テイクアウトマルシェ松本スタッフ
2020.05.27 UP

「テイクアウトマルシェ」がつなぐ、地域間の助け合いと連鎖――「テイクアウトマルシェ松本」の場合

LOCAL

「テイクアウトマルシェ」とは、飲食店がテイクアウト商品を持ち寄り出店し、来場者はドライブスルー形式で各店の飲食物を購入することができる取り組みである。新型コロナウイルス感染の広がりとともに全国的な外出自粛のムードが高まり始めていた4月13日、「テイクアウトマルシェ富山」として富山市で初開催され、その後、富山県内や金沢、福井など県外地域へ次々と広がり、現在では全国10ヶ所以上で開催されるまでとなっている。地域をまたいで広まっていくこの取り組みから、コロナ禍において今地域ができることを探る。

「三密」回避の運営方法で、安全に便利に楽しめる、新しい外食のかたち。

 「テイクアウトマルシェ」では、新型コロナウイルスの感染拡大ルートとしての「三密」(密閉・密集・密接)を回避するため、商業施設や公共施設の駐車場などを活用した屋外出店やドライブスルーでのテイクアウト形式を採用し、接客スタッフの検温や健康状態の確認など、衛生面にも細心の注意を払いながら開催されている。さらに来場者には、購入時間の短縮やその場での飲食はしない(駐車場内での車内飲食はOK)など、安全を保つための呼びかけも徹底。売上が激減している飲食店を少しでも手助けしようというのはもちろん、気軽に出歩くことができなくなってしまった今、来場者にとっても久々の外食気分を安全に楽しめる貴重な機会だ。

テイクアウトマルシェ松本
「テイクアウトマルシェ松本」エントランスの様子。

富山から全国へ。

 「テイクアウトマルシェ富山」がスタートしてから、富山県内の各地で続々と開催の動きは広まり、約2週間後には県内4ヶ所+金沢市の合計5ヶ所にまで拡大。その後、そうした富山の取り組みを見た他の地域でも、ゴールデンウィークの大型連休にあわせて開催を検討する地域が増え、次々に全国へと広がっていった。場所は違えど、「新型コロナウイルス」という見えない敵とそれによって生じる同様の課題にそれぞれが立ち向かっている今だからこそ、次々に「自分たちの地域でも!」と手が上がり、これだけのスピード感でもって広がっているのだろう。

 「テイクアウトマルシェ松本」も、そんな富山の取り組みを知り即座に手を挙げ開催に動いた地域のひとつ。「テイクアウトマルシェ富山」の存在を知ってから開催決定・告知までなんと約3日でたどり着き、そしてその告知から4日後、開催初日を迎えた。驚異的なスピードである。自身でも「奇跡的」と表現するような開催までの流れを、主催者の一人である古川陽介さん(りんご音楽祭 代表)の記録をもとに振り返ってみたい。

りんご音楽祭ロゴ
りんご音楽祭ロゴ。松本市の活性化や日本の音楽シーンの底上げなどを目的に、2009年からスタートした音楽フェス。

「りんご音楽祭」主催者が手掛ける、「テイクアウトマルシェ松本」の始まり。

 古川さんが「テイクアウトマルシェ富山」を知ったのは4月29日。もともと松本市で毎年9月に開催される「りんご音楽祭」の主催者である古川さんは、地域の飲食業やイベント業が新型コロナウイルスの影響で大打撃を受けている中で、これまで培ったノウハウや人脈を活かして何かできないかと頭を悩ませていた。この時、同じ松本市で古川さんが経営するパーティースペース「瓦レコード」も、オープン17年目にして初めて丸2ヶ月パーティーがないという、自身としても異例の事態。過去に経験したことのない危機感を、身を持って感じていた。感染拡大防止のための様々な制限がある中で、一体何ができるのか、どうするべきなのか。そんな時に耳にしたのが、「テイクアウトマルシェ富山」の取り組みだった。

 この時、自粛ムードの影響を受けて、松本市内でもテイクアウト形式での販売を始める飲食店は増えていた。しかし、「テイクアウトをやっている店が分からない」「車を止めておける場所がない」「店の中に入るのが不安」等、テイクアウトを利用するにもハードルの高い状況であることが浮き彫りになりつつあったタイミングで、これらの課題や不安を解消しながら開催できる「テイクアウトマルシェ」の存在を知り、急遽開催を決意。その頃「テイクアウトマルシェ富山」は、すでに初日から2週間以上ほぼ毎日開催され、新たな外食インフラとして定着しつつあった。松本での開催にあたって、その運営ノウハウやイベントロゴなどについて「テイクアウトマルシェ富山」実行委員会から快く協力、提供されたことも古川さんは語っているが、古川さん自身、今や松本を代表する音楽フェスティバルとなった「りんご音楽祭」を一から作り上げたという経験も大きかったのだろう。それからがとにかく早かった。

りんご音楽祭ステージ
りんご音楽祭2018の様子。毎年、松本市街地北西部の丘陵に位置するアルプス公園にて開催。(2020年の開催については現在検討中。)

