「愛と家族をさがして」著者の佐々木ののかさんに訊く、「自分らしさってなんですか?」
2020.07.22 UP

「愛と家族をさがして」著者の佐々木ののかさんに訊く、「自分らしさってなんですか?」

PEOPLE

個性的であることが一番だと思って生きてきた。自分らしく過ごしたいから、高校も私服の高校を選んだ。なぜ制服の高校を選ぶ友達がいるのか、わからなかった。「制服ってつらくない?」と聞いたら、心底嫌そうな顔で「毎日服を選ぶなんて面倒臭いよ」と返された。衝撃だった。規定されるほうが楽だと感じる人がいるなんて。

「自分らしさ」は苦しいものなのか?

年齢を重ね、数多の人と出会い、規定されたい人が圧倒的多数なのだということを理解した。他人だけじゃない。わたし自身、結局は規定されたいのかもしれない。だってその方が楽だし……。アイデンティティがぐらぐらする20代をすごした。

人に決めてもらえるのは楽だ。なにせ人のせいにできる。社会のせいに、時代のせいにできる。
自分で決めるのは大変だ。なにせすべて自分の責任である。「同調圧力」という、「お利口」な存在もある。

それでもーーたとえ茨の道でも、自分で選びとって、自分の人生を生きたいと決意……いや、「自分の人生を生きるほかない」という諦観に近いか……したのは、30代の始まった頃だった。

すっかりアイデンティティが揺らぎ、「自分らしさ」がわからなくなっているわたしは、現在進行形でさまざまな本や映画、絵画に触れることにしている。多くの価値観に触れることで、ときにはしおしおと萎えしぼんでしまうこともあった。

自分らしくいようとしてるのに、こんなにつらい気持ちになってもいいんだろうか?やっぱり楽そうなほうに流れちゃおうかな……と思うこともしばしば。

一冊の本との出会い

そんな時、一冊の本の情報がTwitterで飛び込んできた。

書影

本の著者は佐々木ののかさん。1990年生まれで北海道出身の、鮮やかな赤髪がお似合いな文筆家の方だ。2015年からライターとして活動をスタートし、家族や性愛にかかわるジャンルを中心にエッセイや取材記事を手がけておられる。

本のタイトルは「愛と家族をさがして」。ののかさんが2017年から2020年の間に取材された、さまざまな家族のかたちや愛のかたちについてのインタビューと書き下ろしで構成されている。

帯には、能町みね子さんの推薦文が書いてある。
”偏見や思い込みを丁寧にならしていく作業は時間と根気がいるけれど、楽しいものでもある”
帯の時点から、ハッとした。「偏見や思い込み」は、「他人の」だけではない。「自分の」でもある。
それって今のわたしではないか?自分の偏見や思い込みを丁寧にならしていく途中の……苦痛もあるけど喜びもある……

「愛と家族をさがして」には、法律婚ではない契約を取り交わして結婚生活を送る夫婦や、精子バンクを利用してシングルで子どもを産んだXジェンダーの方、多くの人たちによる共同保育で育った子ども、恋人ではないけど大切な相手と関係性をつないでいる方、などのインタビューが掲載されている。
彼らは「普通」ではない。
あれ、そもそも「普通」ってなんだっけ?

「普通」への疑問を頭上に浮かべながらも、夢中で読んだ。
読みきった時、しんどく重苦しい読後感を感じながらも、「ありがたい…」という言葉ばかりが溢れた。
インタビューされた方々が、とても自分らしくきっぱりと生きていらしたこと。そして、幸せそうであること。愛に満ちた日々を送っていること。とても素敵で、希望だと感じた。

「普通の家庭」「普通の恋人関係」「普通の愛情」……そんな曖昧な言葉で濁す人が考え及ばないような解像度での、家庭、恋人、愛情の話がそこにあった。「普通」ではない彼らは、誰よりも家庭、恋人、愛情について深く思考している。

