ひと・まち・暮らしが生み出す、長崎の「音の風景」を辿る
2020.06.23 UP

ひと・まち・暮らしが生み出す、長崎の「音の風景」を辿る

LOCAL

そのまちでしか聴けない音、「サウンドスケープ」。耳で感じる音の風景は、そのまちのひとや暮らしが築いてきた文化、歴史、地形を教えてくれます。長崎のサウンドスケープを巡るお散歩に出かけましょう!

「音の風景」を感じてみませんか?

「サウンドスケープ」という言葉を知っていますか?
カナダの現代音楽作曲家、R.マリー.シェーファー[R.Murray Schafer]により、1960年代末に提唱された言葉です。
私たちが暮らす環境には音が付き物。日々、自然の音や人間の生活音に囲まれて生きています。
視覚として捉える風景はもちろん、聴覚が感じる音も、その風景には欠かすことのできない構成要素なのです。

木漏れ日

長崎には独特の地形と、文化や歴史が今なおまちの中に残っています。
その風景から聴こえてくる音に耳を澄ませると、なんだか新しいまちの一面を見れたような気持ちに。
過去の人々が残してきた長崎の音の風景を辿っていくと、あなたのまちにもきっとある「サウンドスケープ」を見つけるヒントになるはず。さあ、まちから聴こえる音を探しにいきましょう!

斜面地の港町に反響する汽笛の音

長崎の特徴と言えば、なんと言ってもその「斜面」です。
すり鉢状の形をした長崎港は、世界新三大夜景にも選ばれた圧巻の眺望が広がっています。密集した家屋が建ち並ぶ急斜面な山々が、年間多数の大型客船が寄港する港を囲っている独特な光景。
そんな斜面地の港町から聴こえてくるのはどんな音でしょうか?

長崎港の船

港付近で風の気持ち良さ、景色の美しさに見惚れていると、しばしば船の汽笛が鳴らす爆音に驚かされます…!
突然鳴り響くので、びっくりしてしまうのは毎度のこと。

でも、汽笛が鳴り止むまでじっと耳を澄ませてみてください。
長い長い汽笛の音が途切れたその後。
海からではなく、遠くの山から汽笛の音が聴こえてきます。
やまびこのように何度も反響を繰り返しながら、音がふわぁっと山を登って消えていくのが分かります。

大型客船が停泊する港であるためには、十分な海の深さがないといけません。
そのため、海と山の距離が近くなっているのです。
港を囲むようにできあがった斜面地という地形が、汽笛の音を増幅させる楽器の役目を担っているんですよ。

坂の町で聴こえる、雨の日に流れる水の音

『長崎は今日も雨だった』
1969年(昭和44年)2月1日に発売された、内山田洋さんとクール・ファイブのメジャーデビュー曲です。
こんな楽曲もあるくらい、長崎は雨が似合うノスタルジックな雰囲気があります。
そんな雨の日に聴こえてくるのはどんな音でしょうか?

雨の日の長崎

坂の町・長崎には、ランドマークとなっている坂道がたくさんあります。
中でも有名なのは「ドンドン坂」。
下まで一直線に伸びる石畳の坂道は、港の風景や周辺の洋館も見渡すことのできる人気スポットです。
この名称の由来は諸説ありますが、坂道の脇にある水路を流れる水が「ドンドン」と音を立てることから付けられたという説があります。

ドンドン坂

水路に注目してみると、何やら形状が途中で変化しているようです。
順に、凹字形→ U字形、V字形という風に、段々と幅が狭まっている箇所が。

ドンドン坂・凹字形
坂の上部は凹字形。幅が広い。
ドンドン坂・U字形
中腹部分ではU字形に変化。
ドンドン坂・V字形
その下部分ではV字形になり、かなり水が流れるスペースが狭くなる。

それは山の上から流れ落ちてくる水の量や勢いを調節するためだと言います。
自ずと水の流れる音まで変化し、「ジャバジャバ」という音もあれば「ドドドド!」と大きな音を立てて坂を下っていく、雨水のウォータースライダーを楽しむことができるのです!
雨の日には、滑らないように気をつけながら、ドンドン坂の水の音の違いを聴いてみてくださいね。

居留地の文化が重なり合う鐘の音

「長崎外国人居留地」は、長崎の中でも人気の観光エリア。
幕末の開国に伴い、貿易で訪れる外国商人などが居住できる地域として設けられたのがこのエリアです。
ここでは西洋の文化と日本の文化が混ざり合い、当時の人々は共にこの地域で暮らしていました。
そんな独特の文化が根付いた居留地エリアで聴こえてくるのはどんな音でしょうか?

オランダ坂

当時の居留地文化を象徴する建造物「大浦天主堂」。
プティジャン司教の指導をもとに1865年2月19日に献堂式が行われた、現存する日本最古の教会です。
2018年にユネスコの世界文化遺産に登録された「長崎と天草地方の潜伏キリシタン関連遺産」の構成資産のひとつでもあります。

大浦天主堂
白亜の美しい外観や、荘厳な教会の中を一目見ようと多くの人が訪れます。

また、完成当初はキリスト教禁教令が出されていた日本では、信徒にこの教会の存在をなんとか伝えねばなりませんでした。その秘密は、この近所にある建造物に紐づけられています。
ここから奥の小道を歩いていくと、「妙行寺」というお寺と「大浦諏訪神社」という神社が見えてきます。
なんと、教会・寺・神社が接する、通称「祈りの三角ゾーン」。

祈りの三角ゾーン
三つの宗教が隣接する、全国的にも珍しいスポット。

夕暮れ時、18時ごろになると、それぞれの建物から聴こえてくる鐘の音。
三つの祈りの場から聞こえてくる鐘の音は、重ならないように、お互いを消してしまわないようにと、交互に鳴り響いてきます。
いわば、各宗教の鐘の音が織りなすセッションが居留地のまちへと広がります。
信徒がこの教会を発見しやすいようにと、祈りの場として神社やお寺が集まるこの場所に敢えて教会が建てられました。
当時の人々は、どんな想いでこの鐘を鳴らし、どんな想いでこの音に耳を澄ませていたのでしょうか。

あなたのまちのサウンドスケープ

長崎のまちに溢れるサウンドスケープ、いかがでしたか?
まちの歴史や地形、文化が生み出す色とりどりな音風景に感情が動かされます。
このまちでしか聴けない音は、そのまちに暮らすひとが作り出すもの。
まちが違えば、住む人も変わり、聴こえる音も変わってきます。

港の風景

あなたのまちでしか聴くことのできない音の風景を探して、新たな魅力を発見するお散歩に出かけてみては。

Photo & text by Kyosuke Mori