御宿でソーシャルビジネス/コミュニティビジネスによる地域活性化を実践するかたわら、自民党の成人年齢に関する特命委員や公明党若者インサイト会議に有識者として参加するなど与野党、国政/地方問わず、若者の政策立案参加にかる政策提言にかかわる。著書に「ボクらのキボウ 政治のリアル」。

コーディネーター

杉浦裕樹

NPO法人横浜コミュニティデザイン・ラボ代表理事、ヨコハマ経済新聞編集長
2003年に横浜コミュニティデザイン・ラボを設立。2004年にローカルニュースサイト「ヨコハマ経済新聞」を創刊し編集長を務めている。2011年に開設したシェアオフィス「さくらWORKS<関内>」を活動の拠点にしている。2014年に横浜の地域課題を市民参加型で解決していくWEBサイト「LOCAL GOOD YOKOHAMA]を開設。

奥井利幸

野毛坂グローカル代表
「誰一人取り残さない共生の地域づくり」をめざして、途上国と日本の学びあいを実施する国際協力&地域コミュニティづくり団体の野毛坂グローカルのファウンダー、代表。
コミュニティ開発分野、社会的弱者支援分野の国際協力を経て現職。

要約筆記(音声情報,視覚情報)ボランティア

川田千穂(早稲田大学2年)、柴田菜帆(早稲田大学2年)、白河紗(大学2年)、鈴木順子(JICA海外協力隊員)、武井啓子(日本語教師)、中川可奈子(JICA海外協力隊員予定者)、 安田晴香さん(岐阜大学5年)

タイ語日本語ボランティア

竹森孝江(タイ語日本語通訳)
 

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