「余白」を大切にする、旅するプランナーから学ぶ人生観【大塚智子・中屋祐輔対談】
2020.05.09 UP

連載 | 体験にはいったい何があるというんですか? | 7 「余白」を大切にする、旅するプランナーから学ぶ人生観【大塚智子・中屋祐輔対談】

PEOPLE

物や情報が簡単に手に入りやすくなった今、便利になっているはずなのに心が満たされず、どこか物足りなさを感じている人が多いように感じます。モノ消費からコト消費へと変わって行く中で、どんな体験をするかによって人生の豊かさや経験値が大きく変わっていくのではないでしょうか。

これまで旅をしてきた国は58カ国ほどを数え、福岡県や大分県などさまざまな場所に拠点を持ちながら、キャリアコンサルタントや心理士など幅広く活動をしている、旅するプランナーの大塚智子さんにお話を伺いしました。

一つのプロジェクトから生まれた出会い

「BLUE SEED BAG」プロジェクト活動時の写真
「BLUE SEED BAG」プロジェクト活動時の写真

中屋 初めて大塚さんと出会ったのは、今から4年前の2016年。熊本震災の象徴となっているブルーシートをリサイクルしたバッグ「BLUE SEED BAG」のプロジェクトを企画しようとなったときでしたね。

大塚 大変だったけど、すごく濃い時間でしたよね。中屋さんと出会ってまだ4年とは思えません。

中屋 BRIDGE KUMAMOTOの代表である佐藤かつあきさん、稲田さんが構想した「BLUE SEED BAG」を「これは絶対良いものだから形にしようよ」ということで、大塚さん含めみんなと繋がって製作販売を行いましたね。また、熊本地震への関心の風化を防ごうと、お披露目イベントなども実行しました。

あの時に出会った人は、みんな自分の会社を立ち上げたり、個人で新しいプロジェクトを始めたりと活動の幅を広げていますね。

大塚 そうですね。私も変わりましたが、みんな大きく変化しましたよね。
 

オンリーワンの生き方を応援する「Ichi no Hito」

新たな出会いや取り組みを生み出すイベント「Ichi no Hito」での様子
新たな出会いや取り組みを生み出すイベント「Ichi no Hito」での様子

中屋 大塚さんとは、2017年から毎年1月11日に開催しているイベント「Ichi no Hito」を4年間続けてきたことが、とても思い出深いですね。
   
大塚 自分自身も以前そうだったのですが、他の誰かの声が大きく聴こえてしまって、SNSに依存して疲れがでたり、自信が挫かれてあと一歩が踏み出せないという相談を受けたりして、そんな状況をどうにかしたいと思っていた頃でした。

一人ひとりの生き方はユニークで、決して代わりのないものであるはずなのに......。だから、批判し合う世界ではなく、お互いの人生観に触れることで尊重し合える場所を作り、みんなが元気になれたら良いなと思って「Ichi no Hito」を始めました。

場所や関わる人は変わったものの、当時の想いは今でも変わっていなくて、各地で小さな火に空気を送り込んで、灯った火を絶やさないようにしたいと思って生きています。

中屋 「Ichi no Hito」のテーマの一つに、インターネットが当たり前のものになり、人と人の繋がりの恩恵を受ける反面、「生きづらさ」を抱えている人がいるという背景があったと思います。

他にないユニークな生き方や働き方をしている人は、最近だと「ニュータイプ」という言葉で形容されることもありますが、当時はどう呼べばいいか分からなかったですよね。でも、そういった方は皆、自ら道なき道を進みながら周りの人に経験を伝えてくれたり、気づきを与えてくれたりするような気がします。 

大塚 そうですね。以前読んだ松下幸之助さんの「道をひらく」という本の中に、
「世の中には絶対というものはない。けれど、この道は良さそうで、心もとないけれど、勇気を奮って自ら励まし歩み続けると、自分の道を見付けられる」ということが書いてあって、すごく心に響きました。みんな自信なんてないけど、進んでいるんですよね。

中屋 成功するかどうかは分からないけれど、成功する確率を上げるために必死で頑張って自分の道を切り開いている。そうした人たちを一言で表すと......「Ichi no Hito」という言葉になりましたね。

