田中輝美さん
2020.07.25 UP

過疎先進県・島根のローカルジャーナリスト。田中輝美さん、関係人口って、なんですか?

LOCAL

※本記事は雑誌ソトコト2018年2月号の内容を掲載しています。記載されている内容は発刊当時の情報です。本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

移住・定住人口や、交流・観光人口だけが地域と関わる人たちではないはずと、そこに住んでいなくても地域と多様に関わる「関係人口」の価値を唱える田中輝美さん。10組の島根県の関係人口を紹介しながら、関係人口について考えます!

「地域に貢献したい」と語る若い人はたくさんいる!

 こんにちは、ローカルジャーナリストの田中輝美です。島根県松江市に暮らし、地域を取材しながらその魅力や課題を地域内外に発信しています。以前は、地方新聞社の『山陰中央新報社』の記者として、人口減少問題などを取材していました。「過疎」という言葉の発祥地は、私のふるさと島根なんです。2009年から3年間は東京支社に赴任しました。その3年間の東京暮らしで、私の地方観は大きく変わりました。

 当時、島根県出身の若手経営者でつくる「ネクスト島根」という会が東京で結成され、私も仲間に入って取材していたのですが、ある夜、多忙な経営者たちが20人ほど集まり、「ネクスト島根」が果たすべき役割についてさんざん議論しました。結論は、「ふるさとに貢献したい」という熱いひと言。私は感動しました。島根から遠く離れた東京で、ふるさとのことをこんなにも思っている若い人たちがたくさんいることに。

 その思いを受けた私は、彼らと島根をつなごうと、文字どおり東奔西走しました。ところが、これは島根に限らず全国の地域の人たちから返される言葉だと思いますが、「でもその人たち、島根に住んでないんでしょ?」。当時は、「住んでいないから」という理由だけで、つながりを拒む地域住民がいたのです。いえ、今もそうかもしれません。地域への移住・定住は、「地域に貢献したい」と考える東京の地方出身者に差し出される「交換条件」なのです。

しまコトアカデミーソーシャル人材育成講座
2012年より島根県が東京で開催している「しまコトアカデミー ソーシャル人材育成講座」のイベントの様子。田中さん(右中央)は最初期からアドバイザーとして関わっている。

 東京には、「ネクスト島根」のメンバー以外にも、「移住して地域に貢献したい」と熱く語る地方出身者に数多く出会いました。実際に、過疎地を対象にした、総務省の「田園回帰」に関する調査研究会の都市住民に対するアンケートでも、農山漁村に「移住してみたい」と答えたのは全体の30.6パーセント。20代と30代が多く、なかでも最も高かったのは20代男性で43.8パーセントもいました。ただ、そのなかで「移住する予定がある」と答えたのはわずか1.0パーセント。20代女性は、32.1パーセントが「移住してみたい」と答えましたが、「移住する予定がある」は1.7パーセント。この差はどこからくるのでしょう。やはり、生活が大きく変わる移住はハードルが高いこと、そして「定住しなくては地域に関わる資格がない」という地域側からのプレッシャーのような空気もあるのではないでしょうか。実際、ある地域の住民が、「ここに骨を埋める覚悟はあるのか?」と、都会から来た若者に迫る現場を見たことがあります。

 もちろん、地域の人たちが呪文のように「で、住むのか?」と口にする気持ちも理解できなくはありません。これまで多くの若者が出て行った地域は、せっかく育てた、あるいは、つながりを持った若者がいなくなるという経験を積み重ねてきて、やはり傷ついているのだと思います。都会から来た移住者が地域をかき回して去って行ったということだってあったかもしれません。その結果、地域にとっては、住むということがどうしても大きな条件や前提のようなものになってしまい、都会の若者は「定住するか、しないか」という究極の選択でしか地域と関わることができなくなってしまったのではないでしょうか。

定住人口? 交流人口? いいえ、「関係人口」です!

 それは、残念すぎる! 「移住するか、しないか」だけでなく、「ネクスト島根」のように、東京で暮らし、会社を経営しながら「ふるさとに貢献したい」とチャンスやタイミングを待っている若者もたくさんいるのです。その思いは0か100かに2分できるものではなく、15の人もいれば、50の人もいる。いや、むしろ1以上99以下の範囲の関わり方を望む若者のほうが圧倒的に多いと感じます。地域に対する都会の人たちの「少しの関心」の行き場がなくなってしまっているのです。そうした関わり方を認めないのは、地域にとって非常にもったいないこと。

 そこで私は、ある言葉に出合いました。それが、特集のテーマになっている「関係人口」です。移住・定住人口でもなく、交流・観光人口でもない新しい考え方、関係人口。その地域に住んでいなくても、東京など都会に暮らしながら多様なかたちで地域に関わる人々であり、仲間のことです。今、日本の地方は、移住・定住人口を奪い合うことで疲弊しています。交流・観光人口も、地域の役に立ちたいという若い世代のニーズを踏まえたものにはなっていません。関係人口こそが、地方と都市の若者がウィン・ウィンの関係になれる第三の道なのです。

 ではいったい、関係人口とはどんな人たちで、地方とどんな関わりを持てば関係人口と呼ばれるのか? 答えは、バックナンバーでご覧ください。

photographs by Hiroshi Takaoka text by Kentaro Matsui