憂国呆談 season 2 volume 107
2019.05.02 UP

憂国呆談 season 2 volume 107

SOCIAL

【今月の憂いゴト】
日本の医療の課題から、
新元号「令和」の背景、
イチローの引退会見、
平成の自閉的消費社会まで。

人工股関節全置換術を受けた田中氏を見舞おうと、入院先である『東京慈恵会医科大学附属病院』を訪れた浅田氏。術後は良好な経過をたどっていた田中氏は元気な姿を見せ、病院の計らいによって特別個室を借りて対談を行った。日本の医療の課題に始まり、新元号「令和」にまつわる話題まで、平成最後の対談も、日本の現状と未来を憂えるものだった。

優れた医療技術には、
相応の対価を払うべき?

浅田  今日は田中さんが入院してる慈恵医大病院での対談だけど、具合はどう?

田中  わざわざ来ていただいて恐縮です。右脚の大腿骨の上部にセラミック製の人工股関節をはめ込む手術を10日前に受けたんだけど、2011年の「3.11」直前、同様の手術を右脚に行った前回よりも回復が順調で、手術の翌々日にはウロバッグ(蓄尿バッグ)を外すことができ、病室のある20階を一周、歩行訓練もできた。
 部分麻酔だった小学2年の扁桃腺摘出術、中学3年の虫垂炎切除術に始まり、20代半ばには全損事故での腱縫合術、そして1999年から内視鏡で膀胱腫瘍を計6回切除した後、2003年の暮れには6時間にわたって膀胱と前立腺を摘出し、60センチ切除した小腸を縫い合わせて新しい膀胱を同じ場所に設ける膀胱全摘除術・回腸新膀胱造設術を受けた。このほかにも網膜剥離、鼠径ヘルニア、喉仏上部の正中頸嚢胞切除術と、“疾患のホームセンター”状態だよ。

浅田  手術室に向かう直前に田中さんが書いた「憎まれっ子世に憚る」って原稿を読んだけど(田中氏のHPで閲覧可能)、「一病息災」どころか「多病息災」とでも言うべきすごい手術の回数。

田中  改めて計算したら今回で全身麻酔が13回目。部分麻酔が5回。でも早期発見・早期治療で事なきを得ているのは、21世紀に入ってから年1回の胃内視鏡・大腸内視鏡検査を励行しているお陰だね。自慢じゃないけど、年2回の血液・尿検査でもすべて基準値内の数値だもの。
 そうそう、信州の県知事に就任して半年後の2001年4月には右下肢が蜂窩織炎に感染して、正午の全国ニュースで「緊急入院」を報ずる騒ぎとなった。まあ、その頃からNHKは、国内外の政治や経済の伝えるべき事柄よりも大衆迎合の忖度ニュースを優先する体質だったとも言えるけど(苦笑)、ひっかき傷からブドウ球菌やレンサ球菌が体内に侵入すると瞬く内に患部が膨れ上がる蜂窩織炎は、血液を通じて脳や心臓にも入り込むと死に至る厄介な感染症。スポーツの際に腫れや痛みを感じたら、侮らないほうがいいよ。
 この病院は食事もおいしいと評判で、しかも1日3食で1440キロカロリーだから、脱デブ宣言の効果も期待できそうかな(爆笑)。他方で、生活習慣病に気をつけましょうと啓発する医療機関の医師や看護師をはじめとするスタッフの食生活が、コンビニ弁当を控室でかっ食らう「紺屋の白袴」状態な惨状は、もっと真剣に議論されるべきだよ。患者の楽しみが3度の食事であるように、定食屋のおばさんがつくるお袋の味の惣菜的料理が夜10時まで食べられる職員食堂を院内に設けるべきだね。

浅田  アメリカの大学病院はスタッフ用ラウンジにジュースやコーヒー、ヨーグルトやバナナがいつもいっぱい置いてあって、手術の合間でもパッと来て食べられるようになってる。せめてああいうふうにすればいいのに。

田中  「日本人は農耕民族で草食動物だから、行軍の途中で草木を食べれば補給など不要だ」と妄言を吐いた陸軍中将の牟田口廉也がインパール作戦の悲劇を生んだように、日本には兵站というロジスティックスの発想が乏しいんだね。