大塚 「Ichi no Hito」と言っても1人だと何もできなくて、「Ichi no Hito」が集まることで、ここなら安心して話せそう、という居場所ができたら良いですよね。
 

一緒に仕事をすることで生まれる化学反応を楽しむ

大塚さんが仕事で関わった、別府市の創業支援コミュニティ「くまはち温泉」活動時の様子
大塚さんが仕事で関わった、別府市の創業支援コミュニティ「くまはち温泉」活動時の様子

中屋 次に人の縁や繋がりについてお伺いしたいと思います。大塚さんの場合は仕事上で数えきれないくらいの人に出会ってきたと思うのですが、また会いたいなと思ったり、一緒に仕事をしたいなと思ったりする人はどんな人ですか?

大塚 安心して自分のことをさらけ出すことができて、その上でお互いに心地良さを感じられた人ですね。そんな人とは、また会いたいなと思います。

中屋 その考え方にとても共感できます。僕も逆境にある環境で共に過ごした仲間とは、言葉にできない同志のような感覚がいまだにあります。

大塚さんは震災復興プロジェクトにも多く参加されていますが、平時では考えられないような大変な経験を、同じ場所や環境で共有したからこそ、繋がり続ける縁もあるのかもしれないですね。

大塚 大変なときに出会った人や、大変だったときに繋がり直した人は、人生の中で忘れられない人になりますね。そういう人たちとは、何かプロジェクトをご一緒したくなります。「もし、この人と一緒の時間をもう一度過ごせたら、どんな化学反応が生まれるんだろう」とワクワクして。

地球は元々、自然と動物と多民族の混ざり合い。だから、話していて心地が良い人は近い民族の気がして、自然とこの人と喋りたいと思うんです。

そんな人とは背伸びせずにいられるし、私がこの人たちにできることは何だろうと思って話をしていく中で、一緒に何かやってみよう、となります。

中屋 その考え方、面白いですね。実際に復興プロジェクトが一定の役目を終えたとしても、またその人たちと気づいたら一緒に何か始めていることはありますよね。
 

大変な思いをしている人や、悲しんでいる人と誠実に向き合いたい

「BLUE SEED BAG」を手掛けた「BRIDGE KUMAMOTO」のキックオフイベントにて
「BLUE SEED BAG」を手掛けた「BRIDGE KUMAMOTO」のキックオフイベントにて

中屋 大塚さんの場合、さまざまな拠点があって旅をしながら仕事をすることがあると思いますが、仕事に発展するケースはどんなときですか?僕も、「どうやって地域の人と仕事をすることになるんですか?」ってよく聞かれるんですけど。

大塚 モヤモヤを感じたときですね。たとえばその土地に行って感じたモヤモヤ、慣習や住民の方の声だったりするのですが、「それをなんとか解消できないかな、より良くできないかな」と思ってその場所に通ったり、幾晩も泊まって土地を歩いて巡ったり、とことんお話を聞いています。そうして明確になった「なんとかしたい」という想いを、「こうしてみませんか?」と具体的な企画に落とし込んで提案することが多いです。

言葉だけの人になりたくないので。何度か提案していると、「それ、良いね!一緒にやろう」と言っていただけることが多いです。
   
中屋 まさにペイ・フォワードの鏡ですね(笑)。まずは、自分から企画の労力を惜しまずに率先することから始める。そして、ある程度関係性ができた上で、「大塚さんにお願いしよう」となるんでしょうね。

大塚 本当にありがたいことです。これまでさまざまな人に助けてもらったおかげで今の私がいるので、自分にできることがあれば何でもしたい。誠実さや素直さを忘れずに生きていきたいと思っています。

私は今まで自分が学んできたことや、人から「こういう風にやってみても良いんじゃない?」と言われたことを上手く活かしきれてなかったので、これからは自分の経験や感性を活かせることがあればどんどん提供していきたいです。
   
中屋 僕の場合は直感に動かされて仕事に結びつくことが多いんですが、振り返ってみると、相手がどんな立場であっても関係なく、誠実に話をすることを心掛けていました。これまでのプロジェクトを積み重ねてきたから今があるなと思うんです。
   
