あの島が、見えなくなっても。ー ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ VOL.13
2019.06.19 UP

あの島が、見えなくなっても。ー ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ VOL.13

DIVERSITY

人生の例えは、やはり船旅が分かりやすい気がしている。僕たちはそれぞれに行きたい島を決めて、地図を確認し進んでいく。そして時に嵐に押し流されて、目指していた場所にたどり着けなくなってしまうことがある。何年もかけて進んできたのに、ということもざらだ。もう届かないと分かってしまう時、僕たちは往々にして途方に暮れる。

大学時代、部活で同期だったFは、はっきり言って自信過剰なタイプだった。イケメンで運動神経も抜群。勉強もできた。遊び人風なのにしっかり者で、出会った頃はずいぶんと高圧的だったのを思い出す。

でも彼は、運やご縁といったものによって、そして口下手だったというのもあってか、就活に失敗した。それからというもの、同期の集まりにもあまり顔を出さなくなり、見るからに暗い人物になった。ずっとエリートサラリーマンを目指してきた人が、その一歩手前で届かなかったのだ。たくさんの友人たちが目の前で彼の憧れた島に上陸していく中、彼は何を思ったんだろうか。

当時の僕はと言えば、彼が望んでいた島にこそたどり着いたものの、そこにそびえ立つビルの43階から見える「東京」にまったく馴染めずにいた。「なんでこんな所に来てしまったんだ」。2年間、右往左往しながら在籍したが、体調を崩したことをきっかけに、転げ落ちるように辞めてしまった。僕らは、状況は違えど、共に明日を見失って立ち尽くしたまま「新卒」と呼ばれる時代を終えた。

そんなFと最近、別の同期の結婚式で再会し、久しぶりに話した。二次会を終えて同期だけで集まった居酒屋だ。彼は昔のような棘はなく、丸みを帯びた笑顔を携え、以前の明るさをずいぶん取り戻していた。嬉しくなって「最近どうしてるの?」と聞くと「とにかく娘にゾッコンだ」と返ってきた。「かわいいだろ!」、枝豆をつまみながら、待ち受けにしている娘さんの写真を自慢げに見せてくれる。彼は今、小さな地元企業で働いていて、とにかく日々が楽しいらしい。卒業後、何度か転職したりと紆余曲折あった彼のキャリアだが、愛する人と同じ船に乗ることの豊かさは、彼に活力を与えたのだ。

目標を見つめ、ときに波に逆らい進む日々はドラマチックだ。だけどドラマが多いからと言って幸せかどうかはまた違う。幸せをつくるのは視線の先の風景ではなく、まぎれもなく船の上の時間だろう。娘ができて一瞬一瞬が光って見えるようになる、そんな経験がゲイの自分には簡単ではないから、僕はちょっとした羨ましさも感じながら「いいね〜!」と大きな声で讃えた。

僕は改めて「卒業後、自分はどうなったっけ」と考えたが、ゲイだから「ふつうに幸せ」にはなれないと思っていた以前の自分が、もはや懐かしく思えて笑えた。バカの一つ覚えのようにドラマを求め、「ふつうじゃない幸せ」を探してきた。ここではないどこかにたどり着こうと、ずっと必死だった。

でも体にガタがきてからというもの、なんでこんな必死にオールを漕いでいるんだろうと気づいた僕は、もう不幸になってまでどこかに行きたくなんかない。そう思ってからカミングアウトもしたし、恋なんかもしたし、この連載も書き始めて、気づけば一瞬一瞬を楽しむことがうまくなったような気がする。

目指す島が見えなくなった時は、船の上でていねいに生きようと思う。楽しいことは、ボンヤリせずに楽しもう。楽しくないことは、楽しむ工夫を諦めないでいよう。そんな生活の先に、島との出合いがまた待っているのだ。僕はドラマが好きだから、また必死にオールを漕ぐ日がくるだろうけど、決して完璧ではない船の上、「完璧じゃないね〜!」といつも笑っていられる工夫は、何より大切にしていきたいと思う。Fも僕も、これからもっと幸せになるのだ。

文・太田尚樹 イラスト・井上 涼

本記事は雑誌ソトコト2017年12月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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太田尚樹

おおた・なおき
1988年大阪生まれのゲイ。バレーボールが死ぬほど好き。編集者・ライター。神戸大学を卒業後、リクルートに入社。その後退社し『やる気あり美』を発足。「世の中とLGBTのグッとくる接点」となるようなアート、エンタメコンテンツの企画、制作を行っている。