試合の楽しさを向上することだけにとどまらない、パートナーシップとCXがもたらす地域との関わり方
2020.08.19 UP

連載 | FC今治が、今治.夢スポーツである理由。 | 10 試合の楽しさを向上することだけにとどまらない、パートナーシップとCXがもたらす地域との関わり方

WORK

デロイトのスタッフまでファンになる、地域密着型クラブの魅力とは

森松 当初は私の所属する部門のリーダーから、せっかくビジネスでやってるのだから、調査だけではなく改善まで含めて実践し、この経験をいろいろなところに応用していこうという話があって、FC今治さんとの取り組みが始まりました。当初はメンバー4人だったのですが実際にプロジェクトが始まってその情報が社内に共有されると、勧誘したわけではないのですが、社内の色々なところから「一緒にやらせてもらえないか?」という声が相当数集まりだしまして。今メンバーは20人を超えてます。

今年はコロナの影響もありまだ活動できていないのですが、昨年の実績で言えば20人のメンバーで役割分担をして、過去ワークショップで4回、アンケート配布で3回ほど今治に行っています。毎回その度に行ける枠は決まっているので争奪戦なのですが、それは単純にサッカーの試合が見たいだけ、なんてことは全然なくて(笑)。「今治の皆さんと話がしたい」だったり、試合の際は前日に入って設営から手伝わせてもらうのですが、設営も楽しみにしていたりとか、ワークショップをする際も皆さん真剣に取り組んでいただけるので、毎回枠の奪い合いのような人気になっています。

デロイトスタッフ

今治のホームだけではなく、東京でアウェイの試合があったときも、結構な参加希望者が集まって、FC今治のサポーターの皆さんと一緒になって応援しました。グッズの人気も高く、行けないスタッフは行くスタッフに買ってきてとお願いしているくらいです。

一般的にはスポンサーとかパートナーしてるところからよく聞くのは、あーやってるんだーくらいの感覚だと。今治の場合、東京の人だと、どの辺りにあるのかわからない人もいると思うんです。でも、ほんとみんなファンになってくれましたね。私は愛媛県出身なので、今治に行きたいと言われると嬉しくなるし、行き帰りの移動でも、今治や松山の観光名所を案内したりしています。

今治が今の日本のスポーツビジネスが進む形の先端を行く形になりつつある

植野 2つあります。1つ目は最先端というとおこがましいのですが、今のような、デロイトの皆様がファンとなって僕たちと一緒に取り組んで行こうと。今までは先程森松さんが仰られた通り、スポンサーシップってお金だけの関係だけなのが多い中、協業してやっていくっていうのが新しい形なんじゃないかなと思っています。狙ってやったわけではないのですが、結果として多くの方に関わっていただけるようになりましたし、私達も可視化されることで自分たちも意識するようになりましたし、そういうことが新しいスポンサーシップの形、単純に広告看板胸スポンサーだけでは難しいというか、お互いメリットをしっかりと感じられるような関係が気づけたのがあります。呼応する形でやっていかないといけない、とくに地方、僕らのように地方で親会社がないチームは関係値をいかに作っていくかが大事だと思います。

2つ目は、Jリーグもそうですけど、デジタル化、そして個人に対していかにサービスを提供していくのかという中で、お客様を可視化していき、属性そしてお客様をより理解して、お客様がより満足していただけることをやっていこうという体制を整えることが他のクラブよりも新しく取り入れてることなのかなと思っています。満足度調査自体はJリーグも年に1回実施していて、その中で属性調査などもやっているのですが、これだけ定期的に実施し改善していく形をとっているのはなかなか無いんじゃないかなと思っています。そもそものスタート時点が、川崎フロンターレさんもそうですけど、満員のスタジアムがあってスポーツビジネスは成り立つという岡田会長の考え方にもありますので、満員のスタジアムをいかに実現するかを考えると、お客様をより深く理解しないといけないと思います。そしてそのためにはどうしたら良いのかというところからスタートしているので、こういう形を日本のスポーツビジネスでは作らないと、お客様をスタジアムに動員することは出来ないしスポンサーも付かないしという悪循環になってしまいます。

こういう形で少しでも成果を出してスポンサー様に満足していただいて皆様と協業させていただいて進んでいくというのが地方ならではの形になるのではないかなと思っています。
 
森松 植野さんがおっしゃったようにパートナーシップと言いますか、スポンサーアクティベーションという言葉も最近は使われていますけど、それを地でやってるという自負はあります。それがなんで出来たのかと考えてみると、普段から植野さんを始めFC今治の皆さんがすごく真剣に考えていらっしゃるというのが大前提であるのですが、最初に岡田さんとお話させて頂いた時に何がしたいのかが共有できていたんですね。この3か国比較のレポートを作った際に岡田さんからコメントをもらおうというところから始まったのですが、説明した時にこの調査は面白いとおっしゃって下さって。「実は俺らも考えててさ」と仰って、お互い出来ることを探しましょうというよりかは、これって面白いですよね、となって共感の下でやっていこうとなったので、植野さん達と始まってもぶれずにすごく大きなことが出来たと思っています。結果的に今年Jリーグさんで同様のプロジェクトが動いていることの背景には、今治でやったことが大変参考になったからだと思いますし、今治さんの取り組みは大きな影響を与えているなと感じています。