誠意を持って提案書を作り思いを伝えることで、言葉では伝わりづらい、自分が悩みながらも前に進んできたことや、見える形として紹介できる過去の取り組みも含めた現在進行形の今を、伝え続けていきたいと思います。
   
大塚 仕事をお受けすることは、人の生き様とのぶつかり合いだなと思っていて。たとえば創業支援にしても、相手が人生を賭けてやっている事業をお手伝いするのだから、私も人生を賭けなきゃと四六時中考えています。

中屋 大塚さんと一緒に仕事をしたときも熱い想いが伝わってきました。仕事に対するモチベーションもお伺いしたいです。

大塚 希望が見えなくなっている人が、元気を取り戻す手助けができたらと思っています。私もそういう立場だったので、その人が少しでも風に気持ち良く吹かれる瞬間を作りたいなと思って仕事をしています。

悩んでいる人や心細い人を少しでも支えることでその人が元気になれば、新しい変化が生まれる。家庭環境が良くなるだけでも日常に幸せを感じることができるし、誰かの笑顔に繋がると思うんです。そんな環境に変えていくことが私の使命の一つなのかなと感じています。遠くの誰かに希望や願いを届けることも大切ですが、まずは目の前にいる人を大切にすることが大事なんだなと改めて気付きました。
 

人生の余白を作って心と身体のスペースを空ける

大塚さんがポルトガルでボランティアをしていた際、お世話になった女性と一緒に映った写真
大塚さんがポルトガルでボランティアをしていた際、お世話になった女性と一緒に映った写真

中屋 僕らは体験を開発するということで会社を立ち上げましたが、なぜ体験かと言うと、今まで自分たちが作った体験に自分自身が感化されているからです。自分たちで作り出しておきながら、自分たちが一番影響を受けていることってありますよね。

大塚 そうですね。体験を作っているときは思い通りに物事が進まず大変なことも多いですが、振り返るとやって良かったなと思うことばかりが浮かんできます。何事も、打席に立ち続けてそこでフルスイングをする、一生懸命やることが大事なんですよね。一生懸命やらないと何も見えないなと、改めて思います。

中屋 どんな大変なプロジェクトの立上げも、多くの人が関わるイベントも、例外なくちゃんと終わりが来るし、今辛いってことは高い山に登ってきたということでもありますよね。

大塚 私の場合は、10%くらいは予定を空けるようにしています。今みたいにさまざまな場所になんらかの拠点を持つ暮らし方をしていると、物理的に身体を移動させるため、新しい空気が身体を通り抜け、余白ができて心と身体のスペースが空いてくるように思います。

そうなると、次はどこで誰に出会おう、そこにどんな人がいて何が自分を待ち受けているんだろうとワクワクするんです。会わなくても生活できる今だからこそ、会うことの意味が問われていると思います。
  
中屋 僕も会社経営をしているので、やりがいや生き甲斐が大きい分、それと同じくらい悩み事がたくさんあるんですけど、それに囚われて自分自身の余白がなくなってしまうことは、判断力や感情面でも良くないなとしばしば感じることがあります。

現在地から物理的にも離れて頭を一回リセットする機会も必要だし、新しい場所に訪れることによって悩みを別の視点から捉えることができますよね。

大塚 ずっと仕事のことを考えているだけでは、自分や誰かが決めた正義や常識に囚われ、頭に余白がなくなってしまうので、それらを取っ払ってシンプルに大切なものに気づくために旅をするんだと思います。

私はバックパックのひとり旅がほとんどなのですが、いろんな国を旅していると困り事も出てくるので、旅先の人に相談することもあります。困ったら聞く。助けを乞う。一緒に月をみたり、泳いだり、火を囲んで世界の平和について話し合ったりする。自分の中で決め込んでた常識が一気に覆されて、肩書きとか何も関係なく出会った人と友達になれる。さらけ出すと、自分も相手も愛せるようになります。
  
何を大切にしてどんな未来を作りたいか。自分が考えて動いた場所で出会う人と、たぶんこれからも仕事をするんだろうし、一緒に旅に出たり生活をしたりするんだと思います。
 

これからの時代の生き方

対談時の様子
対談時の様子

中屋 いろんな地域と関わって、自分が帰りたいと思う場所が日本全国にできたら豊かだなと思います。多くの人がこれからは個人の関係地域を増やすことで、災害など非常事態の際にも想いを馳せることができますし、直接コミュニケーションが取れることは相手への想像力を養うことにもなりますよね。

