地域コミュニティと医療を繋げる仕事「リンクワーカー」を知っていますか?
2020.07.09 UP

地域コミュニティと医療を繋げる仕事「リンクワーカー」を知っていますか?

WORK

人と人との繋がりを処方する「社会的処方」。イギリスでは、社会的処方をうまく機能させるための職種「リンクワーカー」が活躍している。長崎県佐世保市でリンクワーカーの導入を試みる人物に、その働き方について訊いてみた。

地域の繋がりは、ココロを健康にする治療薬

社会的処方」という言葉をご存知だろうか?
先日、厚生労働省からも社会的処方を推進していくことが発表された。
イギリス発祥の言葉である「社会的処方」とは、“身体的・精神的のみならず、その背後にある社会的健康要因に対して、様々な支援や地域の取り組みに繋げ、Well-beingの向上を目指すアプローチ”という定義で説明される。
Well-beingとは、身体的・精神的・社会的に良好な状態にあることを意味する概念で、しばしば「幸福」という翻訳で表現される言葉だ。

孤立が引き起こす生活習慣病などの社会課題を、医療機関と地域コミュニティが連携することによって解決を目指す。
つまり、医療機関が患者に対して、薬ではなく“人と人との繋がり”を処方するのだ。
日本では、まだこの考え方は一般的にも医療従事者の中でもあまり浸透していない。一方イギリスでは、医療分野においてコミュニティへの所属が重要な役割を果たすものと認識され、社会的処方が推進されている。
そして、その仕組みを成立させるために中枢的な役割を担う職務が「リンクワーカー」だ。

社会的処方の必要性を実感し、リンクワーカーの導入を試みようとするのは、「医療法人社団 石坂脳神経外科」副院長・石坂 俊輔さん。

石坂さん
石坂さん(右)と、後述する株式会社TRAPE代表の鎌田大啓さん(左)

同院は脳神経外科・神経内科・リハビリテーション科を診療するほか、関連事業所として「通所リハビリテーション きらら」や「居宅介護支援事業所」なども手がける。
社会的処方の先進国・イギリスを視察した石坂さんと、経緯を辿りながらそのあり方について理解を深めてみよう。

イギリスに学ぶ社会的処方の仕組み

先ほども述べたように、社会的処方を仕組みとして成立させる最先端の国・イギリス。
日本ではまだ馴染みのない言葉かもしれないが、2019年12月に開催された「第1回日本地域包括ケア学会」において、日本でも社会的処方を実践していくことが宣言されたり、厚労省からの発表が出されたりなど、徐々に認識が広まりつつあるのが現状だ。

では、石坂さんはどうやって社会的処方を知ったのだろうか?

数年前に実施した同院の経営改善プロジェクトの中で、Well-beingを医療・リハビリ・福祉の分野で向上させていこうとアプローチをする株式会社TRAPEを知った石坂さん。その取り組みの中で、社会的処方という言葉に出会った。

石坂さん日々の診療の中で、「これは薬を処方して解決するものではないような…。でも一体どうすれば…?」とモヤモヤした気持ちに直面することがありました。そんな時にこの言葉に出会って、「これだ!」と腹落ちしたような感覚でしたね。

その後、TRAPEからの紹介を通じて、国際長寿センター(ILC-Japan)の事業におけるイギリス視察の声がかかる。
石坂さんはそのチャンスを活用し、イギリスで社会的処方を学んできたのだった。

ネルソンヘルスケアセンター
社会的処方が仕組みとして導入されている「ネルソンヘルスケアセンター」。医学教育にも社会的処方の考え方が組み込まれており、研修医が現場で学ぶ様子が窺える
 

病院はもちろん、地域資源であるコミュニティの集いの場を訪れたり、エビデンスを学術的に論文化するイノベーションセンターに足を運んだりなど、社会的処方に関連する各セクションを視察して周った。

社会的処方のアプローチ方法は地域によって様々で、その地域の特性に沿ったものであった。例えば、マンチェスターには歴史好きな人が多く、孤立する男性同士が歴史を通じて繋がりが持てるような歴史サークルの活動が盛んだ。他にも、ロンドンのように、スポーツジムでダンススタジオに参加するなどのコミュニティが活発な地域もある。

ロンドンの社会的処方の受け入れを行うジムでの様子
ロンドンにある、社会的処方の受け入れを行うジムでの様子
 

イギリスでは、コミュニティと医療の関係性が良好に働くというエビデンスがあるからこそ、社会的処方が普及している。一方、日本には仕組みとしてのそれはないが、“社会的処方らしきもの”があることは、読者の皆さんにも心当たりはあるだろう。

しかし、そこに「リンクワーカー」という職種を置き、仕組みとして構築していくことはまた別問題であり、未だ難しい現状にある。仕組みとして成立させるためには、リンクワーカーに給料が支払われ、職業として認定されていることが大きな要因の一つなのである。

Text by Kyosuke Mori
写真提供:石坂俊輔

2019年度 国際長寿センター「軽度者に向けた支援についての制度運用に関する国際比較調査研究」 http://www.ilcjapan.org/study/index.html

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