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2020.06.12 UP

新潟・小千谷発、創業270年の老舗染織店が仕掛ける、着物を身近にする新ブランドの誕生

LOCAL

「着物を日常で着る」ということは、現代に生きる人たちにとって少しハードルが高いことかもしれない。結婚式などのフォーマルな場で着ることはあっても、日常の中で普段から着物を着ているという人は、少ないのではないだろうか。そんな特別なものになってしまった着物を、もっと気軽でおしゃれに日常を彩るものにするために、新潟・小千谷から生まれた新ブランドがある。それが、270年の歴史を誇る、紺仁 染織工房が生んだ『mono-kimono』だ。この革新的な新ブランドが誕生した背景とその魅力に迫る。

江戸時代から続く老舗染織店が仕掛けた、キモノ革命。

 1751年創業の紺仁 染織工房は、越後の国浅原の荘片貝(現在の小千谷市片貝町)で藍染から始まった染織店だ。半纏や法被、着物の反物(=和服に使われる布地のこと)などのデザインから生地の染め、織りまでを一貫して手掛ける。あくまで手仕事にこだわりながら、依頼主のオーダーに的確かつ熱心に応えようとする姿勢と、代々受け継がれてきた高い技術によって作られる製品は、地元のみならず全国にもファンは多い。今年5月に発売された、やまと × agnès b. のコラボレーション 「agnès b. Kimono」のコンビネゾンの生地にも紺仁(konni)の綿ちぢみが採用されるなど、日本を代表する伝統技術としても注目を集め続けている。

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『mono-kimono』で使われる着物用の反物。着崩れしにくく、柔らかな肌触りの良さが魅力。

 そんな歴史と伝統のある紺仁が、『mono-kimono』という攻めの新ブランドを立ち上げた背景には、近年続く着物の需要減少にあった。代々、紺仁では着物に使われる反物(=生地、布地)を生産しているが、人びとの着物離れとともに反物の需要も減っていた。従来的な呉服の販売方法では、問屋や小売店などのそれぞれの立場を保つため、紺仁のような反物の生産者が、問屋へ卸すのと同じ反物を使用して着物を作り、販売することはできないという暗黙のルールがある。したがって、問屋から注文が入らなければ、作った反物は決して着物になることはない。こうしたルールのなかでは、反物の生産過程で「これが着物になったら可愛いよね」といったアイデアが生まれたとしても、問屋や小売店の目に留まらなければ実現することは難しい。時代の流れとともに反物の需要が減っていく中、紺仁の十二代目となる松井佑介さんは、この状況をなんとか打開できる方法がないかと考えていた。そして浮かんだのが、現代の生活にフィットする「キモノ」の製作と、他で流通させずに自社だけで販売するという、『mono-kimono』のコンセプトだった。

誰でも気兼ねなく着られるキモノを作りたい。

紺仁_作業写真
原糸を染める前の工程として最初に行われる、綛あげ作業の様子。

 『mono-kimono』のキモノは、紺仁で作られる「片貝木綿」を中心にした木綿素材を使って仕立てられる。「片貝木綿」とは、大正時代から始まった民藝運動の中で生まれた、紺仁独自の織物。華美な装飾が施された工芸作品が主流であった時代に、思想家・柳宗悦らが、職人の手仕事から生み出される日常の生活道具の中に美しさを見出して始めた運動の中で誕生して以来今に至るまで、その織り方のほとんどを変えることなく作り続けられている。

紺仁_織機

 そんな「片貝木綿」の誕生を見てもわかる通り、紺仁で作られる製品は常に人びとの生活に密着し、それぞれの暮らしに溶け込みながら育てられてきた。だからこそ、この『mono-kimono』も、誰もが日常の中で気兼ねなく着られるキモノを目指して立ち上がったのだった。

ここでしか手に入らない、一度きりのデザイン。 

 『mono-kimono』のキモノは、紺仁でしか手に入らない。松井さんは、従来の呉服販売の方法を守りながら、問屋や小売店に迷惑をかけることなく、自分たちが作りたい着物を形にし消費者へ届けるため、自社販売のみで流通させることを決めた。販売の間口は狭くなってしまうが、『mono-kimono』の個性的なデザインと相まって、「ここでしか手に入らない」ということがより一層の特別感を生んでいるようにも感じられる。

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 さらに、『mono-kimono』というブランド名に入っている“mono”という語には、「着物」「染めもの」「織りもの」に含まれている「mono」と、「単一」を表す「mono」の意味を込めており、着る人それぞれの個性を出せるキモノでありたいという思いが込められている。そうした思いは、独自のデザインに表現されているのはもちろん、ひとつひとつの商品が数量限定で作られるという点にも表れている。用意していた数量が売り切れてしまえば、同じ商品は再生産されない。「今」「ここ」でしか買えないキモノは、いつもと変わらない日常を、自分だけの特別なものにしてくれる。

現代の日常に溶け込むキモノを。

 「キモノを着て街へ出て、カフェに行く。ライブハウスやクラブにだって行く、ラーメンを食べにも行く。そんなふうに、とにかく『どこに着て行っても良いんだ!』というイメージを作りたかったんです」

 松井さんがそう語るように、『mono-kimono』のキモノは、日本の伝統的な「着物」のイメージを超えて、着る人の個性を引き立てるようなワクワクするデザインでありながら、現代の生活のあらゆるシチュエーションを想定して作られている。

