寂しい人なんて、1人でも少ないほうがいい。ー ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ VOL.10
2019.06.16 UP

寂しい人なんて、1人でも少ないほうがいい。ー ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ VOL.10

DIVERSITY

いきなりだが、最近失恋をした。ピンチ。しかも風邪をひいて咳がとまらない、ときている。大ピンチ。そのうえ咳は夜中になるとやたらと出るやつで、眠れなくて起きると、静かだし一人だし「寂しいな」と思ったりする。僕は今、「人生、重なる時は重なる」という噂のそれを小さく経験している。

もちろん、10代の頃のように部屋にこもって心の旅に出発し、さらにメンタル爆発、みたいなことはさすがに減ったため、ジムも契約して「運動で解決してやるぜ」と意気込んではいるが、行ってみて分かったのは、ランニングマシンは結構危ういということだ。永遠に続く真っ直ぐな道。脂肪が燃焼し始めるより前に「人生とは……」とか考えはじめてしまって、これまたピンチなのである。

ただ、ピンチなだけでもない。自分のこれまでの人生を思い返すと、「失恋して、寂しい」とか、やるじゃ〜ん! とも思っている。昔はそんなことを思う余裕もなかった。ゲイだということは墓場まで持っていくしかないと思っていたし、「寂しい」と認めては暗闇に突き落とされてしまう気がしていたから、こうして思春期のように未熟な恋の海に全身で浸かっているのは、めちゃくちゃ喜ばしいことだと思う。昔の自分が羨むであろう現状は、ちゃんと噛み締めて喜ぶほうが幸せだ。バンザーイ! ということで、僕は総じてハッピーである。

それにしても改めて思うが、あんな「寂しすぎて、寂しいとも言い出せない時代」なんて不要だった。寂しい時期は一刻も早く終わっていい。その思いが、僕が今『G-pit net works』さんという企業と一緒に準備している「農家づくりプロジェクト」の原動力になっている。

このプロジェクトは、文字通り「農家をつくる」プロジェクトだ。詳しくは『やる気あり美』のWEBサイトを見てほしいが、コンセプトは「LGBTもそうじゃない人も、田んぼに入れば、みな農家!」。どんなセクシュアリティの人も『おいしい米をつくる』という共通の目標の下、ただの「いち農家」として絆を育むことを目指している。

結局人は、誰かと共に歩み続ける中でしか「寂しくない」という気持ちになれないんじゃないかと僕は思う。「つながり」の有無は、どれだけ互いが手の内を見せ合ってきたかで決まる。それには時間も山も谷も必要だ。だから、LGBTコミュニティにとって「どんなセクシュアリティも受け入れる」ということは、ついついゴールのように思える時があるが、それはやっぱり「つながり」をつくる一手でしかない、と思う。

僕には大学時代、4年間共に過ごした部活の同期全員にカミングアウトして受け入れてもらった経験があるが、多分皆の心境は「太田、まだあったか!」だったと思う(笑)。もう十分手の内を見せ合ってきた僕らには、すでに絆があった。だから僕にとっては、カミングアウトは最後の大事な一手だったが、“一手でしかなかった”とも言える。これからつくる農家もそうだ。「どんなセクシュアリティも肯定する」が当たり前な場所にしたいが、何より「一緒にいい農家にするため頑張る」を大切にしていきたい。

先日、オープンに先駆けて、僕らを応援してくれている農家さんの田んぼに皆で苗を植えた。参加者はLGBT当事者もそうじゃない人もいて、皆で「せーの!」と苗を植えながらつながっていく感覚は、僕らに自信を与えてくれた。僕はこのプロジェクトにおいて主に広報や営業担当となるが、いつも思いは茨城の田んぼの中に置いて、頑張っていきたい。ほんの少しでいいから、世界の寂しさの量を減らすことに貢献できれば、それ以上のことはないな、と思う。だからもう一度言っておくが、僕は総じてハッピーだ! イェーイ! (震え声)。

文・太田尚樹 イラスト・井上 涼

本記事は雑誌ソトコト2017年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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太田尚樹

おおた・なおき
1988年大阪生まれのゲイ。バレーボールが死ぬほど好き。編集者・ライター。神戸大学を卒業後、リクルートに入社。その後退社し『やる気あり美』を発足。「世の中とLGBTのグッとくる接点」となるようなアート、エンタメコンテンツの企画、制作を行っている。