10代のみなさん、空を飛んでください。ー ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ VOL.18
2019.06.24 UP

10代のみなさん、空を飛んでください。ー ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ VOL.18

DIVERSITY

この4月で、「やる気あり美」の『確信〜恋する10代LGBTへ』という動画作品をリリースしてから2年が経った。今、再生回数は40万回を超え、誰かが韓国語の字幕をつけてくださったver.も45万回再生。合計で90万回近く観ていただくことができた。

本当に、うれしいなあと思う。再生回数だけをみると、一般的にまずまずといったところだが、寄せられるコメントがどれも熱いのだ。「気持ち悪い」などのヘイトコメントもあるにはあるが、断然ポジティブなものが多く、このコメント欄だけでも日本社会の前進を感じることができる。LGBT当事者の方からの「共感した」という声がたくさんあったことにはもう何度も喜んだし、「正直LGBTといわれる人たちに嫌悪感があったが、これを観て自分が無知なだけだと分かった」といったコメントには勇気をもらった。

紹介が遅れたが、この『確信』は、ゲイの主人公・須原くんが、ある日神様から「クラスに君と同じゲイがいる、誰だか当てられたら付き合えるよ」と言われるところから始まり、ある“確信”に至るまでを描いたショートアニメだ。元々『やる気あり美』のサイト上にあった「ゲイが感じる思わせぶりなノンケの一言GIF劇」というおふざけのような作品を、最後にマジメなアニメにまとめあげた。

一緒に作ったのはこの連載のイラストも描いてくれている井上涼で、僕らは「10代の自分たちに何を伝えたいか」と議論していた時、何度も「尊かったよね〜」と言った。恋する10代は「同性愛を認めるべきか、否か」という冷めた世界線になんていないし、いる必要がない。皆等しく恋はウチなるセカイの爆発で、やけるほどに熱く、尊かった。だから僕らは作品のメッセージを「LGBTであれ、何であれ、10代の恋は尊い」に決めて、当時の自分たちの内面の動きをていねいに歌詞にしていくことで表現することにした。歌詞の制作途中、井上が「やっぱ、羽じゃない?」と言ってきた時は意味が分からなくて笑ったけど(作中、羽が大事なものとしてでてきます)。


それにしても10代の恋は分からないことばかりだった。その成分が何で構成されているかなんてまったく分からないままに全身からあふれ出し、みるみるうちに大きな風船のようにふくれ上がって、飛んでいきたくなったり、飛ばされそうになったりした。年を取ってから分かるが、あの“空旅”は、何ものにも替え難いほど美しいものだった。

大人になると、自分のことも社会のことも、いろんなことを分かった気になって判断しないとやっていけないことが多い。「この恋はちょっとした出来心だ」とか、「ただの嫉妬心だな」とか、「失恋を引きずっているだけね」とか言っては、地に足のついた恋をするようになる。

僕は、難しい大人の恋の感受性を支えるものこそが、何も分からず、時間が許す限り風船の紐を握りしめ空を飛び回った、“あの日”の記憶なんじゃないかと思っている。旅は、ずっと嵐のようだった人もいれば、春の日の陽気ばかりだった人もいる。でも、その中身はきっと重要じゃない。好きになった相手が男でも女でも関係ない。何よりかけがえがないのは、“空を飛んだ日々”、それ自体だからだ。「こんなにも恋は鮮やかなのだ」と確信した経験が、恋にまた期待してみようというエネルギーを体の奥底で生み出していると、僕は思う。

だからどうか、すべての10代に自分の恋に誇りを持ってほしい。同性愛はどうだとか、変な雑音は気にしなくていい。そんな熱のない評価より、みんなの熱い感受性の芽吹きのほうが1000倍価値があるから、目いっぱい空を飛んでほしいと願う。アラサーの太田はいつも離れた場所で、皆さんのことを応援しています。

※1 www.youtube.com/watch?v=lVtWwMIjtCI
※2 http://yaruki-arimi.com/gif_special

文・太田尚樹 イラスト・井上 涼

本記事は雑誌ソトコト2018年5月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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太田尚樹

おおた・なおき
1988年大阪生まれのゲイ。バレーボールが死ぬほど好き。編集者・ライター。神戸大学を卒業後、リクルートに入社。その後退社し『やる気あり美』を発足。「世の中とLGBTのグッとくる接点」となるようなアート、エンタメコンテンツの企画、制作を行っている。