浅田  医療では患者のクオリティ・オヴ・ライフ(生活の質:QL)の重視が進み、この病棟だと付き添いの家族も楽に泊まれるようになってる。今度はスタッフのQLを向上させないと。ただ、勤務医の過重労働の改善は急務だとして、現状で機械的に実行したら、ほとんどの病院はパンクしちゃう。

田中  慈恵医大は建学の精神に「病気をずして病人を診よ」を掲げているけど、患者に対する接し方として大事な視点だと思うよ。もう一点、今後も国民皆保険を堅持したうえで、自由診療とは異なる仕組みの制度も設けるべきではないかな。左眼の網膜が9割近くも剥がれて万華鏡のような状態になった2008年のお盆明け、内海桂子師匠や生前に大橋巨泉さんもかかりつけだった蔵前の眼科に駆け込んだら、その医師は古い術式の強膜バックリング術をあえて最初に行った。数日後に部分的に剥がれてきて、すると今度は新しい術式の硝子体手術で完治した。日本人にしては僕の眼球は大きいので、再び剥離する可能性が高く、最初から硝子体手術を選択すると、幾度も手術を繰り返す羽目に陥ると判断したんだね。当初はコンタクトや眼鏡等の矯正視力でも0.1になるかどうかと宣告されていたのに、幸いに現在は1.0。技術を持った医師のセンスというか「勘性」だよね。ところが現在の診療報酬制度では、一般的な緑内障や白内障の手術と公的医療保険の点数が変わらない。高い技術を持った医師による治療の費用は、それなりの差を設けるべきだと思う。

浅田  それ以前に技術をちゃんと評価しないとね。

田中  おっしゃるとおり。「評価」という決断が苦手な日本では、そこが大きな問題だけど。
 福生市の公立福生病院で人工透析治療を止めたことで腎臓病を患っていた女性が亡くなった。生体腎移植を行わぬかぎり、慢性腎不全の治癒は難しく、人工透析は延命治療と位置づけられている。現に日本での透析導入時年齢の平均は70歳。75歳以上が40パーセント、80歳以上が25パーセント。今回の患者は40代半ばだったそうだから、透析の中止は死を意味する冷厳な事実を本人や家族との話し合いの中で的確に説明して納得を得ていたかどうか、頭デッカチではない倫理とか宗教とか哲学が問われている。透析中止=血も涙もない冷酷な医療現場という二元論的視点で報じがちなマスメディアだけでなく、立ち入り調査に入った東京都も日本透析医学会もマニュアル的な手続き論で判断していては問題解決にならない。財務省の友達と社会保障費について細かく検討したという古市憲寿が落合陽一との『文學界』の新春対談で、「最後の1か月間の延命治療はやめませんか?」と提案すれば大幅に削減可能だ、と暴論を吐いて炎上していたけど、こういう時こそ、彼らの「非社会学的」「非科学的」なコメントを取りに記者も出かければいいのにね(苦笑)。

浅田  単なる延命だけなら延々と続けられるし、止められなくなるわけだけど、それこそQLの観点から、尊厳死も含めて終末期にどうするのか具体的なガイドラインをつくらないとね。
 あと、技術料の話と併せて言えば、薬もどんどん進歩してるけど、薬価の高騰は異常だよ。田中さんが技術について二階建てにしてもいいって言うのはわかるけど、アメリカみたいに高価な薬は金持ちしか使えないってのはまずい。

田中  おっしゃるとおり。と同時に、投薬や検査で点数を稼ぐ構造を日本は改めないと。本庶佑氏が開発した保険適用のオプジーボは、がん患者1人当たり年間3500万円。巨大製薬会社とウォール・ストリートの好き勝手にはさせないぞ、と叫ぶドナルド・トランプ米大統領は、その点において正しい。農薬も単位面積当たり中国の2倍以上使っている日本は、幾種類も処方されると安心する薬信仰が根強い国民性だからね。

浅田  インフルエンザの薬も使いすぎで、すでに耐性のあるウィルスの蔓延を招いてる。元気な若者はインフルエンザにっても風邪だと思って寝てたらほぼ治るんだから──むろん油断は禁物だけど。老母が脳梗塞で倒れたあと、どうしても多少は鬱になる、すると抗鬱剤が処方されるわけ。これで気分が少しでもよくなるのなら、とは思うけど、そしたらもうやめられないからね。あるいは、昔なら落ち着きのない子どもで済んでたのが、ADHD(注意欠陥多動性障害)と診断され、薬が処方されると、へたすりゃ一生飲み続けることになるわけよ。もっと大変なのはアメリカで問題になってる麻薬性鎮痛剤(オピオイド)の乱用。サックラー家の所有するパーデュー・ファーマ社が、習慣性が弱いと称してオキシコンチンって薬を売りまくったあげく、1996年の販売開始以来3兆円以上売り上げると同時に700万人超の乱用者を生んだって言われる。QLのためにもペイン・コントロールは重要だけど、がん患者でもないのに麻薬性鎮痛剤をどんどん使うってのはちょっと……。

