東北生まれの布ぞうり「MERI」が彩る、毎日のおうち時間。今に生きる昔ながらの文化を履く。
2020.07.01 UP

東北生まれの布ぞうり「MERI」が彩る、毎日のおうち時間。今に生きる昔ながらの文化を履く。

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 ふっくらと柔らかい履き心地と同時に、しっかり足にフィットする布ぞうり「MERI」。「ぞうり」という言葉の純和風な響きとは対照的に、北欧テイストのおしゃれなデザインが目を引くルームシューズだ。販売開始から8年経つ今も、ひとつひとつ手編みで作られる「MERI」はどのように生まれたのか。立ち上げから関わり、今も「MERI」のデザインを手掛ける、オレンジトーキョー株式会社の草本美樹さんに話を訊いた。

昔ながらの知恵が現代に生きる布ぞうり「MERI」。

 家の中で履くスリッパやルームシューズ。今、みなさんはどんなものを履いているだろうか? もしくは、履いていないという人も多いのでは。そんな人も、外出自粛やテレワークによって家で過ごす時間が増えた今、お気に入りのルームシューズを履いた足元が、いつもと変わらないおうち時間の気分を上げてくれるかも。

MERI_布ぞうり

 東京・墨田区で2012年に誕生した「MERI」は、もともとメリヤスというニット素材の工場から生まれた布ぞうりのルームシューズ。その北欧テイストのデザインは、モダンな柄を取り入れたスタイリッシュなものから、カラフルで可愛らしいものまでバリエーション豊かなラインナップが揃う。

 様々なタイプがあるルームシューズの中でも、足の指が出る草履型のルームシューズは、暑い時期にも蒸れることなくサラッと履ける心地よさで、まさに夏にぴったり。鼻緒によって指の間が開いていく感覚も、普段使わない足の筋肉が伸びるようで気持ちいい。しかも、ネットに入れれば、洗濯機でまるごと洗えるのも嬉しいポイント。夏場だけでなく秋冬にも温かく履けるよう、足の指が分かれたオリジナルの靴下も販売されており、一年を通して気持ち良く履くことができる。

 「MERI」に使われる素材は、墨田区で70年以上続いてきたニット工場の技術を活かし、独自に開発された編み紐を使用。独特なふかふか感としっかりしたフィット感は、履けば履くほど足に馴染んでいく。この履き心地のよさとデザイン性の高さで、販売開始から注目を集め続けてきた。

 2014年には両国に直営店「MERIKOTI」をオープンさせ、実際に「MERI」の試着や購入はもちろん、「TUTUMU」を含む、オレンジトーキョーが手掛ける他の製品についても実際に見て購入することができる。店内には、約70年前から現在まで使われているメリヤス機の展示もあり、運が良ければ動いているところも見られるのだとか。こうした展示からも、町工場としての長い歴史が感じられる。

MERI_メリヤス機
直営店「MERIKOTI」に展示されている、今も現役のメリヤス機。この機械で、布ぞうりを編む紐が作られる。

 そんな現代の布ぞうりブランド「MERI」だが、その魅力は履き心地のよさや洗練されたデザインだけではない。ブランドの立ち上げや、今でも一足ずつ丁寧に手編みされる製品が持つストーリーにも、その魅力が詰まっている。

誕生のきっかけは、工場に突然かかってきた青森からの1本の電話。

 もともと、ニット生地の製造と業者への卸販売がメインの工場から生まれた「MERI」。その始まりは、工場に突然かかってきた1本の電話だった。

MERI_メリヤス機

 電話の主は、青森で布ぞうりを作っているというおばあちゃん。聞くと、「余っている布があれば、送ってほしい」ということだった。周辺の町工場の仲間にも声をかけ、不要な布をかき集めて無料で送ったところ、後日お礼にと青森から手作りの布ぞうりが届いた。早速手に取り履いてみると、そのふかふかで気持ち良い履き心地に感動。当時海外製品の流入が激しくなり、自社で製造したメリヤス生地を使ってオリジナル製品を作ろうと試行錯誤していた頃の出来事だった。

青森の廃校になった小学校で、布ぞうり作りを学ぶ。

MERI_布ぞうり

 それからすぐに、「うちのオリジナル商品の開発を手伝ってもらえませんか?」と電話で逆オファー。そうして「MERI」の社内プロジェクトが立ち上がり、商品開発がスタートしたのだった。

草本さん「お手伝いをお願いした時は、先方も喜んでくださいました。それから商品開発のために、私たちも青森まで編み方を習いに行ったりして、交流が始まったんです」

 草本さんをはじめとするプロジェクトメンバーは、布ぞうりの編み方を習うため、遠く離れた青森県まで向かう。現地で布ぞうりを作っていたのは、廃校になった小学校で物づくりを楽しむおばあちゃんたちのグループだった。

草本さん「廃校になった小学校に集まって作業をしていらっしゃったので、私もその中に混ざって編み方を教えていただきました。手順は頭に入っていたのですが、ふっくらとさせつつも、しっかり硬く編むという相反する感触を出すのが難しくて。どうやって力加減を調整しているのか、ずっと手元を見て真似していました」

 草本さんがそう振り返るように、おばあちゃんたちの手仕事に明確なマニュアルなどは、もちろんない。何年も編んできた手元の感覚によって、その絶妙な履き心地の編み目が作られていく。

草本さん「もう8年くらい前のことになりますが、今でも『草履を編むときはリズムだよ』という言葉を覚えています。自分自身も勉強しながら、並行して他の職人の育成もしていたので、 時には練習生全員で伺うこともありました。東京に帰ってきてからは、ほぼ独学練習です。見てきたことを日々の練習に活かして、また伺ったときに成果を見てもらって、というのを3年くらい繰り返して、やっと納得のいくクオリティで編めるようになりました」