こちらが定期的に通って、その度に地域の人が「おかえり。また帰ってきてくれたんだね」と迎えてくれる。それって理想ですよね。

大塚 人類皆友達になれたら良いですよね。

中屋 そう思います。2020年も不安定な状況が続いたり、さまざまな変化が訪れたりする年になりそうですね。

大塚 自分が何かを感じて動き出そうと思ったなら、その直感を打ち消さないで欲しいし、私もそうしたいと思っています。

そうすることで自分の気持ちを大事にできるし、自分自身を癒すことに繋がります。自分が感じていることを共有できるのが今まで出会ってきた仲間だと思うし、そんな人と出会ったり話したりすることが大切ですよね。

中屋 急速に変化する時代の中で、自分自身が不安定になることもありますが、それがある意味正しいというか。

大塚 時代も環境も変わっていく中で、自分が1年後にこの場所に住んでいて、この仕事をしているかは定かではないと思います。だから、自分の軸をあえてぶらしておくというか、余白のある状態にしておくのも良いですよね。

今まで紆余曲折をしてきましたが、男性が得意といわれている組織作りの中に、女性である私がスッと入っていく場面が多くて、「大塚さんは、風のように周りの空気をガラッと変えることができるね」と言われたことがありました。

男性とか女性という概念に囚われずに、「今までにない新しい風を吹かせて、その場所の空気を変えていくような生き方をしていけば良いんじゃない?」と言われてすごく嬉しかったので、そういった生き方をしていきたいなと思います。
 

体験には何があった?

ドイツのベルリンで出会った仲間たちと川辺で過ごす写真
ドイツのベルリンで出会った仲間たちと川辺で過ごす写真

旅するプランナーとして、さまざまな環境で過ごし、たくさん旅をしている大塚さん。だからこそ、柔軟な思考を持ち、既存の価値観に囚われない、新しいアイデアを生み出せるのだと思います。

そんな大塚さんがいつも大切にしているのは、目の前の人を大事にしたいという想い。真摯に目の前の人と向き合って、その人のために自分ができることは何かを考えているからこそ、絆や信頼関係が生まれ、それが次の仕事に繋がるのではないでしょうか。

太陽のように周りを明るく照らす一面を持ちつつも、時には包み込むような優しさで周りをサポートする。そんな大塚さんの姿に、共感する人や元気をもらう人が、全国各地にたくさんいて、その輪はこれからも広がっていくのだろうと感じました。
大塚さんのプロフィールサイト

文・木村紗奈江
※このインタビューは1月10日に行われたものです。

【体験を開発する会社】dot button company株式会社

キーワード

大塚智子

旅するプランナー
福岡県出身。大学で地域経済を学んだのち、ソフトバンクグループで人事・検証エンジニアとして7年間勤務。その後、社会課題解決を目指すスタートアップを支援するMistletoe株式会社で創業支援事業に4年半携わる。個人の活動として、地域コミュニティ・教育・キャリア形成に関するプロジェクトに多数参画。
現在は主に、大分県別府市をはじめとした自治体の創業支援、九州圏内の大学生への講義やワークショップ、またベンチャー企業の成長支援などを中心に活動している。
これまで旅をしてきた国は58カ国ほど。希望を持って生きられる人が増える世界を目指し日々邁進中。

中屋祐輔

体験を開発する人。
シナジーマーケティング株式会社にて「復興デパートメント」リブランディング、東北の若手漁師集団「FISHERMAN JAPAN」のファンクラブ担当、熊本地震の復興クリエイティブチーム「Bridge KUMAMOTO」理事。ほっとけないどう事務局。2017年4月よりdot button company株式会社を設立。

木村 紗奈江

dot button company株式会社・エディター、ディレクター。大学を卒業後、ピースボートで初海外・世界一周の旅に出る。帰国後は日本中を約2年半旅しながら働く生活を送る。映像クリエイター、ライター、カメラマン、料理人など、多彩な顔を持つ旅を愛する自由人。
自らの体験が人生を変えたように、今度は自分がワクワクする体験を開発したいと思い日々奮闘中。