自分らしさについて考えるヒントがここにある気がして、勇気を出してののかさんにオンライン取材を申し込むとすんなりご快諾いただけた。

自分らしさって何でしょう

あ

——ご著書拝読しました。希望がありながらも、苦しい気持ちを抱えながら読みました。読み手ですらこうなのですから、書き手であるののかさんは相当苦しみながら執筆なさったのではないでしょうか。
ののかさん「かなりしんどい思いをしながら書き上げました。書くことで昇華された部分もあることは確かですが……最後の章に関しては、まだ生傷がかさぶたになってない感覚でいます。まだまだ宿題がある状態ですね」

——そんな苦しい思いをして書き上げてくださって本当にありがたいです。陳腐な表現ですが、救われた気持ちになりました。
ののかさん「ありがとうございます…!」

——ののかさんには、今回「自分らしさ」ということについて、聞いてみたいなと思っていて。インタビューを受けられている方々は、みんな自分らしい生き方をされているなと感じたんです。でも、自分らしく生きたいなと思っても、まず「自分らしさ」を実感するのが難しいな、と思ったんです。
ののかさん「確かに、そうかもしれないですね」

——ちなみに、ののかさんが「自分らしくある状態」ってどんな状態ですか?
ののかさん「そうですね、人の目を気にせず自宅でダラダラしてる状態……でしょうか(笑)実は、人と接するのはあまり得意ではないんです。緊張して、気が張ってしまいますね」

——確かに、気を使ってしまいますよね。
ののかさん「でも、『わたしは相手からどう思われているんだろう』と、相手のまなざしを意識することは、自分が好きな自分とは何か知ることにすごく役立ってると感じます」

痛みを感じることは自分を知る第一歩なのかもしれない

写真

——他人は自分を映す鏡、と言った感じでしょうか。
ののかさん「はい。周りの人から『ののかさんって〜〜な人だよね』と言われたときに、自分としてもしっくりくるものだとすごく嬉しく感じます。自分の輪郭が少しずつはっきりしていくような感じ。人と接することはやはり苦手なんですが、それでも人とコミュニケーションを取る中で『自分』を発見することは貴重だな、と思います」

——他にも、自分らしさやオリジナリティを見つける方法はありますか?
ののかさん「そうですね、『好きなモノを集める』ということでしょうか」

——人ではなく、「モノ」なんですね。
ののかさん「はい。偏見を持たずに、ピンとくるもの、いいなと思うモノを集めていくと、ふとその中に共通点が見つかることがあります。そこから、わたしってこういうものが好きなんだなと気づくこと、そこがオリジナリティに繋がると思います」

——以前、ののかさんのお部屋のお写真を拝見したことがあります。確かに、たくさんの素敵なモノがありつつも、統一感のあるお部屋だと感じました。
ののかさん「そうですね、部屋には細々とモノがあります。実用性などはあまり考えていなくて(笑)値段も気にせず、とにかく好きだなと思ったものを集めています」

——苦手ながらも人と交流してそれを受け入れること、外で見つけたモノを家に持ち帰ること。どちらも「外部の要素を自己の中に取り込むこと」ですよね。オリジナリティや自分らしさって、外部から取り込むことで構築されるのかもしれないですね……。
ののかさん「人と交流することも、モノを買って自分のものにすることも、一か八かのところがありますよね。特に人と交流することは傷ついちゃうかもしれないし、傷つけちゃうかもしれないし。とても怖いことではあるのですが、自分の外のものに触れさせてもらうことで世界が広がって新しい自分に気付けることもあると思います」

——傷つきたくないし間違えるのって怖いけど、傷つき間違いながらも人と交流したりモノを選んでいくことで、自分らしさが養われていくのかもしれませんね。自分らしさを養う上で、痛みを感じたり、しんどくなるのは正しかったのか……。お話伺えてすごくよかったです……!ありがとうございました。
ののかさん「こちらこそありがとうございました!」

text by Shuko Takeda
photo by なかむらしんたろう@nakamuran0901