田中  この点でも、3年間にオピオイド関連の処方3割削減を掲げ、より安価なオキシコドン、ヒドロコドン、オキシモルホン、ヒドロモルフォン、モルヒネ、フェンタニルの6種類のオピオイドの生産を年10パーセント削減せよと製薬会社に、司法省と連邦麻薬取締局から通達したトランプはグッド・ジョブだよ。
 なにしろオピオイド乱用で1年に4万9000人も死亡しているんだから尋常じゃない。ドナルド、シンゾーとファーストネームで呼び合う日本は、こうした点こそ米国追随でお願いしたいね。

新元号の「令和」は、
日本オリジナルの言葉?

浅田  今回の『ソトコト』が発売される頃には平成が終わって「令和」になってるわけだけど、複数の報道によると天皇サイドは年度末日に退位して4月1日に新天皇が即位する日程を考えてたのが、首相サイドが強引に1か月遅らせたらしい。

田中  「改元」を尊ぶ人々は、を担ぐべき発表の日がエイプリル・フールで、メーデーに即位とは不敬罪だと激怒するべきなのに、どうしたんだ。明仁天皇も徳仁天皇も微苦笑していると思うよ。もっと言うと、昭和13年の1938年に近衛文麿内閣が国家総動員法を公布したのが4月1日。昭和20年の1945年に米軍が沖縄本島に上陸して琉球列島米国軍政府の布告を公布したのも4月1日。さらには平成元年の1989年に竹下登内閣が税率3パーセントの消費税を導入し、平成9年の1997年に橋本龍太郎内閣が5パーセントに、そして「リフレ派」学者も熱烈支持する安倍晋三内閣が5年前の2014年に8パーセントに引き上げたのもすべて4月1日。八百屋お七の恋人の吉三の墓で知られる目黒雅叙園脇の行人坂の大円寺で出火した江戸三大大火の明和の大火も新暦で4月1日。忌み嫌って即日、元号は安永となっている。いやはや。
 しかも1月のダボス会議で国際的なデジタルデータの流通ルール策定を日本が提案したのに、国交関係のある国にファックスで通知したって、相手国のオフィシャルなアドレスにメール送信するならいざ知らず、届いたかどうかすら確認できないでしょ。しかも、新元号は「令和」とだけ記して海外メディアにもリリースしたから、忖度のNHKとは似ても似つかぬBBCが皮肉っぽく「Order&Harmony」と報じたら、慌てて外務省が「Beautiful Harmony」と各国に説明せよと在外公館に指示を出すドタバタぶり。さすがに非難囂々でポシャッたけど2時間早めるサマータイムといい、イートインとテイクアウトで税率が異なる軽減税率といい、生煮え状態で打ち出す霞が関の劣化は目を覆うばかりだ。

浅田  改元でコンピューター・プログラムを全部書き換えなきゃいけないとか、Y2K問題みたいなことを自ら起こしてるわけ。元号を文化的慣習として使うのはいいけど、公文書や契約書の類は西暦に統一したほうがいい。キリスト教におもねるわけじゃなく、単に世界中で通用して計算もしやすいから。その点、河野太郎外相が外交文書の西暦表記を徹底させるって言ってたのは正しい──と思ったら、与党からの反発で、国内で使う行政文書は元号表記を維持すると直ちにトーン・ダウン(苦笑)。

田中  令和の考案者と報じられている国際日本文化研究センター名誉教授の中西進は、「元号は個人の所有物ではないから、つくるのは神や天で、誰が考えたとしても粘土細工の粘土を出しただけ」と煙に巻いているけど、批判を恐れずえれば、資本主義とスターリン主義の専横ぶりを正すべく、第四インターナショナルを結成するもヨシフ・スターリンが送り込んだ刺客に暗殺されてしまった文芸評論家でもあったユダヤ系のレフ・トロツキーのような端倪すべからざる碩学だね。そもそも、平仮名ではなく漢字を使っているかぎり、原籍は中国なんだから。

