笹倉慎也さん
2020.06.26 UP

HOUSEHOLDで体験する”勝手口”から始まる旅

PEOPLE

”正面玄関”の観光ではなく、”勝手口”から始まる旅。
そんな一文から始まる宿の紹介文に、一気に心を惹きつけられた。
富山県氷見市。漁業が盛んなこのまちにある1日2組限定の宿HOUSEHOLD(ハウスホールド)。
「王道の観光では出会えない氷見の日常を、料理を通して楽しんでほしい」というコンセプトに引き寄せられて、同じ富山県内からも多くの宿泊客が訪れる。
”勝手口”という印象的な言葉の背景にはどのような想いが込められているのだろうか。オーナーの笹倉慎也さん・奈津美さんご夫婦にお話を伺った。

海沿いに建つ古ビルとの出会いから始まったHOUSEHOLD

HOUSEHOLD
4階建ての古いビルをリノベーションしたHOUSEHOLD。喫茶・ギャラリー・宿を併せた複合施設となっている。

2018年7月にオープンしたHOUSEHOLDは海岸からすぐの場所に建つ古ビルをリノベーションした宿。
1階は喫茶、2階はギャラリーとして営業しており、最上階が1日2組限定の宿となっている。
宿泊者が使えるキッチンも備え付けてあり、地元の食材を使って自分たちで調理もできることが大きな特徴だ。

HOUSEHOLDを経営するのは東京から氷見市に移住した笹倉慎也さん・奈津美さんご夫婦。
富山市出身、東京で広告ディレクターの仕事をしていたという慎也さんは「いつかは富山に帰ろうかな」と思っていたこともあり、氷見市への転職をきっかけに、当時お付き合いしていた奈津美さんと一緒にこのまちへ移住した。

漁業が盛んな氷見で暮らし始めて2年、地元の方々の温かさや海産物を始めとした食の豊かさ、朝日の美しさを感じながら暮らせる風景…そういったまちの魅力に心を掴まれた笹倉さんご夫婦は、徐々に「海の見える場所に住みたい」と思うようになる。
そして海沿いで物件を歩き回って探していた時に出会ったのが現在のHOUSEHOLDでもある古ビルだ。

笹倉さんご夫婦
オーナーの笹倉さんご夫婦。HOUSEHOLDのビル屋上にて。

元は呉服屋だったというビルは、目の前に一面の海が広がる絶好のロケーションなのだが、時代の移り変わりとともに使い手が不在となっていた。
オーナーを探し出し、賃貸を申し出たところ、このビルを引き継ぐことになった笹倉さんご夫婦。氷見で暮らしながら、自分たちが感じたこのまちの日常の風景・営み・魅力をたくさんの人に紹介したいという想いから、「宿をやろう」という結論に至った。

リノベーションの様子
ビルのリノベーションは笹倉さんご夫婦も一緒に手を動かし、一歩ずつ進んでいった。

そうして開業を目指したリノベーションがスタート。笹倉さんご夫婦も大工さん達と一緒に汗をかきながら一歩一歩進み、2018年7月に宿・喫茶・ギャラリーとしてHOUSEHOLDのオープンを迎えた。

”勝手口”から始まる旅だからこそ出会えるまちの素顔がある

オープン前の計画段階では、都市部や海外で暮らす20~30代の個人旅行客がメインターゲットになるだろうと予想していた。
しかし、実際にオープンしてみて驚いたことは、思ったよりも富山県内や石川県など近隣地域からの宿泊ゲストが多いということだ。

氷見市は富山市や金沢市周辺の住民から見ると「ギリギリ日帰りで遊びに行く」ような感覚の場所。近くでありながら山を隔てていて、少し文化が違うような印象がある。

「海やまちをこんなにゆっくり眺めたことはなかった」
「魚屋さんでこれがおいしいとおすすめされたから自分で料理してみたいと思って買ってきた」
「こんなにいい寿司屋さんやうどん屋さんがあったとは。またあの店主に会いに絶対に行く」

氷見がけっして見新しくないはずの近隣地域のゲストからもこのような声が寄せられる背景には、笹倉さんご夫婦の想いと信念がこもったコンセプト「”勝手口”から始まる旅」が関係している。

地元のお寿司屋さんにて
地元のお店でまちの日常と交わると、まるでここに昔から住んでいるような感覚になる。

これまでの一般的な観光といえば、有名スポットを巡り、夜は至れり尽くせりの旅館・ホテルで過ごすのが王道である。これが「”正面玄関”の観光」なら、「”勝手口”から始まる旅」はこれまでとは違う旅の過ごし方となり得るのではないかと笹倉さんご夫婦は考える。

勝手口とは家庭の中心である台所につながるところ。正面玄関は客人を迎える入り口であり、勝手口は近所の人が「なんか持ってきたよ」と入ってくるコミュニケーションの入り口なのだ。
「氷見を訪れた人にそんな感覚でまちの素顔と交わってほしい」
その想いの背景には、お二人がこのまちに移住してから体験した驚きと感動がある。

「私達がよく行くカウンターのお寿司屋さんがあるんですが、常連客はみんな勝手口から入ってくるんですよ。表のシャッターが降りていても、常連は後ろから入ってくる(笑)。それが面白くって。
宿泊されるゲストにも「お店閉まってても裏からだったら入れますよ」と裏口を案内したりもするんです(笑)。初めての方は緊張するだろうけど、そういうドキドキも含めて体験してもらいたいというか、面白いのはそっちだなって私達は思います」

勝手口から入るような気持ちで地元のお店に食べに行ってみると、自然とコミュニケーションが生まれる。気がつくと、まるで昔からこのまちに住んでいるような、親戚が増えたような感覚になる。
そんな氷見の日常を感じる家のような場所、それがHOUSEHOLDの提供する”勝手口”から始まる旅なのである。

これからは「やったことがありそうでない」体験を

地元で取れた新鮮な魚介類を自分たちで調理してみる
地元で取れた新鮮な魚介類を自分たちで調理してみる。まさに”やったことがありそうでなかった体験”

「富山の人でも、美味しい魚は手に入るけど自分で捌いたことがないという人は意外と多いんです。近隣から訪れるゲストは1泊2日の旅でも移動時間が少ないぶん時間に余裕があるので、”やったことがありそうでない”ことを体験として提案していけたらなと思っています」
近隣から訪れるゲストにも魚料理や釣り体験を楽しんでもらいたいという笹倉さんご夫婦。
HOUSEHOLDで”勝手口”から始まる旅を体験してみてはいかがだろうか。

HOUSEHOLD外観

HOUSEHOLD
〒935-0013 富山県氷見市南大町26-10 

HOUSEHOLDに行ってみる

文:白水梨恵
写真:HOUSEHOLD