 「着る方のシチュエーションや趣味に合うキモノは、私たちが考えているより多様です。だからバラエティに富んだ品物をそろえて、“その人の日常”に合うものを選んでいただきたいと思っています」

mono-kimono_五輪 それでな

 豊かなデザインが揃うラインナップだからこそ、画面上に並ぶキモノたちを眺めながら、その中のお気に入りのキモノを着て街を歩く様子や食事に出かける様子を思い浮かべて、自然と想像は膨らんでいく。

 そしてそんなふうに『mono-kimono』が日常に溶け込むのは、デザインだけではない。自宅で簡単に洗える木綿素材が使われていることで、クリーニング等の特別なメンテナンスは必要なく、いつでも気兼ねなく着ることができるのも、日常に馴染む理由のひとつだ。日々の暮らしの中で無理なく大切にできるからこそ、一度や二度着ておしまい、ではなく、毎日でも着てほしいと考えている。生活道具に宿る「用の美」が見出された時代に誕生した「片貝木綿」らしい、日常で使ってこそ生まれる価値がある。

 着物は特別な日だけのものではない。そんなメッセージを持って生まれた個性豊かな『mono-kimono』のキモノたちは、ただ「おしゃれを楽しみたい」というシンプルな気持ちだけで着てほしいものばかりが揃う。

初めてのスタッフ全員参加型による商品開発

 たくさんの思いと技術が込められた『mono-kimono』のキモノは、紺仁の長い歴史の中で初めて、スタッフ全員が商品開発会議に参加し、全員で意見を交わしながら作り上げられたのだそう。そのような方法を選択したのは、「それまでほぼワンマン経営だった会社の体質を変えるためだった」と松井さんは振り返る。また、常に似通ったアイデアや同じような商品を作るのでは、職人たちもどんどん仕事に対する面白みがなくなってくる。そう考えた松井さんは、着物の世界に新たな風を吹かせようと立ち上がった新ブランドの商品開発においては、全員参加で取り組むことを決めたのだった。

 実際に行われた全員参加の商品開発会議は、職人たちの発想力も刺激される良い機会になった。これまで商品開発に関わってこなかったスタッフたちの新しい視点から生まれたアイデアを、実際に製造する現場の職人たちが商品の形へ落とし込む。こうした新たな風とともに生まれた良い循環のなかで、『mono-kimono』の商品は生み出されてきた。

ローカルなつながりが支えた、新ブランド立ち上げ

 こうして令和の時代に立ち上がった新たなキモノブランド『mono-kimono』だが、今年4月の発売開始に至るまでを支えたのは、松井さん自身がこれまで築いてきた「人とのつながり」だった。

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 「ブランドのイメージモデルは、音楽イベントなんかで知り合った古くからの友人や僕の家族ですし、ヘアメイクも友達の美容師に、撮影カメラマンも地元の友人にお願いしました。この写真の撮影場所も普段からお世話になっている友人のお店を借してもらったり、WEBサイトも地元の友人から紹介してもらった方に作ってもらったり。こうやって、今までお世話になってきた方々と共に『mono-kimono』を完成できてとても嬉しく思いますし、本当に感謝しています」

 このような松井さんを取り囲むローカルなつながりの中でブランドの外側が作られていったことも、「日常に溶け込むキモノ」を目指す『mono-kimono』にとっては重要な意味を持っている。すべてが松井さんの目の届くリアルな生活の場で作り上げられたことで、ブランド自体が持つメッセージをより鮮明にさせた。

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 そんなイメージビジュアルとともに、『mono-kimono』立ち上げと発売開始が発表されると、「おしゃれでかっこいい!」「自分も着てみたい」といった声が多く寄せられ、中には「鎌倉を盛り上げるために、レンタルキモノのお店でぜひ取り扱いたい」という鎌倉からの問い合わせもあったという。想定外のコロナ禍での新ブランドリリースになったこともあり、「販売が波に乗ってくるのは、まだまだこれから」と話す松井さんだが、新時代を感じさせるおしゃれなキモノブランドの誕生に、周囲からの期待も大きい。

ローカルな地で、ここにしかない価値を見極める。

紺仁_作業風景
代々受け継がれる、紺仁の染色技術。写真は、模様の彫り抜かれた1枚の型紙を使って生地に防染糊をつけていく作業。糊のついた場所は染色後に生地の白色が浮かびあがる。型のつなぎ目が分からないようにするためには熟練の技が必要だ。

 創業270年という長い歴史と伝統を持ちながら、時代に合わせて新しいことに挑戦していくというのはそう簡単なことではないはず。それでも松井さんは、さらなる新しい展開を目指して進む。

 「これからも、従来の呉服の流通や概念にとらわれずに邁進したいと思っています。同時に、これまで作ってきた製品(半纏や手ぬぐい、反物などの着物関連の製品)についても、今までのやり方に満足せず、立ち止まりたくないです。紺仁にしかない染織の技術を活かして、ブレない中に新しさと楽しさのあるものづくりを展開していきたいですね」

mono-kimono_相方

 『mono-kimono』は、人びとに染み付いた「着物は小難しい」というイメージを覆す、新潟・小千谷発の新しいキモノブランドである。今の時代において、自分たちが作る製品の本当の価値や魅力を見極め、新たな視点を交えながら常に最新の形へアップデートさせていこうとする紺仁の姿勢が、こうした革新的なキモノブランドの誕生に繋がったのだろう。昔ながらのものづくりを誠実に続けることは簡単ではないし、尊いものであることに間違いない。しかし、時には従来のやり方やイメージを壊す勇気こそが、変わらぬ伝統とここにしかない技術を守ることに繋がっていくのかもしれない。

<mono-kimonoと繋がる>

Miho Aizaki