暑い日でも、明るく快適に“つけたいマスク”へ。日常を彩る「アートマスク」に込めた思い。
2020.07.23 UP

暑い日でも、明るく快適に“つけたいマスク”へ。日常を彩る「アートマスク」に込めた思い。

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 「異彩を、放て。」をミッションに掲げ、“福祉”や“知的障害”に染み付いたイメージを鮮やかに打ち崩していく、ヘラルボニー。これまで知的障害のあるアーティストが描いた作品をネクタイやスカーフなどに落とし込み、スタイリッシュなアート作品としての価値を発信し続けてきた彼らが次に手掛けるのは、これからのWithコロナ生活に欠かせないマスク。この鮮やかなマスクに込められた思いとは。

「昨日までは仕方なくつけていたマスクを、明日からは、つけたいマスクへ。」

 外出自粛が盛んに呼びかけられるようになってから、いつの間にかもう半年近くが経とうとしている。やっと緊急事態宣言が解除され、これから少しずつ日常を取り戻していかなければならないのだとしても、再び新規感染者数が増え続けている今の状況下では、この新たなウイルスの脅威をまだまだ甘く見てはいけないことを実感させられてしまう。

 そんな日常生活の中で多くの人が“仕方なく”身につけているであろう、マスク。今や生活必需品とも言えるほど毎日つけるようになったマスクを、洋服と同じように選び、日々を明るく彩るものとして身に着けてほしいと作られたマスクがある。

 それが、知的障害のあるアーティストの作品をデザインに用いるファッションブランド「HERALBONY」が手掛ける「アートマスク」だ。

ヘラルボニー_アートマスク

 現在クラウドファンディングにも挑戦中のこのマスクは、公開直後にソトコトオンラインでもニュースとして取り上げている。抗ウイルス機能を備え、夏でも快適なマイクロモダールを使用するなど、性能にもこだわった「アートマスク」の詳細がより詳しく紹介されているので、気になる方はそちらもあわせて見てほしい。

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 昨日までは仕方なくつけていたマスクを、明日からはつけたいマスクへ 「アートマスク」誕生です。

 今回は、「アートマスク」プロジェクトがスタートした背景や商品化までの経緯について、株式会社ヘラルボニー代表取締役社長の松田祟弥さんに話を訊かせてもらった。環境にも優しく、毎日を明るくするこのマスクが生まれた、そのストーリーを振り返る。

「ヘラルボニー」とは?

 自閉症の兄を持つ、双子の兄・松田文登さんと弟・崇弥さんが立ち上げた、株式会社ヘラルボニー。ファッションブランド「HERALBONY」や、建設現場などの仮囲いにアート作品を展示する「全日本仮囲いアートプロジェクト」をはじめとして、従来の“福祉”に対するイメージをポジティブに、そしてクリエイティブに変えていく、福祉実験ユニットだ。

ヘラルボニー_松田さん兄弟
松田さん兄弟。左から松田文登さん、翔太さん、崇弥さん。思春期の頃、兄の翔太さんを避けてしまった時期もあったという文登さんと崇弥さんだが、今では仲が良く、3人で写る写真はどれも楽しそう。

 ヘラルボニーの設立には、ふたりが兄の翔太さんと過ごしてきた日々の中で、“知的障害”に向けられる同情や優劣の意識に、強烈な違和感を抱いてきた経験が大きく影響しているという。もともと福祉とは異なる業界で働いていたふたり。しかし、幼い頃から家族で活動に参加していた福祉施設での経験から、いつか知的障害のある人々と関わる仕事がしたいと思い続け、2018年に会社を立ち上げた。

HERALBONY_ブランドイメージ
鮮やかで独創的なデザインが揃う「HERALBONY」のネクタイとスカーフ。こうしたブランドのビジュアルイメージからも、ブランド全体の洗練された空気感が伝わってくる。

 “障害”を“特性”ととらえ、それを個性や魅力として社会に発信し、福祉から新たな文化を築いていくことをミッションに掲げる彼らのプロダクトは、“障害”を障害ととらえないからこその自信と誇りに満ちている。アート性の高い洗練されたデザインと、機能や性能にも妥協を許さないものづくりへのこだわりによって、「障害は個性であり、可能性である」ということがより一層の説得力を持って示される。

