みなぎ
2020.06.30 UP

連載 | こといづ | 57 みなぎ

SUSTAINABILITY

賑やかな緑色がすうっとどこかに抜けて、赤や黄色で山々が覆い尽くされてゆくと、畑や山や野原から生き物の気配がおおきく消えていった。ぽつりぽつりと一枚また一枚、葉が落ちて、地面の草花も枯れて、いつの間にか見えなくなって、つめたい風が吹き出すと、ある日突然、「ああ、冬がいよいよ近づいてきた」とすっかりもの寂しくなった景色をまっ白な霧が包み込んでゆく。

掃除とものづくりは似ていると思う。曲をつくっていても、やっぱり8割がた、使える要素が集まってくると曲に仕上がっていく。作曲と言っても、一気にわっと思いついて生まれることは滅多になくて、日々、ある部分だけ思いついて少しずつメモ代わりに録音している。曲の断片が無数にコンピューターや頭の中に溜まっていって、これがまた、溜まっていくだけでいつまでも曲として仕上がらない。それでもある日、全くあたらしい断片を思いついて、「あのときのあれと、このときのこれ」が不意にようやく繋がって曲になる。思い返すと、作曲ってそういうものだったりする。だから、曲ができないと悩んでいるときは、ただ素材が足りていないだけかもしれない。ついつい、いま持っている素材を磨きあげることに集中しがちだけれど、それだけでは音楽には辿り着けないのかもしれない。音楽になるには、いま手元に持っていない素材が必要で、「あっ、まだまだ部品が足りてないだけかも」と気づくだけで先に進めることもあると思う。

妻が料理をしていて、「お客さんがたくさん来るときは、具材をたくさん用意するやんか。目の前に具材がたくさんあるから、これとこれを合わせてみたらどんな味がするやろうとか、新しい組み合わせを考えるだけで楽しい。普段の二人分やったら捨ててしまう野菜の切れ端でも、これだけの量が集まったら、よい出汁がとれるやろなとか。量が多いっていうだけで、使えないと思っていたものが使えるものに変わる。量って面白い」。

いま、新たなプロジェクトに取り掛かっていて、どうしたものかと悩んでいたけれど、とにかく新しいことに手を出してみて、今まで作ろうともしていなかった様子の曲を断片でいいから、ちょこちょこ作ってみようかしら。曲をつくろうとせずに、とにかく素材をいっぱい作ってみて、後から組み合わせを楽しんでみようか。そんな気分で窓の外を眺めてみると、白い霧はすっかり晴れていて、丸裸になった枝々の間から、いままで見えていなかった景色が金色に輝いている。まだまだ第2第3の紅葉がやってきた。

文・高木正勝
絵・さとうみかを

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高木正勝

たかぎ・まさかつ
音楽家/映像作家。1979年生まれ、京都府出身、兵庫県在住。長く親しんでいるピアノで奏でた音楽、世界を旅しながら撮影した“動く絵画”のような映像、両方を手掛ける。細田守監督最新作『未来のミライ』の映画音楽をはじめ、CM音楽などコラボレーションも多数。2018年11月、この連載をまとめた初の著書『こといづ』を木楽舎より上梓。 www.takagimasakatsu.com