熊本県の山間にある小さな村から始まった「#旅するおうち時間」
「#旅するおうち時間」を運営する(株)日添は熊本県球磨郡の小さな村にあります。
人口約1000人。山々に囲まれた自然豊かな場所、五木村です。
川遊び・登山・トレッキングなど、村の自然を活かしたアクティビティが人気で、ゴールデンウィークから夏休みのレジャーシーズンは多くの観光客で賑わいます。
(株)日添はこの村の地域づくりを行う会社。
移住促進・商品開発・カフェ経営など、村の魅力を引き出すさまざまな事業に取り組んでいます。
2019年4月には古民家をセルフリノベーションして「CAFEみなもと」をオープン。
五木村の新鮮な食材を使った手づくりのメニューやスイーツが好評で、遠方からも多くの人が訪れる人気店です。
しかし、今年は様子が違います。
全国的な新型コロナウイルス感染症の流行は五木村の観光、そして(株)日添が経営する「CAFEみなもと」にも暗い影を落としていました。
2020年4月16日。
緊急事態宣言が全国に拡大され、ゴールデンウィーク期間中の外出自粛が呼びかけられました。
ゴールデンウィークはレジャーシーズンの始まり。
本来であればカフェが大忙しになる時期ですが、今年はメイン顧客である観光客が見込めない状況…
(株)日添の代表、日野さんはこの危機的な状況をどう打開するか悩んでいました。
日頃から人通りのある街中であればテイクアウトに切り替えるという選択肢がありますが、五木村は山間の小さな村。
観光客が来なければ、テイクアウトであっても売上を維持することは難しいのです。
かといって、ネット販売に力を入れようにも会社の規模や知名度など、1社だけでやるには限界があります。
「そうだ。五木村だけではなく、全国各地の魅力をネット販売で自宅に届ける取り組みができないだろうか?」
そうひらめいた時、頭に浮かんだのは日頃からやり取りを行なっている全国各地の地域づくりの仲間たちでした。
実際に何名かに声をかけてみると、あっという間に共感が広がり、緊急事態宣言が全国に拡大されてからわずか10日後、「#旅するおうち時間」という形となって世間にリリースされることになったのです。
おうちに旅先がおじゃまする。「#旅するおうち時間」とは?
「#旅するおうち時間」とは、全国いろいろな地域の魅力を自宅に居ながら体験できるという企画商品です。
購入すると、決められた期間中に日替わりでいろいろな地域からの贈り物が届きます。
4月下旬の第1弾リリース後、有名メディアに取り上げられた影響もあり、たった10日間で400セットが完売。
その人気を受けて5月中旬には第2弾もリリースしました。
各地から届くものはさまざま。朝ごはんにもってこいのジャムもあれば、晩酌のおともにしたい魚も。
また、食べ物だけではなく地域で丁寧に作られた雑貨も入っています。
そして「#旅するおうち時間」最大の特徴でもある仕掛け…
届いたその日の夜にオンラインで送り元地域とつなぐライブ配信”おはなし会”です。
「旅先の居酒屋で地元の方と仲良くなるような感覚をお届けしたい。」
そんな発想から生まれたこの仕掛け。
オンラインビデオ通話を使って、商品の送り元地域の生産者と購入者全員を相互につなぐコミュニケーションの場です。
その日に届いた商品を手に取りながら質問したり、送り元の地域について地元の方々から教えてもらったり…
自宅からつなぐオンラインビデオ通話でありながら、本当にその地域を旅して地元の方々と出会っているような感覚になる仕掛けなのです。
予想もしていなかった意外な展開
実際に商品が発送され、購入者と送り元地域を繋ぐライブ配信を何度か繰り返す中で、意外なことが起こり始めました。
ライブ配信に参加している購入者の間で「また会いましたね!」「じゃあまたね」と声をかけあうように、まるで昔からの顔馴染みのような関係性が生まれたのです。
もちろん彼らは今回の商品を購入するまで一度も会ったことはありません。
旅先でたまたま宿が一緒になった人と仲良くなる。
思いもしないところで再開する。
旅をしているとそういうことって稀にありますよね。
「#旅するおうち時間」のライブ配信は、まさに旅の醍醐味をオンラインで再現してしまったのです。
「#旅するおうち時間」はどう進化していくのか?
追加リリースした第2弾も大好評で終わった「#旅するおうち時間」。
購入者と地域だけでなく、購入者同士の横のつながりも生み出したこの企画は、今後どのような展開を考えているのでしょうか?
(株)日添の日野さんは「今後は定額制のサービスや、購入者が実際に現地を訪れるツアーのような企画も視野に入れつつ、ライブ配信を軸とした関係人口の仕組みづくりにも取り組みたい」と語ります。
「#旅するおうち時間」を通して生まれたオンラインでの繋がりは、まさに関係人口そのもの。
購入者にとっても地域側にとっても、顔の見える関係性の人が増え、その地域に愛着を感じる人が増えるこの取り組みは、これからの関係人口づくりに大きなヒントを与えるかもしれません。
白水 梨恵