浅田  仮名ですら真名、つまり漢字を簡略化したものなんで、どこまで行っても元は中国。令和の由来である『万葉集』の梅花の歌32首の序は、中国の『文選』に含まれる張衡の「帰田賦」に倣ったものとされ、かつ中西進は王羲之の『蘭亭序』を踏まえたものだって言ってる。そもそもこれらの歌が詠まれた梅花の宴は序の筆者とされる大伴旅人が太宰府で開いたもので、彼や出席者の山上憶良は唐の影響下に新しい波を起こしつつあった、憶良にいたっては百済からの渡来人の子だってのが中西説だからね。桓武天皇の生母が百済の武寧王の子孫であると『続日本紀』に書かれていることに韓国とのゆかりを感じるっていう平成天皇の発言(2001年の天皇誕生日)にも通ずる話。安倍晋三首相は漢籍じゃなく国書を選んだのは画期的だって威張ってるけど、無知にもほどがある。

田中  東京大学教授で『万葉集』が専門の品田悦一が、「『令和』から浮かび上がる大伴旅人のメッセージ」と題して、「典拠の文脈を精読すると、〈権力者の横暴を許せないし、忘れることもできない〉という、おそらく政府関係者には思いもよらなかったメッセージが読み解けてきます」と『朝日新聞』の「私の視点」欄に投稿したのに梨のだと周囲に語って、ヘタレ朝日と話題になっているね。

浅田  元号の考案者は誰かと追跡取材したNHKの番組で、中国文学者の興膳宏が、元号は中国の皇帝が空間のみならず時間をも支配する象徴なんで、日本国憲法にはそぐわないんじゃないかって言ってた。マス・メディアでそういう正論を言ったのがほかには共産党ぐらいってんだから、翼賛報道ぶりには呆れるね。だいたい、発表まで秘密を守りきったとか騒いでるけど、11時半の発表直後、安倍のコバンザメの岩田明子がNHKの中継番組で『万葉集』のフリップを出して解説してるんだから、事前に聞いてたに決まってる。

田中  しかも菅義偉官房長官は前回の小渕恵三官房長官と同様に、額縁に納められた令和の字を自分の右手に掲げたのに、NHKはその上にワイプで手話通訳士を映し出す大失態。中国中央電視台や朝鮮中央テレビだったら始末書では済まないよ。

浅田  前日に練習したっていうのに(苦笑)。前回の改元では、竹下登首相は表に出ず、小渕恵三官房長官が発表した。ところが安倍はTV各局を行脚し、「元号に込めた思い」を語る。NHKのニュースウオッチ9でも、やっぱり岩田明子が加わって、30分以上も話してた。露骨な天皇制の政治利用だよ。

田中  日本の国花は桜で、皇室の紋は菊。でも梅はね、台湾の中華航空の垂直尾翼にも描かれているように中国の国花でしょ。王毅外相は中国の国花を愛でてくれる元号で感謝と言ったとか言わないとか。これも「戦争させない・9条壊すな!総がかり行動実行委員会」の賛同者に名前を連ねる中西進の心中を大胆に忖度すれば、その後に広島・長崎に原爆を落とす国に今から107年前、首都ワシントンのポトマック川沿いに2000本もの桜の苗木を寄贈した日本が、今度は中国の国花である梅を元号に用いて、貿易戦争中の米中二大経済大国の仲を取り持ちましょう、という決意表明かも知れないよ。いやあ、座布団何枚用意すればいいやら。

浅田  梅は中国から来た。あと、桃と。その花が完璧な形で静止してるさまが好んで詠われる。ところが、平安時代になると、梅を愛でた菅原道真を追い落とした藤原時平がつくらせた『古今集』では花と言えば桜、しかもハラハラと散っていくさまが美しい、と。その感覚が漢意に対する大和心ってことになる。そんな常識もない無知なナショナリストどもが『万葉集』を選んだ結果、日本文化が中国との交流の中で生まれたことが再確認されることになったんだから、皮肉だね。

イチロー引退会見の真意と、
NGT48釈明会見の真相は?