地域の信頼と運営ノウハウによる、怒涛の開催発表。

 開催を決意してからすぐに企画書を作成し、関係各所へ共有すると、その日のうちに、今回の共同主催者であり松本市でエスニックカリー専門店「メーヤウ」を営む小山修さんと打ち合わせ、イベント用SNSやメールアドレスなどを整備。その翌日には松本市役所にも働きかけ、開催場所として松本市総合体育館の使用許可と開催後援としての協力を仰いだ。ここで松本市との連携がスムーズに取れたのも、2009年からスタートし今年12年目を迎える「りんご音楽祭」が、紆余曲折ありながらも地域に受け入れられ、着実に信頼を築いてきた証なのだろう。「りんご音楽祭」の後援に、松本市と松本市教育委員会の名が並ぶことからもそれがうかがえる。もちろんこの他にも、出店者募集や運営スタッフの確保、公式ウェブサイトの開設、メニューや案内看板制作などの至るところで、「りんご音楽祭」で培ってきた経験や人脈が最大限生かされているのが感じられる。必要な作業ひとつひとつを正確に洗い出し、スピーディーでありながら、階段を一段ずつ上るように順を追いながら着実に準備は進められた。だからこそ、この驚くほど短期間での準備であったにもかかわらず様々な物事がスムーズに整備され、来場者へのわかりやすい告知アナウンスや当日の必要人員の確保、そしてスムーズな運営オペレーションの構築等が開催後の早い段階でできたのだろうと想像できる。

テイクアウトマルシェ松本

飲食物の販売にとどまらない、松本独自の取り組みも。

 そうして開催を決意し動き出してからわずか6日後の5月5日、「テイクアウトマルシェ松本」は開催初日を迎えた。初日の出店数は15店舗と協賛企業1社が集結し、次々にやってくる来場者へテイクアウトのお弁当やサンドウィッチ、コーヒー等が販売された。初回となった5月5日・6日は、用意していた全商品が両日とも約1時間半で完売し、大盛況で終了。翌週の9日・10日以降も徐々に出店数を増やしながら、現在も開催を続けている。

テイクアウトマルシェ松本

 さらに、2週目となった9日の開催からは、会場内限定で聴くことができるFMラジオで商品の売り切れ情報をアナウンスするとともに、「瓦レコード」で定期開催されている各パーティーのDJ陣によるDJプレイを聴くことができる「ドライブスルーDISCO」が実施されているのも面白い。コロナの影響により「瓦レコード」が休業になったことで彼ら自身もDJができる場所を失っているのと合わせて、リスナーからしても彼らのDJを楽しめる場所が一時的になくなってしまった。この「ドライブスルーDISCO」という取り組みは、車内というパーソナルな空間によってソーシャルディスタンスを確保しながらも、その場でプレイされているDJを楽しめるという、新しいかたちのパーティーとも言える。一般のお客さんに対して、商品を購入するまでの待ち時間を楽しんでもらいたいというのはもちろん、松本のカルチャーシーンが止まらないためのこうした工夫は、この地の音楽カルチャーを牽引する古川さんならではのアイデアだった。こうした実験的な取り組みが生まれるのも、「テイクアウトマルシェ」という場を作ったからこそできることである。このような松本独自の取り組みとともに、「テイクアウトマルシェ松本」は進化し、地域に定着していった。

9日から実施された、「ドライブスルーDISCO」ビジュアルイメージ。
9日から実施された、「ドライブスルーDISCO」ビジュアルイメージ。

コロナ禍で生まれる、地域間の助け合いと連鎖。

 こうした「テイクアウトマルシェ」の松本への広がりは、今や全国10ヶ所以上で開催されている中の一例である。富山市内で始まったこの取り組みが次々に全国へと広まっていった背景には、各地域ごとに様々なストーリーがあったのだと思う。地震や台風などの自然災害とは異なり、同じ課題を日本全体で分かち合う今だからこそ、ひとつの地域で生まれた成功事例とそのノウハウを共有し繋がってゆく。
 
 今回取り上げた「テイクアウトマルシェ松本」の古川さんも、「太っ腹で寛大な『テイクアウトマルシェ富山』さんを見習い、お問い合わせも可能な限り対応させていただきたいと思います」と話しているように、「お互い様」の精神で助け合い、新たな挑戦と事例を作っていくことが、今の日本全体が抱える危機的状況を乗り越えるきっかけのひとつになるはずだ。こうしている今も、「この厳しい状況の中で何ができるのか?」と悩む人は多いだろう。さらにこの先もまた、コロナウイルスによる新たな課題に直面する可能性もある。今回の「テイクアウトマルシェ」に見るように、地域と地域が手を取り合い繋がっていく経験自体、コロナ後の世界を生き抜くヒントになるのではないだろうか。今こそ各地域の取り組みにアンテナを張り、自らの生活圏に置き換えて考え行動することが、地域の未来を救うのかもしれない。

<テイクアウトマルシェ松本>

日時
5月末まで毎週土・日・月曜日に午前10時半から13時まで(10時開門)

会場
長野県松本市総合体育館 第2駐車場(護国神社側)
〒390-0801 長野県松本市美須々5-1

主催
テイクアウトマルシェ松本 実行委員会

企画・運営
りんご音楽祭/エスニックカリー「メーヤウ」/ゲストハウス「tabi-shiro」/アインディア株式会社/TASTY VILLAGE -SALT inn-/コノジ/信蹴ファクトリー/瓦RECORD

協賛
グリットカレッジクラブ松本校
ベティキッズ楽天市場店
株式会社Aoi
CSK総合防災株式会社
整体屋ほっと・はんど
株式会社 田多井薬局
未来設計Lab.炉-irori-
POMN

後援
松本市

お問い合わせ先
takeout.marche.matsumoto@gmail.com
090-9345-3240(りんご音楽祭 古川)

公式サイト
https://marche-matsumoto.life/

Miho Aizaki