コミュニケーションは急げない。ー ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ VOL.19
2019.06.25 UP

コミュニケーションは急げない。ー ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ VOL.19

DIVERSITY

先日、あるパーティに参加した。パーティというものは、交流の輪の生まれて消えるスピードがめまぐるしくて、いつも参る。僕は人とのコミュニケーションに善くも悪くも力みすぎる人間なので、軽やかに輪を渡り歩くことができない。「せめて顔くらい!」とやたらニコニコしてしまうが、その笑顔もおそらく過剰で、思ってもみないタイミングで「おもしろいですね」と言われてしまったりするから難しい。よく「入れてもらってもいいですか?」と輪に飛び込んでいく人を見かけるが、あれは天才なのだろうかと真面目に思う。パーティは苦手だ。

そんなわけでこの日もとても緊張していて、もう出だしからすっかり早く帰りたかった。交流する気なんて早々にせて、いそいそと軽食の列に並んでは唐揚げを6つも盛り、「次はビールだ……!」と意気込んでいたが、一緒にいた友人Sの知り合いという女の子が、数人の男女をつれて話しかけてきて、パーティに呑まれるしかなくなった(ひぃ!)。

輪になってすぐに自己紹介が始まる。順番に名前と自分の仕事について話すという定番の流れになり、僕は「変な名前で恐縮なんですけど……」と面倒くさい前置きを添えて『やる気あり美』について話した。もちろん「僕もゲイなんですよ」と伝えた。

するとこの日は、皆が「えー!」と声を出して嬉しそうにした。はいはい、こっちね、と思った。カミングアウトをやたらと喜ぶ人たちにはもう何度も会ってきたが、彼らは“ゲイ”に何か救いのようなものを期待していて、だいたい「ゲイの友達が欲しかった!」と言ったり、あれこれと質問してきたりする。この日も例に漏れずそうで、僕は「タイプは意外と幅広いんですよー」とか、「夜に関する質問はちょっと事務所通してもらえますか?」とか適当なことを言って笑っていたが、ある男性が「ゲイなんだ、ウケる」と言った時、ちょっと驚くことが起きた。突然Sが「別に、ウケはしないですけどね」と言ったのだ。

僕はあまりにも想定外なできごとに、「え」と声が出てしまった。横目にSの顔をチラリと見たら、笑ってはいたけれど、明らかに不愉快さがにじんでいて、なぜか僕が焦ってしまうことになった。一生懸命笑いをとって和やかさを取り戻したが、その後は何ともない話をしてすぐに解散。暇になったSと僕は壁際のハイテーブルに陣取り、スケートリンクを見つめる疲れた親のように、人がうごめく会場を見ていた。そして、たらふくビールを飲んで帰った。

帰り道、Sが「ああいうのダルいな」と言ってきて嬉しかったが、それよりも内心笑いをこらえるのに必死だった。だってSは、僕がカミングアウトした当時、「ウケる」と言ったからだ。

自分のやってきたことは間違いじゃなかったんだなぁ、と僕は思った。ゲイであることをオープンにしてからというもの、周囲の人に何か傷つくことを言われても絶対に説教はしない、という姿勢を貫いてきた僕は、「ウケる」と言われても、怒ったことはなかった。だって「ウケないで!」なんて言っても無理に決まっているのだから。その分「かっこいい」と思ってもらえる瞬間を積み重ねようと意識してきた。人の心を変えたい時に、頭に働きかけたって効率が悪いのだ。

というか、恋愛も友情もカミングアウトも、コミュニケーションって急げないのだと思う。デートは3回目が大事だとか、新学期が始まったらどうのこうのだとか、そんなティップスはいつの時代も湧いて出てくるけれど、絆が、愛が、そんなに簡単に深まるのなら、この世はもっとそれであふれているはずだ。Sが、僕ではないLGBTの人にこれから出会った時、すごくいい顔で「そうなんですね」と言うんだろうなと思うと嬉しい。僕らはこの日、もう一軒飲みに行った。恵比寿の沿道で見たイルミネーションがすごくきれいだった。

文・太田尚樹 イラスト・井上 涼

本記事は雑誌ソトコト2018年6月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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太田尚樹

おおた・なおき
1988年大阪生まれのゲイ。バレーボールが死ぬほど好き。編集者・ライター。神戸大学を卒業後、リクルートに入社。その後退社し『やる気あり美』を発足。「世の中とLGBTのグッとくる接点」となるようなアート、エンタメコンテンツの企画、制作を行っている。