RÔTISSERIE KEIJUAN
2020.07.16 UP

『RÔTISSERIE KEIJUAN 桂樹庵 YUGAWARA』でフランスの家庭料理を味わう。

FOOD

人口約2万5000人の神奈川県・湯河原町に誕生した、『RÔTISSERIE KEIJUAN 桂樹庵 YUGAWARA』というフランス家庭料理店。食を通した地域コミュニティの再生と、町の活性化を目指しています!

「ボンジュール!」の挨拶が、湯河原で流行るぐらいに。

フランス料理のレストランと聞くと、あらたまった服装で出かけ、コース料理で、食べ方にもルールがあってと、慣れない人には堅苦しいイメージもあるが、『RÔTISSERIE KEIJUAN 桂樹庵 YUGAWARA』(以下、『桂樹庵』)は違う。オーナーの南谷桂子さんが「ふらっと立ち寄るような感覚で訪れて」と言うように、別荘を改装した、フレンドリーなフランス料理店だ。

/『桂樹庵』に有機野菜を卸す『ウインドフィーリング』代表の力石康彦さんの畑から、湯河原の町を望む。
『桂樹庵』に有機野菜を卸す『ウインドフィーリング』代表の力石康彦さんの畑から、湯河原の町を望む。

そもそも、『桂樹庵』はレストランと名乗っていない。RÔTISSERIE(ロティスリー)、つまり「肉焼き職人の店」だ。「パリでは肉屋さんに鶏を丸ごとローストする機械が置いてあって、人々は日曜の午後にその鶏を買って家族で食べる習慣があります。もちろん生の鶏肉を買ってオーブンで焼く家庭もあります。そんなイメージを店名に込めました」と南谷さんは話す。

ナプキンには『桂樹庵』のロゴが。「世界は一つ」の思いを込めて、一筆描きで描いた桂の葉をデザイン。
ナプキンには『桂樹庵』のロゴが。「世界は一つ」の思いを込めて、一筆描きで描いた桂の葉をデザイン。

『桂樹庵』のコンセプトは、フランスの家庭料理(キュイジーヌ・ブルジョワーズ)。大皿に盛られた料理をシェアして食べるスタイルだ。看板メニューは、鶏の丸焼きを使ったチキンブレッドサラダ。「数年前、友人が暮らすサンフランシスコに出かけ、評判のレストランを食べ歩きました。『ズーニーカフェ』でチキンブレッドサラダを注文すると、二人で1羽分も出てきて食べきれなかったので、箱に詰めて持ち帰りました。翌日、その鶏をフライパンで蒸し煮にしました。オリーブの酢漬けを添えて。サラダをつくり、その上に載せて食べると友人が、『1週間、いろいろな店を食べ歩いたけど、今日のお昼がいちばんおいしい』と言ってくれて、とてもうれしかった」と思い出を語る南谷さん。そのときのチキンブレッドサラダを桂樹庵流にアレンジしたものが、看板メニューとしてテーブルを彩る。

南谷さんの別荘を改装した『桂樹庵』。
南谷さんの別荘を改装した『桂樹庵』。

ブイヤベースもフランス家庭料理の代名詞。南フランスの港町・マルセイユの名物で、もとは売れ残った魚介からダシを取り、スープにして食べていた”漁師メシ“だ。ただ、『桂樹庵』の料理を監修するのは、パリで1つ星レストランを営むフレデリック・シモナンさん。南谷さんの知人だ。『ジョエル・ロブション』でも修業した名シェフならではの目を見張るアレンジがほどこされている。

「湯河原周辺にも素晴らしい漁港があります。築地から仕入れつつも、近くの港で水揚げされた新鮮な魚介を、ブイヤベースをはじめ、さまざまな料理に使いたいです」と南谷さんが話していると、カミーユ・ボドロウさんが焼き上がった真鯛の塩釜蒸しを運んできた。ボドロウさんは、シモナンさんの下で腕を磨く21歳の若き料理人で、『桂樹庵』にシェフとして派遣されて来日した。「真鯛の塩釜蒸しはフランスの一般家庭で、家族の誕生日や結婚記念日など特別な日に振る舞われる料理。僕も子どもの頃、親がつくったものを一緒に食べました」と懐かしそうに話す。その真鯛の塩釜蒸しをテーブルで切り分けるのは、サービス担当のジェレミー・ボンタンさん。パリ市商工会議所が運営する職業訓練校エコール・フェランディを首席で卒業し、『桂樹庵』に来た。「フランス料理のサービスを日本の人に伝えたい。一方で、日本の文化や食べ物についても学びたいです」と話す。二人は湯河原駅の近くにマンションを借り、30分ほど歩いて『桂樹庵』に通っているそうだが「その途中、湯河原の町の人たちとふれ合ってほしいです」と、南谷さんは二人が町の人たちと早く仲良くなるよう促す。「『ボンジュール!』の挨拶が湯河原で流行るぐらいにね」

お客さんに見せる鶏のローストをおしゃれに飾り付けるボドロウさんと、見守る南谷さん。
お客さんに見せる鶏のローストをおしゃれに飾り付けるボドロウさんと、見守る南谷さん。

