「微住」発祥の記念式典をオンラインで開催。
2020.08.21 UP

連載 | 田中佑典の現在、アジア微住中 | 18 「微住」発祥の記念式典をオンラインで開催。

LOCAL

 福井県を台湾に紹介した書籍『青花魚(さば)』。「微住」という言葉はこの本から生まれた。その中でも『青花魚』編集室として微住中の作業や寝泊まりをさせていただいた住職兼庭師の佐々木教幸さん家の庭にて、去る5月30日、微住発祥の地を記念した石碑の除幕式が行われた。本来であれば 3月に新たな微住者受け入れと併せて除幕式を行う予定だったが、新型コロナウィルス感染対策の影響で延期となっていた。このままウィルスの影響が収束するまで待つことも考えたが、せっかくであればオンラインを駆使し、この状況だからこその形で式を敢行した。当日は地域のみんなの知恵や力をフル稼働させ、これまでオンラインやインターネットには無縁であった佐々木家の会場の様子をもはや地方のテレビ局のロケかと思うほどの態勢で配信。式では『青花魚』を手がけた台湾の『秋刀魚(さんま)』編集部のみんなや、これまで福井に微住で訪れた台湾のみなさん、そして微住を受け入れている福井県各地のみなさんと、日本と台湾、各地をつないだ。

もともとネットが開通していなかった佐々木家に近くの家から有線でネットをつなぐ。これぞ地域ネットワーク。
もともとネットが開通していなかった佐々木家に近くの家から有線でネットをつなぐ。これぞ地域ネットワーク。
福井県知事・杉本達治さんから微住に対しての激励のお言葉をいただく。
福井県知事・杉本達治さんから微住に対しての激励のお言葉をいただく。

「めんどくさい」も地域資源。これからの魅力ある地域の条件とは。

 これまで地域の魅力を表現するうえで当たり前のようにその土地の食や自然など名詞が挙げられることが多かったが、最近ではできる限り形容詞で表せられないかと考えている。形容詞化できることはその地域が“キャラ立ち”できている証しだ。ここ東郷地区を表す形容詞は「めんどくさい」である。かつて福井県に住んでいた子どもの頃、東郷という地名を聞いたことはあったけど行く機会はなく、周りから「東郷はほかのまちに比べて地域の行事も多いし、近所づき合いや縄張りもきついし、とても大変」ということを聞いたことがある。福井県を離れた後、佐々木さんと出会い、東郷と接点を持ち始める中で、噂どおり毎週のように地域の行事があったり、日々みなさん地域のために集まり、一見、生活上必要ではないことも多々あった。そして東郷の人たちのそこに対する原動力は、お金のためや利己的なものではないことに驚いた。この感じはきっと東郷に限ったものではないだろう。昔はどの地域も東郷のように「めんどくささ」が存在していたけれど、経済の発展のため都市化するまちづくりにおいて、効率性や利便性が理由で失われていった。

 佐々木さんと出会った直後、東郷の魅力をPRするロゴやデザインを一緒に作ろうと声をかけてくれた。東郷はまちの真ん中を川が流れ、田園風景が広がり、周りは山々が囲まれた地域で、それを僕は「日本の原風景」と打ち出した。当時は気づかなかったけど、原風景とは表層的な自然だけの話ではなく、人と土地の本来の関係性自体をとらえるべきだったと今では思う。それを僕は「めんどくさい」という形容詞で表したい。もちろんよい意味で。

除幕式の様子も収録された微住PVは、YouTubeで検索してご覧ください。
除幕式の様子も収録された微住PVは、YouTubeで検索してご覧ください。
すでにわざわざ石碑の写真を撮りにくる人もいらっしゃるとか。
すでにわざわざ石碑の写真を撮りにくる人もいらっしゃるとか。

「土徳」をもう一度捉え直す時が来た。

 東郷の人たちのこの「めんどくささ」に共通する精神性とは何なのか。

 北陸には昔から「土徳」という言葉がある。といっても辞書には載っていない、本来は浄土真宗の教えから生まれた言葉だ。しかし難しい意味はなく文字通り、生まれた場所や生きている地域に対して感謝をする心を持つべしという教えである。そこから「おかげさま」という、普段我々が使う言葉にもつながっていく。その土地に生かされている身として、土地に感謝をし、生かされている同士、周りと「共同体」として地域の自然や文化を守る、その心が東郷の人たちには根付いている。

 本来僕自身の生業に「移動」というものは欠かせない要素であり、僕自身「風の人」のようにアジア微住をやってきた。コロナ渦で移動ができない現在、むしろこれまで当たり前だった移動ができない中で、今回の除幕式を行い、そこで改めて感じたことがあった。

 福井県の中でも最も早く「風」の存在である微住者を受け入れ、微住発祥の地となった東郷。「土」は「風」のないところでは育たない。

 地域の美しいテリトリーデザインの時代へ。地域に必要な外からの「風」と、地域の守るべき「土」。それが合わさってこそ新たな「風土」が育まれる。

-----

活動の詳細はこちらからも▷ 微住.com  福井微住.com 

記事は雑誌ソトコト2020年9月号の内容を本ウェブサイト用に調整したものです。記載されている内容は発刊当時の情報であり、本日時点での状況と異なる可能性があります。あらかじめご了承ください。

キーワード

田中佑典

たなか・ゆうすけ
職業・生活芸人。アウトサイダーの視点で、台湾と日本をつなぐ「台日系カルチャー」の発信を続けてきたが、その足場をアジア全体に拡大。自ら提唱する「微住(びじゅう)」とは一つの場所で2週間以上滞在してみること。観光以上、移住未満でアジアを俯瞰する。