右ストレートに集中したい。苦手だけど。ー ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ VOL.4
2019.05.27 UP

右ストレートに集中したい。苦手だけど。ー ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ VOL.4

DIVERSITY

企業で講演する機会をいただくと「ゲイの方は、職場でどんなつらい思いをするんですか?」と聞かれることが多い。僕は「なにかと大変なことが多いLGBTの人」として呼んでいただいているわけであるから、この質問はとても自然なものであるし、もし自分がノンケだったら聞きたくなるものだとも思う。ただ実は、個人的にこの質問は苦手で、いつもうまく答えられない。

それは「ゲイは別に職場でつらいと感じていませんよ」なんて言いたいからではない。つい最近の調査でも、LGB(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル)が職場にいるのは「嫌だ」と答えた人は35%いたそうだ。つまりLGBは、ただ職場にいるだけで3人に1人の人に嫌がられる存在として社会人生活を送るわけである。それだけでもつらくないとは言えないように思う。

ただ僕は、自分の周りに力強く働くLGBがたくさんいること(Tも当然いる)、そして何より自分自身の経験から、どうもこの質問に対して「ゲイはこんな風につらいんです!」と大手を振って話すことが苦手なのである。いつも、なんとか友人や自分が経験したつらかったことを絞り出して話すが、最終的に我慢できず「僕の場合は、仕事が“デキない”ことのほうがつらかったですね」と言ってしまう(ちなみにT=トランスジェンダーの人は職場において、もっと大変だと僕は思うが、それについてはまたの機会に)。

僕は新卒で入社した会社には2年しかいなかったが、その間、もうからっきし仕事がデキなかった(笑)。自分としては懸命に考えた提案も、上司に一蹴されるような、紋切り型の“新入社員”。周りにはもはやスーパーマンなのではと疑うほど優秀な先輩もたくさんいて、自分の無能さが浮き彫りの環境だった。そんな、仕事に打ちのめされる日々では、たしかに、ゲイだから生まれるコミュニケーションストレスはボディブローのようで、ズタボロ満身創痍の僕の脇腹に鈍痛をまねいた(ボクシングやったことないから知らんけど)。

仕事で僕に厳しくあたる先輩が、飲みの席でこそ! と、僕との距離を近づけようとしてくれても、当時、ほとんどゲイだと公表していなかった僕には、定石の恋愛ネタも、必殺の下ネタもなかった。同期が恋バナを切り売りして人気者になる一方、僕には「楽しそうに話を聞く」という小技しかなく、「太田って真面目だね」で終わってしまう。とにかく先輩のグラスを空にしないことと、笑顔でいることだけを意識して過ごしていた。本当、思い出しても悔しい。今の僕が過去に戻れるなら、「もし大谷翔平とつき合ったらやりたいデート3選」とか披露するのに。悔しい。

というわけだ。どういうわけかって言うと、つまりローキャリアのLGBにはつらい人が多いのかもしれないなということだ(今度からこれ言おう)。仕事の話をしても無力、他愛ない話をしても無力、そう思ってしまった人の孤独感はすごいから。でも、たとえそうだとしても、僕はやっぱり「職場の醍醐味は仕事でしかない、ゆっくりでも仕事で自信をつけていけば、うまく回りはじめる」と言いたい。コミュニケーションですれ違うというボディブローは、たしかに不安をジリジリ煽るけど、そんなことはなるべく気にしないで、まっすぐ仕事という顔面パンチを打ち合うのが大切だと思う。昨日よりも今日、キレイな右ストレート決めるんだ、となんとか僕も意識しながら頑張ってます。そんなこと考えてる人、結果的に愛されそうだとも思うし。

文・太田尚樹 イラスト・井上 涼

本記事は雑誌ソトコト2017年3月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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太田尚樹

おおた・なおき
1988年大阪生まれのゲイ。バレーボールが死ぬほど好き。編集者・ライター。神戸大学を卒業後、リクルートに入社。その後退社し『やる気あり美』を発足。「世の中とLGBTのグッとくる接点」となるようなアート、エンタメコンテンツの企画、制作を行っている。