ヘラルボニー_全日本仮囲いアートプロジェクト
建設現場などに設置される仮囲いに知的障害のあるアーティストの作品を展示し、まちの中に期間限定のミュージアムを出現させる地域活性型のアートプロジェクト「全日本仮囲いアートミュージアム」。その一環として、現在、JR高輪ゲートウェイ駅のイベント広場にて「Wall Art Museum in Takanawa Gateway」も開催されている(〜2020年9月6日まで)。

 また、さまざまな取り組みの中で使用されるアート作品の作者には、それぞれの用途にあわせて、利益の一部が還元される仕組みになっている。“寄付”や“支援”といったかたちではなく、あくまでビジネスとして成立することにもこだわり、世間の「障害者=社会的弱者」という意識を飛び越え、社会の中での存在感を放つ。

一度はボツになった「アートマスク」。

 そんなヘラルボニーがコロナ禍で取り組むことを決めたのが、この「アートマスク」。クラウドファンディングが開始されたのは6月上旬だが、実は3月にはもうそのアイデアはあったのだとか。

崇弥さん「私の双子の片割れ(松田文登)が、3月中旬くらいから『マスクをやったほうが良いんじゃないか』って言ってたんです。今はいろんなブランドがマスクを売り始めてますが、当時はどこも参入していなくて。僕はアパレルブランドとして、マスクを出すっていうのは逆にかっこ悪いんじゃないかと思っていたんです。他の社員も含めて話したんですが、その時は会社としてもやめておこうということで、どんどん話が流れていってたんですよね」

ヘラルボニー_アートマスク

 しかし、日に日に増える新規感染者数と、制限された生活が続く中で暗く重たい空気に呑まれていく世の中を見て、方針が変わったのだそう。

崇弥さん「4月の中旬くらいですかね。予想以上にコロナで世の中がどんどん塞ぎ込んでいって、僕らもいろんな案件が消滅して大打撃を受けていて。そんな中で、会社としても何か打開策を出したいと考えていました。それで、きっとこれからはある種新しい、自分が好きなマスクを選んでつけていくっていうような、ライフスタイルの一部にまでマスクが浸透していくだろうと思ったので、うちのブランドとして出せるマスクは何なのか、考えて動き始めたんです」

「良いものをクオリティ高く」全員の共通認識が生む、こだわりのマスク。

 そうして「アートマスク」の商品化が始まった。ヘラルボニーは、デザインに知的障害のあるアーティストの作品を用いるだけではなく、その品質やクオリティにこだわり、しっかりとプロデュースしたうえでプロダクトにしていく。もちろん今回も、機能面で徹底的ににこだわったマスクを採用した。

崇弥さん「つながりのある業者さんが、すごくクオリティの高いマスクを作っていて、実際にもらってつけてみたんです。そしたら本当に素晴らしくて。これでやれたら世の中にちゃんと伝わるものになるだろうなと思いましたね。このマスクがあったから実現できたと思います」

アートマスク_迷路
生地はマイクロモダールをメインに使用したカットソーを使用し、マスクの内側には、抗ウイルス機能や消臭機能に優れた東洋紡の抗ウイルス加工材ヴァイアブロック®︎を使用。徹底的に性能にこだわって作り上げられている。(デザイン:高田祐さん『迷路』)

 ヘラルボニーでは、現在15か所の福祉施設とライセンス契約を結んでおり、1000点以上のアート作品を保有している。企画する製品のコンセプトやイメージに合うものを、その中から都度選び、実際にプロダクトに落とし込んでいく。そうしてアート作品を運用しながら、アーティスト本人にも適切な金額を還元している。創業当初は、自ら施設へ連絡して契約を依頼することがほとんどだったが、現在では施設側からの問い合せも増えており、契約を結ぶ施設の数もさらに増えているという。

ヘラルボニー_アーティスト
今回のアートマスクにもデザインされた『迷路』の作者、高田祐さん(自然生クラブ)。2001年からメンバーとして参加する自然生クラブでは、農作業や絵画、ダンスなどの表現活動に取り組み、ベルギー、香港、デンマークなど海外公演にも参加。2013年秋には、個展『色彩の迷路展』も開催されている。

 そしてこの「アートマスク」に使用された4作品も、1000点以上のアート作品の中から選ばれた作品たちだ。デザインにあたっては、日常で身につけやすいデザインでありながら、気持ちが明るくなる作品を基準にして選ばれ、1枚で無地とアート柄の両方がリバーシブルで使えるようデザインされた。

