やっぱり嬉しいピー・エス・エス。ー ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ VOL.15
2019.06.21 UP

やっぱり嬉しいピー・エス・エス。ー ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ VOL.15

DIVERSITY

11月半ば、同性パートナーシップ制度の誕生2周年を記念して「ピー・エス・エス」というミュージックビデオを『やる気あり美』からリリースした。同性パートナーシップ制度は、現在全国6自治体で制定されている、同性カップルを公認する制度のことである。「ピー・エス・エス」は、この制度を利用したカップルに訪れる幸せを、自分たちなりに表現した楽曲だ。

とはいえこの制度、“公認”って何をしてくれるのかといえば、そこまで何かをやってくれる制度ではない。自治体によって内容には差があるものの、法的効力はどれも弱く、異性婚なら得られる相続や税、社会保障など法律に基づいた権利や優遇措置は、同性の“ふーふ”には用意されていない。たとえば、戸籍上の家族でないことを理由に断られていた、病院の面会時の問題改善が期待されていたり、いくつかのメリットはあるが、ぶっちゃけ、「あれって意味あんの?」と言ってしまう人もいる制度なのだ。

無論、『やる気あり美』の周りのLGBT当事者の反応もそんな感じだった。僕がはじめて友人のゲイに「同性パートナーシップ制度、できたね」と話した時、開口一番で言われたのは「なんというか、“自分には関係ない感”がすごい」だった。中華料理を食べていた。どう考えてもチャーハンのほうが優先順位が高そうなかき込み具合で、口をもごもごさせながら、ついでのように言われた。当時僕は、その人のことが少し気になっていたというのもあって、なんかややこしい話をしたらダサいし、「そうだね」と適当に返事をして終わらせようとした。すると最後にこう言われた。「今さら言われてもねぇ」。

 「今さら」。それは、すごく納得感がある言葉だった。僕の周りには、社会からマイノリティと定義され、時には「かわいそうな人たち」と言われながらも、足腰強く生きてきたLGBT当事者がたくさんいる。自分にはいわゆる“幸せな結婚生活”みたいなのは待ってないだろうから、どうやって生きるのか、思春期からずっと戦略を持って生きてきたという人もいるのだ。僕の親友のYは、自分がゲイだと気づいた時から、某掲示板で「社内のコミュニケーションが少なくて、定時で上がれて、給料がよい企業」を探し続け、高校時代に「ここに行く」と決めて、実際そこに入社している。タフな彼らにとって「行政サポートが変わるのを心待ちに生きる」という選択肢は、一番リアリティがなかったはずだろう。

そんなわけで実は、2年前の『やる気あり美』も同性パートナーシップ制度に対してそんなに熱量を持ててはいなかった。でもこの2年、身近な場所やメディアで、「制度として意味があるか」という議論ばかり繰り返されるのを見ていて、それだけではもったいないんじゃないかと思うようになり、この曲を作ることにした。

やっぱり「誰かに認められる」ということには、僕はそれだけで意義があると思う。それは社会のシステムにとってではなく、カップルたちの物語にとってだ。僕なら、申請が受理されて「パートナーシップ証明書」をもらった後、珍しく抱き合ってみたりするんじゃないだろうか。友人たちに写メって送ったりもするだろう。勢いでいい服を買っちゃうかもしれないし、デパ地下で食べたいものをありったけ買って帰ると思う。「ピー・エス・エス」の歌詞には、そんなホッとする、二人の些細な幸せを盛り込んだ。

「あれって意味あんの?」という人たちに、「あなたの困りごとが解決します!」というアプローチではなく、「こんな幸せなことが待ってるんじゃないかな?」という提案が、この曲によって少しでもできていれば嬉しい。僕もいつか利用する日がくるといいなと願う(マジで)。YouTubeからご覧いただけるので、ぜひみなさん、聴いてみてくださいね!

文・太田尚樹 イラスト・井上 涼

本記事は雑誌ソトコト2018年2月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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太田尚樹

おおた・なおき
1988年大阪生まれのゲイ。バレーボールが死ぬほど好き。編集者・ライター。神戸大学を卒業後、リクルートに入社。その後退社し『やる気あり美』を発足。「世の中とLGBTのグッとくる接点」となるようなアート、エンタメコンテンツの企画、制作を行っている。