丁寧な暮らしは、調味料から。「育てる醤油」を始めてみた。
2020.06.19 UP

丁寧な暮らしは、調味料から。「育てる醤油」を始めてみた。

FOOD

 「丁寧な暮らし」と聞いて、あなたは何をイメージするだろうか?有機野菜?土鍋ご飯?お花を飾る? 人の数だけ「丁寧な暮らし」も多様なスタイルがあると思うが、今回は調味料について取り上げる。日本の食生活には欠かせない調味料の一つ、醤油だ。
 京都府綾部市にある株式会社今しぼりでは、誰でも簡単に昔ながらの醤油づくりに取り組める「育てる醤油」を販売されている。その場で搾って食べる“生きたままの醤油”を通じて、今しぼりが提案したい「暮らし方」について取材した。

醤油づくりを通じて「暮らし方」を提案する

 株式会社今しぼりは、京都府綾部市志賀郷(しがさと)地区にIターンしてきた9家族によって、2017年4月に立ち上げられた会社だ。販売する商品は主に3種類。「育てる醤油」は、誰でも簡単に昔ながらの醤油づくりが始められるキット。また「今しぼり醤油」は、2年熟成したもろみを瓶詰めしたもので、食べる直前に自分自身で搾り出し、新鮮な一番搾り醤油を楽しむことができる。そして「食べる醤油」は、醤油を搾った後のもろみを”食べる調味料”としてアレンジした商品だ。
 今しぼりで販売している醤油の原料はすべて、有機認証を取得している小麦や無農薬の有機肥料で栽培された大豆を使用。現代では添加物などを使うことで、安価で大量生産が可能な醤油が多く出回っているが、今しぼりでは昔ながらの醤油づくり(古式醸造法)にこだわり、現代社会で忘れられつつある人間本来の暮らしを提案・発信している。

醤油づくりの昔と今

 今しぼりの代表を務める多田さんによると、醤油づくりはここ数十年で変わってしまったと言う。

株式会社今しぼり 代表・多田晃さん
株式会社今しぼり 代表の多田晃(ただ あきら)さん

多田さん 「実は日本でも、100年ぐらい前までは全国各地で醤油づくりをやっていました。しかしその後、戦争で食糧難になったこともあり、醤油の原料である大豆や小麦が主食として重宝され、それらを2年も寝かしておくような醤油づくりのために大切な主食を使うのはもったいないということで、大豆や小麦が材料として回ってこなくなったようです。そこへさらに発酵促進剤やアミノ酸合成剤などの技術も発達し、短時間で大量に、しかも安く醤油ができるようになりました。

 その結果、もともとは高級品だった醤油の値段は下がり、全国の醤油屋が倒産し、昔ながらの醤油づくりをする醤油屋は激減してしまったんです。私が住む京都は、特にその影響を受けている地域。『和食は世界遺産』と言っているのに、本物の醤油の味や昔ながらの醤油づくりが無くなってしまうのはどうなのかなと思い、今しぼりではそこにこだわって販売しています。」

「育てる醤油」が生まれたきっかけ

育てる醤油
昔ながらの醤油づくりが誰でも簡単に始められる「育てる醤油」

 現代の食生活や食べ物の作り方に疑問を感じ、「食のあり方や生き方、そして世の中についてもう一度考えてみませんか?」という提案をしているのが、今しぼりという会社だと言う。
 その多田さん自身はもともと高校の教員で、その時の経験が今しぼりの立ち上げにつながる。

多田さん 「教員生活は楽しかったし充実していたけれど、自分の子どもが独立したこともあり、これ以上は収入をたくさん得るというより、自分が食べていけたらいいわという風に思ったんです。そうなると自分の食べ物を手作りする、田舎での自給自足生活ができればいいなと思い、早期退職をすることにしました。」

 多田さんは57歳で退職後、綾部市で農業をしながら暮らすうちに、同じようにIターンで綾部市にやってきた人たちと仲良くなっていったそう。

多田さん 「田舎で子育てがしたいとか、自然の中で生きたいとか、そういう思いを持って綾部市に来ている30代ぐらいの若い人たちが周りに7~8家族いて、その方達と仲良く楽しく過ごす中で、その人たちが抱える不安を耳にしたんです。食に関しては自給自足でなんとかなるけど、子どもが大きくなると学校に行かせるために現金が必要になる。だから現金を溜めておかなければいけないが、一方で私たちが住む辺りには現金を貯めるような仕事はない。だから、子どもの学費を貯金できる仕事を作るにあたり、力を貸してほしいと声をかけてもらい、今しぼりという会社ができました。」

今しぼり メンバー

 その会社の商品として選んだものが、自身の経験からずっとやってみたかった醤油づくりだった。

多田さん 「教員時代は文化祭が好きで、クラスのみんなと一生懸命文化祭に取り組むタイプの教師でした。でも高校3年生になると『文化祭どころではなく、受験勉強を優先するべき』という空気があったんです。だから高校2年生の文化祭後すぐに味噌を仕込んで、それが出来上がる高校3年時にその味噌を使って文化祭をやる、ということをやったんです。
 そしたらその取り組みがとてもウケて、他の先生からも保護者からも美味しいと評判で、PTAから『来年も多田先生のクラスは味噌をやってください』と言われるほどでした。その時にいろいろ調べる中で、いつか醤油もつくってみたいなと思っていましたが、インターネットで調べてもなかなか作り方は出てこなかったんです。」

 しかし綾部市に移住後、当時はできなかった醤油づくりに縁がつながる。

多田さん 「そしたら偶然、綾部市にIターンしてきた大先輩(20年ぐらい前に移住してきた方)が醤油作りをやっていた方で。その方にIターン後、醤油づくりを教えてもらったんですが、これが結構簡単にできるんですよね。だからその時に、本物の醤油が自分たちでこんなに簡単に作れるんだったら、都会の人もやってみたいと思う人はいっぱいいるだろうなと思い、醤油づくりを販売する会社にしようと決めました。」

「同じ味は二度と食べられない」

今しぼり醤油
今しぼりでは、オリジナルの卓上醤油しぼり器も販売している

多田さん 「私たちの醤油は、生きたままで販売しています。醤油づくりに使われる菌たちは、日本各地の水や気候風土に合わせて発酵し、味をつくっていきますが、そんな発酵や微生物たちのすごさはまだ解明されていない部分もあります。でも私は、出来上がるものの味が違うことが、本物の基準だと思うんです。だってたとえ同じ木になったリンゴでも、収穫する時期によって味は違うだろうし、枝や日当たりによっても味が違うはず。だから同じ味は二度と食べられない。そういうものだと思うんですよね。」

 今しぼりでも、立ち上げ当初から”生きたままの醤油”を販売したいと思う一方で、法人化する過程で迷う瞬間もあったと言う。

多田さん 「会社というのは、いつも同じ品質を提供しなければいけないという声もありました。最初は『そうなんか~』と思ったんですが、でもよくよく考えたらそんなことはないだろうと思って。農産物や自然のものを均一化することはできないだろうし、それができるのは、やっぱり自然のものではない、”作り物”の味だろうと思ったんです。だから『違うことに値打ちがある』と開き直り、うちの商品は発酵も止めず、生きたままのもろみを売っているんです。」

 その結果、今しぼりで販売する商品の特性や取り扱い方を理解しているお店やインターネットでのみ販売をする、今の形になったそう。

text by Naoko Yamakawa

株式会社 今しぼり
住所:〒623-0351 京都府綾部市篠田町小西五番
※ご紹介した商品は記載当時の情報のため、在庫状況・価格などが異なる場合があります。

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