笑いの型は、棚卸が肝心。ー ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ VOL.31
2019.06.02 UP

ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ 笑いの型は、棚卸が肝心。ー ゲイの僕にも、星はキレイで肉はウマイ VOL.31

DIVERSITY

半年以上かけて取り組んできたプロジェクトがある。いくつかの企業とフリーランスが合計10名以上集まって進めてきたプロジェクトだ。先日そのプロジェクトが一旦区切りとなって、打ち上げをすることになった。目黒にある個室の居酒屋で久しぶりに会った面々の頬は少し紅潮して見えて、おそらく店内の照明が一番の要因なのだろうけれど、「みんなそれぞれにプロジェクトを気持ちよく終えられたからなのかなあ」と想像したら気分がよかった。僕自身、なかなか頑張った半年だった。皆が揃ったところで、小気味よくリーダーが挨拶をしてくれて、とても機嫌よく乾杯をした。

場を仕切ってくれたのはインターンの女子学生だった。プロジェクト進行中もいろんな雑務や事務作業を嫌な顔ひとつせずこなしてくれた彼女は、なんでも笑ってくれる気さくな子で、僕らはいつも彼女に甘えっぱなしだった。議論が白熱した時に場を和ませてくれたのは、いつも彼女だった。

だからだったのか、だんだんと酔いが回ってきたところで、ある男性メンバーが、立ち話をしていた彼女の背中を見て「女子大生のお尻を見て飲めるなんて最高だわ!」と言ったのだった。その場には女性がインターン生を除いて2人しかいなかったのもあってか、大きく場の空気が冷え込むようなことはなかった。みんなどちらかと言うと盛り上がったままで、とにかく「ちょっと〜!」「セクハラですよー!」と急いでツッコミを入れ、その声もすぐに喧噪に飲まれた。

まあ正直ここまでくらいは「無礼講」として片付けていいレベルかなと僕は思っていたが、結局そこから彼がけた「無礼講」の火はまったく消えなかった。男性陣が油を注いでいく。今度は彼女に対して「この中で一番つき合いたくないのは誰!?」と聞き、そのまま僕に「じゃあ太田さん! この中で3人、いい男選ぶとしたら誰ですか!!」ときた。

僕はめんどくさいなあと思いながらも、こういうノリは慣れ切っているので、逡巡するより早く終わらせようと「◯◯さんかな〜! ほかは全員無理!!」と笑って返した。そしたら、それがまた彼らを高揚させてしまって「あと2人どうしても選んでよ〜!」とせがんでくる。僕が「え〜!」と返しても、しつこく迫るのを見かねて、隣の女性が「その質問、私にしたら完全にセクハラですよね。太田さんにはしていいんですか?」と言ってくれた。だけど、それも焼け石に水。まったく男性陣の勢いは止まらず、結局会の終わりまでその調子で走りきってしまった。

彼らはしきりに「冗談じゃ〜ん!」と言っていた。彼らの肩を持ちたいわけではないが、冗談は、受け手にとって冗談じゃなければ冗談じゃない、とは僕は思わない。相手にどう感じられるかばかりを考えて言う冗談なんて、それこそ冗談じゃない。

だから大事なのは「冗談じゃん」と言った時に、相手が嫌悪感を示すかどうかにちゃんと敏感であることだと思う。今回、しきりに静止しようとする女性がいたにもかかわらず「冗談じゃん」のまま終わった彼らは若かりし頃、「とんねるず的」な笑いと共に育ってきたような世代だった。彼らの「軽いセクハラはオジサンの愛嬌」という刷り込みはなかなか消えないのだなと思った。

だけど、やっぱりそういう“笑い”はもう終わったのだ。それはシンプルに、今じゃ不快な人のほうが多いからだ。だからこういう事態を避けるために、皆もっと「自分の“笑い”の型を棚卸しする」という習慣を持つといいだろう。信頼できる友人や家族に「普段こんな感じで笑いをとってるんだけど、どう思う?」とちゃんと確認する習慣は大切にしたい。

ちなみに僕は、好きな友人にほど「バカ」とか「アホ」とか冷たいツッコミをする癖があって、最近親友に「そういうのやめたほうがいいと思うよ」と言われ、やめると誓ったところだ。人は「これでいいのだ」と思わない限り、変わり続ける。「とんねるず的」な皆さんも、アップデートを続けてほしい。

文・太田尚樹 イラスト・井上 涼

本記事は雑誌ソトコト2019年6月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

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太田尚樹

おおた・なおき
1988年大阪生まれのゲイ。バレーボールが死ぬほど好き。編集者・ライター。神戸大学を卒業後、リクルートに入社。その後退社し『やる気あり美』を発足。「世の中とLGBTのグッとくる接点」となるようなアート、エンタメコンテンツの企画、制作を行っている。