『ブックレットホン』創刊号
2020.05.27 UP

連載 | リトルプレスから始まる旅 | 61 『ブックレットホン』創刊号

SUSTAINABILITY

本屋さんがつくった本。

 奈良県大和郡山市にある、本と雑貨のお店『とほん』が刊行を始めたリトルプレス『ブックレットホン』。
 本や本屋が好きな人、本を傍らにのんびり過ごすのが好きな人、そして奈良の小さな本屋へ訪れてもらうためにつくられたリトルプレス。
 創刊号の特集は、3章に分けられた「奈良と本」。1章目の「本と一緒」は、本に親しめる場所と時間の紹介。
 東吉野村、杉木立の奥にある私設図書館。「山と人、町と人を繋ぐ場所にしたい」と大学の非常勤講師と図書館司書という経歴を持つ2人が自分たちの経験と蔵書を生かして住みながら開いた場所は、自然に囲まれ、風も吹き抜けるような素敵な場所。
 生駒山で開催された「山/カレー/音楽+本」という催し。主催は店舗委託型古書店『MAGARI Books』。開放的なスリランカレストラン『ラッキーガーデン』の屋外スペースで、カレー、音楽ライブ、セレクトされた古書が交じり合い、訪れた人が心ゆくまで堪能できる空間になった。

山とカレーと音楽と本

 2章目「文人と奈良」は、「柿食えば鐘が鳴るなり法隆寺」の正岡子規が、この句に辿り着くまでのエピソードや、『夫婦善哉』の織田作之助が、正倉院の御物公開への熱狂を批判するくだり。
 小林秀雄が哲学的でありながら、叙情的に描く、明日香村の石舞台古墳。なぜか彼は、蘇我馬子の墓の石の上で弁当を食べ、懐古の情に耽る

山

 3章目「話を訪ねる」は、『鹿男あをによし』の舞台となった奈良公園を取材。原作とドラマ版の違いや、「鹿男の木」を紹介する。
 創刊号から始まった連載は、著者・担当者が自ら担当した本を紹介する、「愛すべき手前味噌書籍案内」。
『とほん』近くにある元ガソリンスタンドで営業するカフェ『K COFFEE』を紹介する「一冊と一杯」。敷地の角にある金魚が泳ぐ電話ボックスも紹介されている。
「隙あらば行きたい」では、自分では思ってもいなかった、自分の読みたかった本が見つかる、大阪府三島郡島本町水無瀬にある不思議な『長谷川書店』が登場する。
 巻末の連載詩は、奈良在住の詩人・西尾勝彦さんの「はじめてものを見る時のように」。
『ブックレットホン』に登場する風景は、本が関わっていることで、とても魅力的に見える。
 本は、本に書かれた文章や絵だけで完結しているように見えて、物理的にも、意味のあるものとしても、本だけで存在することはできない。本を楽しむことは、知識や情報を得るだけでなく、本にまつわる人々や、人が営む場所、そこに流れる時間など、本と周囲との関わりのなかにある。
「本とは何か」について、改めて気づかされたように思う。

今月のおすすめリトルプレス

『ブックレットホン』創刊号

本や本屋、本を傍らにのんびり過ごすのが好きな方に。発行・編集:とほんの編集室 2017年2月発行 210x148ミリ(36ページ)、648円

『ブックレットホン』発行人より一言

本屋

『とほん』は奈良にある小さな本屋です。店名は「人とほん」「町とほん」など、いろいろなものごとに「と、ほん」とつながりたいとの思いから。私と嫁はライター業もしており、せっかくならと自分たちで『ブックレットホン』を創刊! 本とつながるあれこれを紹介しています。

文●根木慶太郎

記事は雑誌ソトコト2017年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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根木慶太郎

ねき・けいたろう
岡山県玉野市で新刊や古書、洋書、リトルプレスを扱う書店『451ブックス』を経営。地元では「絵本を読む」教室なども開催。全国から取り揃えたリトルプレスはネットショップでも購入可。www.451books.com