浅田  新元号の発表に次いで、2024年からの紙幣の刷新も発表されたけれど、遅まきながらアラビア数字が大きくフィーチャーされることになった。それなら年号も西暦を標準にしなきゃ。あと、現役を引退するイチローが改めて国民栄誉賞を断ったのはさすがだね。

田中  1時間半もの引退会見の最後に「アメリカに来て、メジャーリーグに来て、アメリカでは僕は外国人ですから、外国人になったことで人の心をったり、人の痛みを想像したり、今までなかった自分が現れたんですよね。この体験というのは、本を読んだり、情報を取ることができたとしても、体験しないと自分の中からは生まれない。孤独を感じて苦しんだこと、多々ありましたけど、その体験は未来の自分にとって大きな支えになるんだろうと今は思います。辛いこと、しんどいことから逃げたいというのは当然のことなんですけど、エネルギーのある元気な時にそれに立ち向かっていくことはすごく人として、重要なことではないかと感じています」と語った彼は修験者のようで感銘を受けたし、今の日本の政治や社会の空気への警鐘にも聞こえた。例えば、新羅や高句麗は唐にくっついたからでもないが、百済は白村江の戦いで日本と一緒に唐と戦ったから朝鮮人じゃないし、百済の血が天皇家に入っていることを我々は怒らないと牽強付会な説をぶちまけるような「虎ノ門ニュース」系のエセウヨに対する批判としてもね。
 石頭な日本高等学校野球連盟って、プロ野球選手が高校生に野球を教えたらいけない規則を設けているんだ。それが自分の息子であっても。その硬直性に義憤を感じている彼は、地域社会で野球を教える第二の人生を考えているんだね。地元のエースだった高校球児も、その大半は卒業と同時に刺激のない人生の日々に直面し、束の間の過去の栄光に負けてドロップアウトしてしまう。地域社会でどう生きていくかを子どもの段階から指導したいというのが彼の意志なんだろうと僕は思う。その意味でも大した人間だよ。

浅田  野茂英雄やイチローの時代は、日本人が海外でも活躍するようになった最終段階じゃないかな。ところが今は海外留学する若者の数がぐんと減ってる。代わりに中国の若者がどんどんアメリカに留学してて、そりゃ負けるのも当然だよ。昭和の間は、サブカルチャーの世界でも国境を越えて活躍したいっていう野心があった。ところが、平成になって消費社会が全面化し、消費者をとことん甘やかすようになった結果、若者の野心がなくなった。ほとんど全国民が子どもになったんでNHKの「週刊こどもニュース」のお父さんだった池上彰がいちばんエライ解説者になるありさま。こうして格好をつけるってことがなくなる、それは偽善が露悪に変わることでもある。

田中  その日本では不祥事が起こる度に第三者委員会とやらを設けるけど、その委員を選んでいるのは誰だって話。膿を出し切るために設けるはずなのに、手続きというアリバイづくりにしかなっていない。NGT48の山口真帆さんがファンに暴行された事件を調査した第三者委員会のメンバーも秋元康・窪田康志・芝幸太郎の創設者3名の頭文字を社名にした運営管理会社AKSの顧問弁護士が名を連ねていたんだから出来レースでしょ。会見中に山口が「なんで嘘ばかりつくんでしょうか」とツイートしたのも当然の叫びだよ。

浅田  CDを購入したら握手できるとかって明らかに風俗営業の延長だからね。有名になるにはどんな犠牲もいとわない少女らを使い捨て、一瞬の輝きを消費するっていう、あざといビジネス・モデル。秋元が沈黙を続けるなか、AKSの取締役が記者会見で「秋元さんも憂慮されておられます」って(笑)。

田中  我々も知らない仲じゃない秋元閣下って、やんごとない存在だったんだ。被災地、戦地、さらには水俣の地への「祈りの旅」を30年間続けて生前退位した明仁天皇に呆れられるよ。

協力:東京慈恵会医科大学附属病院 www.hosp.jikei.ac.jp

photographs by Hiroshi Takaoka
text by Kentaro Matsui

本記事は雑誌ソトコト2019年6月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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田中康夫

たなか・やすお
1956年東京都生まれ。一橋大学法学部卒業。大学在学中に『なんとなく、クリスタル』で文藝賞受賞。長野県知事、参議院議員、衆議院議員を歴任。最新刊は『33年後のなんとなく、クリスタル』。http://tanakayasuo.me

浅田 彰

あさだ・あきら
1957年兵庫県生まれ。京都大学大学院経済学研究科博士課程中退。京都造形芸術大学教授。83年に出版されたデビュー作『構造と力─記号論を超えて』はベストセラーに。