ヘラルボニー_メンバー
ヘラルボニーのメンバー。一番左端が、このプロジェクトの中心になった佐々木春樹さん。

 今回、「アートマスク」のデザインを含め商品化の中心になったのは、取締役でデザイナーの佐々木春樹さん。さまざまな人が関わり合いプロダクトを生み出す中でも常に高いクオリティをキープし、さらに、製品に込められる思想やストーリーも決してブレることはない。この「アートマスク」を含め、そのどれもがヘラルボニーの方向性として一貫しているのは、メンバーそれぞれの福祉に関わるバックグランドと、妥協しないものづくりに対する共通認識があるからだと、崇弥さんは語ってくれた。

崇弥さん「ヘラルボニーの大きな特徴としては、“福祉”をちゃんと学んできた人は誰ひとりいなくて。ただ、小さい頃からとか、大人になってから、とかは人それぞれありますけど、わりとそういうことを原体験としてみんな知っているんです。その中で、今まで営利企業で数字を追ってきた人が、福祉の中で何ができるのかっていうことに挑戦している会社なので。だから、スタンスとしてはちゃんと良いものをクオリティ高く世に出していこうっていうのが常に共通認識としてありますね」

アートマスク_白_イメージ

あなたは、“障害”と見るか、“個性”と見るか。

 身の回りで知的障害のある人と接するとき、彼らの行動や仕草は、あなたにどう見えているだろうか? これは、「アートマスク」にも使用された『(無題)』という作品の作者、工藤みどりさんの紹介文だ。

ある時はふわふわと、夢見るように周囲の誰かに笑顔で話しかけていたり。またある時は、一人自分の内側の世界に深く意識を沈めていたり。工藤のまなざしは、彼女の心だけに映る何かを追いかけてたゆたう。 心を満たす幸福なイメージが浮かぶのか。それとも痛みや悲しみを心に映さないようにするためなのか。それとも。

工藤の制作は、瞑想から生み出されるような果てしなさがある。自分が今なにかを作り出しているという意識はあるのだろうかーー。彼女が描く時、縫う時、あるいはよくわからない「なにか」をしている時。ふとそんな疑問を感じさせる、不思議な空気が彼女の制作には漂っている。
「アートマスク」クラウドファンディングページより)

 工藤さんも知的障害のあるアーティストのひとり。彼女の行動や仕草、そのひとつひとつを尊重し書かれたこの文章からは、彼女が自身の内側から湧き上がる何かを表現しようと筆を握る様子まで想像できてしまうようだ。その人のもつ障害を、そのまま“障害”と見るか、“個性”と見るかで、その見え方は全く異なるものになる。こうしたアーティストの短い紹介文からも、ヘラルボニーは“障害”というものに対する考え方を変えてくれる。

アートマスク_「(無題)」
工藤さんの作品『(無題)』。青が印象的な作品だが、「何で書いたのですか?」という問いかけに、工藤さんは「ピンクと紫。」と答える。思いもよらないその回答は、私たちに新しい気づきを与えてくれる。そして私たちは、青色の中に混ざるピンクや紫などの他の色を目で追いながら、作品に深く惹き込まれてしまう。

公開からわずか50時間で、クラウドファンディング第一目標を達成。

 完成した「アートマスク」は、6月にクラウドファンディングをスタート。公開からわずか50時間で第一目標を達成し、現在はさらなる増産を目指し第二目標を設定して挑戦を続けている(2020年7月26日午後11時で終了)。

 早々に第一目標を達成し、さらに多くの人から支持を集めているのは、時代のニーズをとらえていたのはもちろんだが、それだけではないこともまた確かだろう。ヘラルボニーが発信するコンセプトやメッセージが、徹底的にこだわるものづくりによって丁寧に製品へと落とし込まれ、多くの人に伝わっているからこそに違いない。

ヘラルボニー_アートマスク_イメージ

見方を変えれば、世界は明るくなる。

 ヘラルボニーが“障害”を“特性”ととらえ、その人自身の魅力として社会へ発信し続けるように、「昨日までは仕方なくつけていたマスクを、明日からは、つけたいマスクへ。」というコンセプトのもと、これまで「マスクを付ける」という行為自体ネガティブにとらえられていたものをポジティブにとらえ直す。そうして、コロナとの共存を強いられるこの世界でも決して暗くなることなく、その中で楽しみを見出しながら、前向きに生きていく。そんな発想の転換を、このコロナ禍においてもヘラルボニーは教えてくれている。

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Miho Aizaki