 かつて各家庭においてもそうだったように、祖母や母の手仕事は、子どもたちの成長とともに、実生活の中で体験しながら自然と受け継がれてきたものだっただろう。そうした古き良き文化や知恵が、この「MERI」にも宿っている。

MERI_編み写真

 この基本的な編み方の習得と同時に、東京の工場では編み紐の独自開発も進められた。使用する機械や素材を変えながら、ニットの目の細かさなど微細な調整を繰り返し、できた試作品でひたすら布ぞうりを編む。青森で習った編み方をふまえつつ、自分の足を見ながら考え、さらに気持ち良い履き心地を目指して、草履の形にもアレンジを加えていった。

 こうして幾度の試作を重ね、約1年かけて出来上がったのが「MERI」だ。今も職人一人ひとりが手作業で編む布ぞうりだからこそ、未だに完成形はない。常に改良を加えながら、より良い履き心地を追求し続けている。

東京・墨田区で受け継がれてゆく、おばあちゃんの知恵

 発売されてしばらくは、自社での生産が安定するまで、青森のおばあちゃんたちにも「MERI」の生産を手伝ってもらっていた。現在は、直営店のある墨田区内で地元の職人を中心に手編みでの生産が続けられている。自社ですべてを生産できるようになった今も、定期的に青森を訪れるなど、交流は続いているのだそう。

MERI_親子布ぞうり
子ども用の小さな布ぞうりもあり、親子でお揃いのものを履けるのも嬉しい。

 こうして青森のおばあちゃんたちが作ってきた布ぞうりの知恵は、現在は墨田区内の主婦の方々を中心とした職人たちに受け継がれている。当然、初めて布ぞうりを作る人も多いため、その習得には苦労も多い。しかし、ここでも、歴の長い職人から始めたばかりの職人へ手渡しされていくように、職人同士で教え合いながら丁寧に技術を伝えているそう。

草本さん「地元の職人さん向けに月に何回か練習日を設けていて、そこに自宅で作ったものを持ってきていただき、添削しています。先輩の職人さんにも手伝っていただいて、まだ職人になって日が浅い方にも、きれいに編むコツを伝授するようにしています」

 技術を受け継ぎながら、ひとつひとつ丁寧に作られる布ぞうり。一人の職人につき、1日に編むことができるのは平均2〜3足ほど。一度に大量に作ることができないからこそ、一足一足に温かみが感じられるのだろう。

東北・青森の空気をまとった、北欧モチーフのデザイン。

 東北のひんやりとした気候は、北欧の気候や空気に似ている。そう感じとった草本さんは、「MERI」のデザインに北欧のモチーフを取り入れている。洗練されたデザインの中に宿る温かみは、凛と澄んだ空気の中で暮らす東北の人の温かさに通じているようにも感じられる。

MERI_写真2

 そして、「MERI」のラインナップに並ぶデザインは、それぞれ北欧に住む人びとをイメージして作られている。洗練されたおしゃれな女の子「Anne」、元気で明るい男の子「Hans」、可憐で愛らしい女の子「Ellen」など、5つのイメージキャラクターに沿ってデザインされているというその世界観も楽しい。

 デザインは今でも草本さん自らが担当し、年2回の新作の製作には、毎回自分なりのテーマを決めて取り掛かるのだそう。遊び心がありつつも、日常に溶け込むシンプルなデザインは、家の中で毎日目にしていても飽きないものが揃う。

自分だけのお気に入りの一足で、昔ながらの文化を繋ぐ。

 こうして職人の手によって一足ずつ丁寧に作られる「MERI」の布ぞうりだが、現在では自分で作ることができるワークショップも人気を集めている。3時間みっちり集中して布ぞうりを編むプログラムは、作り終わったあとの疲労感も残るが、出来上がったときの達成感は格別。しかも、同じ作り方でもそれぞれ履き心地が異なるのは、手編みならでは。そんな自分だけの布ぞうりは、家で履いたときの特別感もより一層高まるはずだ。

MERI_JonoJono
「MERI」で使われる編み紐と同じ素材の手芸用紐「JonoJono」。自分で布ぞうりを作ったり、他の編み物にも使える。

「MERI」から広がる、新しい物づくりの輪

 初めは「自社のオリジナル商品を作ろう」というところからスタートし、完成した「MERI」。現在では、指が分かれた靴下や手袋などの「TUTUMU」をはじめ、洋服のボタンを彩る「button hook」、「MERI」と同じ素材の手芸用紐「JonoJono」など、様々なオリジナル商品が生まれている。もともとの生業であるニット工場での技術を活かし、“糸”を軸にしたプロダクトを生み出し続けている。

MERI_buttonhook
刺繍の技術で作られる「button hook」。遊び心あるデザインが可愛い。

 2012年の誕生から8年。すでにファンも多い「MERI」だが、今後は国内に留まらず、さらにその魅力を世界中へ発信していきたいと、草本さんは話してくれた。こうした昔ながらの知恵が今に受け継がれるように、「MERI」はもちろん、そこから始まった新たな物づくりの輪をさらに広げながら、長く深く愛されていくのだろう。

 よく「おしゃれは足元から」とも言われる。気軽に外出できない今だからこそ、家の中でおしゃれを楽しんでみるのもいい。東北で生まれた「MERI」に宿る昔ながらの文化と、そこに込められた作り手の思いは、家にこもりがちな毎日を鮮やかに彩ってくれるに違いない。

MERIKOTI

直営店「MERIKOTI」
住所 〒130-0014 東京都墨田区亀沢1-12-10 1F
TEL 070-6986-0708
営業時間 10:00~18:00
定休日 月曜(祝日の場合は営業)

「MERI」のInstagram

Miho Aizaki