デロイトスタッフ

もう一つはこれからのチャレンジになると思うのですが、今治に住んでない人のファンが増えてくると思うんですね。行きたくても行けない、でも何か気になる、言わばにわか層みたいなところですけど、そこをうまく引き込んでいくか、ということです。今治に来ていただいた時はもちろんそうですけど、来れない時でもデジタルでどうつながっていくのかといった面など、なにか新しいことが出来るのではないかと感じています。

Jリーグにも導入し、よりスポーツビジネスを発展させながら地域を元気にするモデルになる

植野 Jリーグと言うよりも57クラブある中で、親会社がないクラブがたくさんある中、地方でどうやって生き残っていくのかを考えると、やっぱりお客様をいかに集めて、スポーツチームとしての価値を高めて、ブランドを買っていただいて、スポンサーさんとともに地域で頑張っていく事が求められている事だと思うので、そのために欠かせないことが、お客様を理解することで、お客様を理解して初めて自分たちに足りてないことややらないといけない事が分かってくると思いますし、そこをJリーグには理解していただいて導入が今年決まったんじゃないかなと思っています。なので、僕たちの事例がこういった貢献になるなら、やっぱり新しいことをどんどんチャレンジしていき、うちが満員のスタジアムを実現して他のクラブの模範となるクラブになっていきたいと考えています。矢野さんだったら「おこがましい」と言うと思いますが、そんな形で成長していきたいなと思います。
 
森松 実はJリーグでプロジェクトをやっている時に我々も今治さんの例をお話するのですが、そうすると「今治は特別だよ」と言われることがあります。よくよく聞いてみると(取り組みが)もう進んでいるからという意味なんですね。それほど考え抜いてやってるからそこまで出来るんだけど、Jリーグ全体が全てそうなっているわけでもないので、もっとしっかり取り組んでいかなければと思います。「観戦体験」を真剣に考えていらっしゃる方は、今治さんがどれくらい考えてやっているかを分かっていらっしゃいます。

デロイトスタッフ

地域という観点でも、自分の故郷の愛媛県で、松山出身なので少し嫉妬もあって(笑)、なんで今治なんだよというのもあるのですけど、これだけすごいクラブがあって、私が真剣に取り組んでいるビジネスのテーマが実際に動いている。それはとても大きいなと思っています。元々野球のまちだった今治にサッカーが根付いてきていると思いますが、楽しみ方がみんな面白いというのが今治の特徴かなと思っています。必ずしもゴール裏だけの喜び方だけじゃ無いですし、サッカーに詳しくはないと思われる方でも、選手の名前をしっかり覚えてて、出てきた瞬間に大盛りあがりしていて、年配のお客様の中には自分の孫を応援するかのように盛り上がっている方もいらっしゃいます。

もう一つ興味深いのはアウェイに対するおもてなし感が凄いなと思っています。これはJ3にあがった今季からも同じことをされると思うのですが、対立を煽るのではなくて、スタジアムに来た方に何を喜んでもらおうかという事を考えて運営してると思うんですね。今治のファンがアウェイのファンをおもてなしすることがどんどん広がっていくんじゃないかと思っています。そういう事ができるのはサッカーでは凄いのですが、そういうところもこれから今治が特徴的なクラブとしてずっと浸透してい側面だろうなと思っています。
 

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キーワード

森松 誠二

もりまつせいじ
デロイト トーマツ コンサルティング合同会社
アソシエイトディレクター / カスタマー・エクスペリエンス・デザイナー
Customer & Marketing
CRMを中心に20年以上のコンサルティング経験を有する。
戦略策定から業務設計、IT導入およびチェンジマネジメントのプロジェクト経験を元に、顧客体験(CX)向上のコンサルティングに注力し、主にスポーツ、MaaSおよびヘルスマネジメント領域におけるCXの設計を担当する。
公益財団法人 日本ハンドボール協会 戦略企画委員会 委員、日本モビリティ・マネジメント会議(JCOMM)会員、JCoMaaS会員、Customer Experience Professional Association 会員

植野 準太

うえの・じゅんた
1983年大阪府生まれ。
2009年、慶應義塾大学大学院政策メディア研究科卒業後、ITコンサルティング企業に入社。
その後ベンチャー企業にてSNSサービスの立ち上げ、SNSマーケティング支援会社を経て、現職。
FC今治が掲げる「物の豊かさより心の豊かさを大切にする社会創りに貢献する」という企業理念に共感し、2017年に東京から愛媛県今治市に移住。
現在は、広報とデジタル面において満員のスタジアム実現に向けて取り組んでいる。
2019年、名古屋商科大学ビジネススクールにてMBAを取得。
2020年9月より慶應義塾大学大学院政策メディア研究科博士過程に進学し地域活性化におけるプロスポーツチーム、スタジアムに関するテーマに研究活動に取り組む。