“ろう者”の可能性に挑戦。音楽×手話。『ヘラルボニー』が提案する、新しいエンターテインメント。
2019.05.16 UP

“ろう者”の可能性に挑戦。音楽×手話。『ヘラルボニー』が提案する、新しいエンターテインメント。

DIVERSITY

4月2日は国連が定める「世界自閉症啓発デー」。
今回は、同日開催されたイベント「東京タワーブルーイベント2019」で新たなパフォーマンスに挑戦した『ヘラルボニー』の代表・松田崇弥さんをはじめパフォーマーたちのイベントでの様子をレポートします。

この日会場となった東京タワーの広場は、「癒し」や「希望」を表すシンボルカラーのブルーカラーであふれ、訪れた人たちの熱気に包まれていた。特設ステージでは、さまざまな団体による歌やダンスのパフォーマンスがあり、中でもダンスとラップで会場の人たちを巻き込み、熱いパフォーマンスとなったのが「STREET FUKUSH!」の時間だ。出演したのは”ダンスで福祉をデザインする“をテーマに福祉施設の訪問や福祉イベントの企画・出演活動を行うグループ「SOCIAL WORKEEERZ」、「戦極MC BATTLE」初代王者の実力派フリースタイルラッパーの晋平太、そしてろう者の女子高校生と大学生。

ダンスやラップといったストリートカルチャーと手話を融合させ、ろう者に向けたエンターテインメントの可能性を提案する先駆的なプロジェクトを手掛けたのは、以前本誌でも特集でご紹介した『株式会社ヘラルボニー』。「異彩を、放て。」をミッションに、福祉実験ユニットとして福祉をエンターテインメント化することで社会と障害者をつなぐ活動に取り組む、双子の兄弟が立ち上げた会社である。

「海外アーティストのエミネムさんのライブ動画で、手話ラップを披露しているのを見て、 ろう者が視覚的に楽しむことができる音楽の可能性に魅力を感じました。日本でもろう者がこれまでにない音楽の楽しみ方ができる、エンターテインメントの新しい形となるのでは――と思ったのがこのプロジェクトのきっかけです」と代表の松田崇弥さんは話す。

互いにタイピングで楽しそうに会話をしながらプロジェクトを振り返る、ヘラルボニー代表の松田さん(左)とアドバイザーを務めた堀口さん(右)。
互いにタイピングで楽しそうに会話をしながらプロジェクトを振り返る、ヘラルボニー代表の松田さん(左)とアドバイザーを務めた堀口さん(右)。

ろう者にとって、手話は言語。でも現実には、聴覚を有する者との会話において、表現や会話のスピードに戸惑い、意思疎通を図りにくいことがある。手話ラップのパフォーマンスでは、ろう者として感じてきた辛さや、生きづらさ、そして喜びが歌詞に落とし込まれている。晋平太さんから放たれる歌詞とろう者の女子高校生、大学生の二人の手話が融合し、彼女たちの想いが伝わってくるパフォーマンスで観客を魅了した。「ラップを手話で表現するために知ったのは、『行間を読んでもらう伝え方が難しい』ということだった」と話す晋平太さん。ラップは言葉では表現されていない心情や主張を受け手が読みとるような余白があるが、手話でそれをするとなると細かな点を可視化して伝えることが必要になる。そのため、歌詞には伝わるストレートな言葉を選択した。「手話で歌詞を表現するということは初めてで大変だったのですが、素敵な経験ができました。本番はあっという間に終わってしまいましたが、楽しかったです」。手話で伝える彼女たちの嬉しそうな表情に、ろう者のエンターテインメントの可能性がより広がったと感じさせられた。

今回のプロジェクトには、一般社団法人『異言語Lab.』で、ろう者としてイベントの司会者などで活躍する堀口昂誉さんもアドバイザーとして参画。堀口さんが活動をする目的やそこにかける想いを話してくれた。「私たちは音が聞こえない、聞こえづらい世界にいます。 会話には筆談やパソコンを活用しますが、『時間がないから後で』とされたり、『知らなくていいよ』と人との間に距離ができる辛い瞬間を多々経験してきました。 だからこそ、音を使うという壁を壊すためにどうしたらいいかを考えてきました。私たちの活動を通して、意思疎通ができた喜びをみんなに大切にしてもらいたいですし、ろう者がより自発的に活動できるような動きをつくっていきたいと思っています」。

イギリスで考案された手話法をルーツにしたコミュニケーション法・マカトンサインを駆使した圧巻のダンスパフォーマンスや、ろう者の女子高校生と大学生の二人が晋平太さんのラップを手話で翻訳した手話ラップで、一気に会場の盛り上がりをつくった。
イギリスで考案された手話法をルーツにしたコミュニケーション法・マカトンサインを駆使した圧巻のダンスパフォーマンスや、ろう者の女子高校生と大学生の二人が晋平太さんのラップを手話で翻訳した手話ラップで、一気に会場の盛り上がりをつくった。

音楽と手話の融合という新しい試みで、『ヘラルボニー』をはじめパフォーマーたちは、障害の有無にかかわらず、共に楽しむことが可能なエンターテインメントの可能性を体現した。一つ一つの取り組みを積み重ね、「社会と障害者との接点を生み続けて、将来的には障害者の研究などアカデミックな方向に育てていくことができる活動に挑戦し続けたい」と松田さんは考えている。

福祉の未来を描く『ヘラルボニー』は、一人ひとりの存在や可能性を信じて、これからも前に進んでいく。

photographs by Miwa Togashi
text by Asuka Kusano

本記事は雑誌ソトコト2019年6月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。