地域の人と一緒につくる、フランスの家庭料理。

ブイヤベースは、ピューレ状にしたニンニクに唐辛子で辛みを付けたソースを添える
キャプショブイヤベースは、ピューレ状にしたニンニクに唐辛子で辛みを付けたソースを添える。

南谷さんはパリに40年ほど暮らし、食関連のジャーナリストとして活躍してきた。数年前、東京の両親が亡くなり、1987年に両親が建てたこの別荘を相続した。南谷さんもパリから帰国した際には遊びに来ていた別荘だが、「地域の方とはほとんどおつき合いのない、典型的な別荘族でした」と話す。そんな建物を、「人が集まる場所」にしたいと考え、来日したシモナンさんを招くと、「素晴らしい。レストランではなく、もっとフレンドリーで、みんなでシェアする場にできるはず。フランスの家庭料理を振る舞って、湯河原をインターナショナルな食のまちにすれば」と進言された。シモナンさんは、メニューや料理コンセプトの開発を約束し、ボドロウさんを派遣してくれることに。その力強い言葉と協力に後押しされ、南谷さんは『桂樹庵』を開くことを決意した。「ここは、私の家。パリから引っ越し、住民票も移しました。だからレストランではなく、お客様には家族のようにくつろいでもらいたいのです。古き良きフランスの家庭の食事のひとときを、会話を楽しみながら過ごしてほしいです」と笑顔で話す。

お客さんの前で、真鯛を巧みな手さばきでほぐし分けるボンタンさん。ワインは、100パーセントオーガニックのフランス産ビオワイン。
お客さんの前で、真鯛を巧みな手さばきでほぐし分けるボンタンさん。ワインは、100パーセントオーガニックのフランス産ビオワイン。

食材は、できるだけ湯河原周辺で採れたものを使う方針だ。「例えば、野菜は湯河原で20年以上も有機農業を続ける力石康彦さんが育てたものを中心に料理します」とのこと。「建物を改装した工務店の社長さんから力石さんを紹介してもらったことで、湯河原の方々とのつながりが広がっています。それが楽しくて」と南谷さん。魚も、なるべく湯河原の魚屋さんから仕入れられるよう、目下、探索中だそうだ。

デザートは伝統的なフランスの焼き菓子、タルト・オ・フランボワーズ。湯河原で採れる青ミカンの皮を削ったゼストを添え、香りも爽やか。
デザートは伝統的なフランスの焼き菓子、タルト・オ・フランボワーズ。湯河原で採れる青ミカンの皮を削ったゼストを添え、香りも爽やか。

そんなふうに、地方に移住して、地域に活気を生み出したいと思うなら、「地域の人たちと一緒に」という姿勢が何よりも大事と南谷さんは言う。「『桂樹庵』がある地域は理想郷と呼ばれ、住環境を重視する住民が50世帯ほど暮らしておられます。私は、理想郷の住民全員が賛成してくださったら『桂樹庵』を開こうと思い、世話人会にお願いに行きました。すると、皆さん快く賛成してくださり、勇気が湧きました」。

オーナーの南谷桂子さん。フランスでの長年の取材経験を生かし、『桂樹庵』をオープンした。
オーナーの南谷桂子さん。フランスでの長年の取材経験を生かし、『桂樹庵』をオープンした。

人が集まる場としての交流は、お客さんや地域住民に留まらない。「カミーユとジェレミーには日本で戻って活躍してほしいと思います。同時に、フランス料理を学ぶ日本の料理人にも働いてもらい、その後はフランスのレストランで修業を重ねる機会を設けられたらと考えています。紹介できる店は知っていますから」と、料理人の交流の場としても機能するプランも構想する。

人と人とのつながりを演出し、人生の新たな味わいを感じさせてくれる『桂樹庵』。ぜひ一度、気軽に予約る『桂樹庵』。ぜひ一度、気軽に予約を入れてみてほしい。

南谷さんとスタッフをはじめ、デザートをつくるパティシエ、『桂樹庵』に食材を提供する人たちがテラスに集合!
南谷さんとスタッフをはじめ、デザートをつくるパティシエ、『桂樹庵』に食材を提供する人たちがテラスに集合!

『桂樹庵』オーナー・南谷桂子さんのおいしいごはん三か条

一 なるべく地元の有機食材を使う。

地元の新鮮な有機食材を使えば、おいしいだけでなく食べることで健康になれる。無農薬・無化学肥料栽培は地球環境にもやさしい。

二 食材を自分の目で確かめる。

普段の食材も自分でマルシェに行って買うように、『桂樹庵』の食事も自分で確かめ、生産方法やこだわりを聞き、納得して選ぶ。

三 食べることは人生の基本。

「同じ釜の飯を食う」という言葉があるように、一緒に食べれば、本音で話せるし、笑顔にもなれる。『桂樹庵』をそんな場に。

山ごはん、海ごはんをおいしくするキーワード

“家庭料理”

パリでは、2時間ある昼休みに家に戻ってランチを摂る会社員もいます。家族や仲間と一緒にテーブルを囲むことが、何よりも食事をおいしくする秘訣です。

pphotographs by Yusuke Abe
text by Kentaro Matsui