レズビアンバーでケンカになりかけて。ー ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ VOL.11
2019.06.17 UP

レズビアンバーでケンカになりかけて。ー ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ VOL.11

DIVERSITY

先日、友人と4人でレズビアンバーに遊びにいった。ゲイが2人に、レズビアンが2人。新宿二丁目の大きな通り沿いにあるそのお店は、時間帯によって男性も入れる、比較的オープンなお店だ。

土曜日というのもあって、お店はとてもにぎわっていた。ほとんどの客が女性である店内は、やはり暑苦しさがない気がする。クラブミュージックと鮮やかなライトがフロアを走る。ゲイの僕は、主役じゃないから変に羽を伸ばしすぎないようにと、生来デカい声を少し小さめにして、脇役らしくお酒を楽しんでいた。

入店して30分ほど経った頃だろうか。たしか、最近ハマッているドラマについて話していた時、少し離れた席で男性の大きな声がした。英語だった。遠くからでも分かる主役感で騒いでいたのは2人組の外国人男性だ。彼らは、まるでナンパでもするかのような絡み方で、ある女の子のグループに声をかけていた。

「うわ、マジで嫌だね」。一度は視線を外した僕らだったが、どうしても気になって見てしまう。最初のほうは女の子たちも笑ってあわせていたが、エスカレートしていく彼らに、いよいよ顔が曇り始めた。そしてそれは起こった。なんと片方の男が、女の子2人の首根っこをつかんで、無理矢理2人をキスさせようとしだしたのだ。「え、あれ、なにやってんの?」。さすがに気持ちを抑えきれず、僕の友人Tが止めに入った。

「ご友人ですか?」。そう言ったTに、彼らは間髪入れずブチ切れてきた。女性たちがひしめく中、ひときわ大きさが目立つ3人。店内に緊張感がはしった(それにしても、これ以上お呼びでない緊張感があるだろうか)。

彼らが英語で何かまくしたて、手を挙げようとした時、店員さんが止めに入った。店員さんはもちろん女性だ。僕らが火に油を注いでおきながら言うのもなんだが、男2人の間に毅然とした態度で立たなくちゃいけないこともあるなんて、本当に大変な仕事だ。

結局その男2人組はブツブツと何かを言いながら帰り、店内も落ち着いて、そこからは楽しく飲んだが、僕はとても悲しい気持ちになった。

新宿二丁目には、ゲイやレズビアンの表面をなぞって楽しむためにたくさんのノンケがくる。それで商売が成り立っている部分もあるし、もちろんモラルのあるノンケの方もいる。だから彼らをまとめて悪く言う気はない。

ただ僕の場合、そんな彼らに失礼なことをされることがあっても、「“男”という楯がある」と、どこかで感じている自分がいる。別にたいしてがたいがいいわけでもないが、女性には基本的に負けないだろうし、男性にも舐められることはない。だから「なんだよ」とつっぱねられる力が自分の奥底にある。

でも、レズビアンの方はどうなんだろう。ノンケの男にそんなぞんざいな扱いをされることは、踏みにじられたような悔しさがあるんじゃないだろうか。恐怖心だって大きいだろう。僕だったら「怖い」と感じることさえきっと悔しい。そんなとてつもない現実を思って、悲しくなった。

去っていった彼らは、「何もお前は知らないだろ!!」みたいなことを言っていたが、たしかにそれはそのとおりだ。もしかすると女の子たちと以前に会ったことがあるとか、僕らの知らない背景があったのかもしれない。

でも彼らに言いたいのは、僕ら人間は、常に自分が持っている「相対的な強さ」には敏感でなければいけないんだよ、ということだ。ただありのままの自分を出した、ということが誰かへの暴力になってしまうことがあるのだ。僕らはいつでも、自分の持っている力に自覚的でいる努力をしなくてはいけない。

この場の救いだったのは「友人ですか?」と止めに入ったTが、ブチ切れられてすぐ「すみません、すみません、こわい、こわい」とコミカルに帰ってきたことだ。どことなく向こうも気が抜けていた気がするし、みんなもすぐに笑ってしまった。やっぱり笑いは、ずっと大切にしていきたい。

文・太田尚樹 イラスト・井上 涼

本記事は雑誌ソトコト2017年10月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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太田尚樹

おおた・なおき
1988年大阪生まれのゲイ。バレーボールが死ぬほど好き。編集者・ライター。神戸大学を卒業後、リクルートに入社。その後退社し『やる気あり美』を発足。「世の中とLGBTのグッとくる接点」となるようなアート、エンタメコンテンツの企画、制作を行っている。